蘇った記憶
「くりすしょうたです、5歳です!」
見た事が有る気がする。
これは俺の過去の記憶なのか?
目に映る人々は全て俺と肌や髪の色が同じだ。着ている服も今のと全然違う。
もしそうなら俺が5歳の頃の記憶という事になる。
見ていると何となく思い出してきた。この頃はまだ幸せだったと。
「今日でお別れだけど、お父さんでいさせてくれてありがとう」
そうだ、完璧に思い出した。
この人だ。両親が離婚してからは1度しか会って無いけど俺の父親だった人。とても優しかった事は覚えている。だが残念ながら俺とは血は繋がってない。
後から聞いた話だが俺は母親と浮気相手との間に出来た子供だそうだ。
ちなみに俺の名前は母親の元カレ達の名前を適当に組み合わせた名前らしい。
だから下の名前は嫌いだ。離婚後の母親の姓も。
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「お前なんか産むんじゃなかった!」
耳にこびり付く金切り声。これは母親に毎日の様に言われた言葉だ。
「お前を見てるとムカつくんだよ!」
母親はその後、何人かの男と一緒に住んだが、その全員から言われた言葉だ。言葉だけならまだマシだ。
虐待は日常茶飯事で衣食住は最低限、学校給食が唯一のまともな食事だった。もっとも給食費は払ってなかったらしい。
そのせいでイジメられたが教師は放置していたな。
これが俺の負け犬人生の原点か。
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「ウチに来ないか?」
これは13歳の時に血の繋がらない元父親から掛けてもらった言葉だ。
この頃の母親は借金がどうしようもなく膨れ上がりその時に一緒だった男と蒸発した。
以後、生きているのか死んだのかも分からない。
借金取りが連日連夜訪れる安アパートも家賃滞納で出ていかなくてはならない。
天涯孤独となり行き場の無くなった俺に救いの手を差し伸べてくれたのは、5歳で別れた血の繋がらない元父親だった。
どこから話が行ったのかは知らないが、久し振りの再会の時には涙ながらに抱き締めてくれた。
「大丈夫だよ。施設に行こうと思ってる」
元父親の現状を聞くととてもじゃないが転がり込む訳には行かなかった。
元父親は再婚して幸せな家庭を築いていた。再婚相手である奥さんも優しい人で、俺を引き取る事に前向きらしい。
だが2人の間には子供が3人居るそうだ。これから金も掛かる。それを考えるといきなり中学生の俺が入り込める程の経済的な余裕が有るとは思えなかった。
だから俺がそこに入ったら折角の幸せな家庭を壊しそうな気がして、施設に行くなんて言ってしまった。
それ以降の俺はこの時の選択を何か有る度に後悔し続ける事になる。
「13歳のあの日に戻れれば」
思わない日は無かった。
そんな俺は中学卒業後は建設現場で工事の仕事に就き定時制高校に通って、ブラック企業を渡り歩いて現在のウォーターサーバーの会社に流れ着いた。
そして俺はあの夜、新橋駅で死んだ筈だった。
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「おいお前、いい加減に起きろや!」
ホームから落ちた筈の俺は見た事の無い所に居た。
白亜の石造りの広い部屋で、俺は古代ギリシャを連想させる白い衣を来た3人の男女に見下されている。
さっきの言葉は禿げた頭とそれとは真逆のフサフサの白い髭が目を引く年寄りの言葉だ。
「やはり転生させましょう!」
これは若い女性だ。長い金髪に思わず見惚れてしまう。
「いえ、この姿で転移でしょう」
今度は若い男だ。真面目で気難しそうな顔をしている。
「過去に戻ってやり直しをするんじゃ!」
「転生よ!」
「違う世界に転移させるべきです!」
どうやら3人は俺をどうするかで揉めている様だ。っていうか、この3人は神様なのか?
「あの、すみません。あなた達は神様でしょうか? そして私は死んだのではないのですか?」
言い争う3人に恐る恐る聞いてみた。
「神だと思いたければ思うが良い。確かにお前は死ぬ筈だったのじゃ。だがのう」
「少し前に死んだ男から頼まれたのよ」
「その者は善行を積んでいた。それ故何か褒美を考えていたが、それはお前に使って欲しいと」
年寄り、女、若い男の順に説明してくれた。そしてその善行を積んだ男は1人しか心当たりがない。
「その男は、まさか父さん? 父さんは死んだのですか?」
父さんが亡くなった事は悲しい。だがそれ以上に驚いた。
「だからお前はやり直しの機会を得た。殊勝な事よの。ホッホッホ」
年寄りが笑っている。俺も笑いたくなる、父さんの親バカ振りに。
「それで、アンタの希望は?」
「俺の希望ですか?」
今の選択肢は、13歳のあの時に戻る。異世界転生、このままの肉体で異世界転移の3つか。
13歳に戻るのは願ったり叶ったりだ。でもそれで父さんに負担を掛けて良いのだろうか。
それなら心機一転の異世界も良いかもしれない。
「13歳と転移か。2つも選ぶとは強欲だがそれも良かろうて。その願い叶えてやろう」
「いえ、まだ確定した訳じゃ」
少し考えただけなのに俺の考えはお見通しなのか?
でも待って欲しい。もう少し考えさせてくれ!
「13歳の肉体で異なる世界へと行くが良い」
「ちょっと、転生はどうなるのよ!」
折衷案かよ。1人だけ採用されなかった女神が抗議する。俺も抗議したい。
「記憶を消すから転移と言っても転生に近い」
若い男の神が淡々と言うと女神は納得した様だ。
俺はイマイチ納得出来ないけど。




