一瞬だけの希望
「あの、この町には他に誰も居ませんけど、何か有ったのですか?」
姉さんの声により何とか落ち着きを取り戻した母親から事情を聞いてみた。
すると母親は縋り付くような目で俺達に強く迫って来た。
「あなた達、冒険者だろうと悪い事は言いません! すぐにこの町から逃げて下さい!」
「逃げる?」
「そうです! そしてお願いです私達も、せめてこの子達だけでも連れて逃げて下さい!」
話が全く見えない。急に子供を託されたって、どう答えれば良いものか。
「落ち着いて下さい。そして今この町で何が起こっているのかを説明して下さい」
姉さんが再び声で癒す。やっぱりこっちまで癒されそうな声だ。
「魔族です。魔族が町を襲って来ました!」
「魔族?」
復活した魔王の臣下で、人間よりも強靭な肉体と強い魔力を持つ。と聞いている。
「その魔族が何をしたのですか?」
「この近くを最近見つかった聖女様が通るらしいので、町の人間を広場に集めて人質にするそうです」
「何だって!」
思わず姉さんと顔を見合わせる。
「情報が魔族にダダ漏れね」
「うん。でもタイミング的にエミリーは通り過ぎたばかりだろ?」
エミリーと神官や役人の一行がこの町に立ち寄った時にその状況なら人質作戦が効果有ったかも知れないけど、過ぎ去った後だと無意味だよな。
わざわざ引き返す事は無いだろうから。
作戦は完全に破綻して誰も得しない状態になってる。魔族って高度な知能の持ち主だよな?
でも実は意外と間抜け?
「相手が魔族なら私が何とか出来ると思うわ」
「姉さん」
ここで姉さんが目立つ事をすると姉さん自身が望まない事になるんじゃないかと心配になる。
「大丈夫よ。利用されるのは真っ平ごめんだけど、私が自らやる気になっているのよ」
「姉さん」
「それに私達の冒険者としてのスタートを飾りたいじゃない!」
姉さんは不敵に、それでいて楽しそうに微笑む。
「そうだな。やってやろうぜ!」
とは言ったものの、実は魔族なんか見た事も無い。だから当然、戦った事が有る筈も無い。
姉さんの凄い自信からして、これはもう頼るしか無いな。姉さんが命綱だ。
「ねえクリス君、実は私って魔族と戦った事が無いのよ」
「えっ?」
ナイフで命綱を目の前で切られたかの様な絶望を味わった。
「理論的には私の破邪で倒せる筈なんだけど、初めてってやっぱり不安よね」
はい、不安です。不安しか有りません。




