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魔法少年になった仙人じいちゃんの驀進譚(ばくしんたん)◆書籍第二巻発売決定◆ESN大賞7奨励賞受賞◆  作者: 相有 枝緖
第五章

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220 魔法青年は釣られる

よろしくお願いいたします。



チェルシーの出産からおよそ半月、コーディたちはガスコイン領に滞在した。

二人とも経過は順調で、あえて問題をあげるなら、スタンリーが若干寝不足という程度だ。

現男爵夫妻もいるし、メイドたちも乳母もいるので人手は充分である。


「だって、あんなに小さいから本当に生きてるか不安で」

とは、スタンリーの言だ。

一時間に一回は確認に来るので、チェルシーが苦笑していた。


スタンリーの実家からは、祝いの品が届いた。

すぐに使える実用品からまだ早いだろうおもちゃ、今年醸造されたワイン、チェルシーのための甘味まで、馬車いっぱいに入っていた。

目録と一緒に渡されたスタンリー宛の手紙には、母子が落ち着くだろう三ヶ月後くらいに面会に来ると書いてあったそうだ。


「あと、医師が健康だって言うなら僕がつきっきりで見ていなくても大丈夫だから、心配するより先に魔獣でも倒しておけって」

どうやら、この状況を見越していたようである。

さすがスタンリーの両親だ。


「確かに、手は足りてるからね。カーヤも、毎日訪問はしてるけど、ずっといるわけでもないし」

カーヤは毎日の診察を終えてから、乳母に習って赤ん坊の世話も手伝っているという。

二時間ほどの訪問を終えたら、村の診療所に行ったり本を読んだり、自分の時間を過ごしている。


「わかってはいるんだけど。でも可愛いし、できればずっと見ていたいんだよね」

言いながら、スタンリーは破顔した。

でれでれである。


微笑ましいと思いつつ、コーディは友人として伝えた。

「効率的に仕事をして、空き時間に会うようにした方がいいかもね。スタンの仕事は、めぐりめぐってその子を守ることになるんだから」


ちなみに、赤ん坊の名前はまだ決まっていない。

プラーテンス王国では、生まれて半年くらいまでの間に決めるのが一般的なので、半年後にあるヘクターたちの結婚式に合わせて王都に行って、ついでに届け出る予定らしい。


平民の場合は命名したら住んでいる地域の役所に届け出ればいいだけだが、貴族の場合は王城に届け出る。

郵送でもいいらしいが、直接届ける家が多い。

これに関しては、ほとんどゲン担ぎのようなものらしい。


「じゃあ、また半年後かな」

コーディとカーヤは、別れの挨拶をしに来ていた。


ずっとプラーテンス王国にいてもいいのだが、医療関係の魔法陣も学んでみたいというカーヤのために、一度ハマメリス王国へ行くことにしたのだ。

あの国のアレオン総合書店はものすごい種類の本を扱っていたが、図書館もロスシルディアナ帝国が及ばないほどの蔵書量を誇るらしい。

そのハマメリス王国の図書館を利用して、医療関係の魔法陣から幅を広げていくつもりだ。


「うん。道中気を付けて」

「スタンも、無茶はしないで」

コーディとスタンリーが握手をしている向こう側では、チェルシーがカーヤに赤ん坊を抱っこさせてあげていた。


「半年後には、もっと大きくなっていらっしゃるんでしょうね」

「ええ。そのときには、またカーヤさんが抱っこしてあげてくれる?」

「もちろんです」

頬を赤く染めたカーヤは、穏やかに微笑んだ。




友人たちに別れを告げた二人は、飛行魔法でズマッリ王国との国境まで向かい、そこからは馬車で北上してハマメリス王国に入った。

ヘクターとブリタニーはズマッリ王国にいるので、顔を見せようかと考えていた。

しかし手紙で連絡を取ったところ、結婚式の準備と、式の前後で休むために仕事を片付けるのに忙しいようだったので、今回は遠慮した。


久しぶりに訪れたハマメリス王国の王都は、以前よりもどこか華やかな感じがした。

「まあ。あの建物は、五百年ほど前の意匠をあしらっていますね。もしかして、当時のレリーフをそのまま使っているのでしょうか」

「レリーフだけというか、あの一部分はそのまま保存しているようですね」

「保全技術も素晴らしいですわ」


カーヤは、街並みに強く興味をひかれているようだった。

芸術関係に強い興味のないコーディでは、せいぜいが歴史を感じる程度で素通りしてしまうところである。

「多分、そのあたりの歴史に詳しい本も、図書館にあると思います」

「楽しみです」


魔塔にいる間に、ハマメリス王国の図書館の利用許可を申請しておいたので、図書館の利用許可証をすぐに受け取ることができた。

かなり広い図書館で、全体の場所を把握して歩くだけでも半日はかかりそうなくらいである。

二人して、しばらくは図書館通いに精を出そうと決めたほどだ。


少し困ったのは、コーディたちの来訪を知ってやって来た、ハマメリス王国の魔法省の職員であった。

「どうか、お願いいたします!ほんの一時間でかまいませんので、どうか」

「そう言われましても、僕は研究者であって教育者ではありません」


彼は、コーディに「魔法研究にもっと興味を持ってもらうため、ハマメリス王国の魔法学校で特別授業をしてほしい」と言ってきたのだ。

カーヤに関しては、一から教えるというよりは学びたいことに向かうための道筋をたどる手伝いをしているだけだ。

突然授業をしてくれと言われても、「好きなように学びを進めてほしい」というくらいのことしか言えない。

何より、図書館にじっくり入り浸る時間を削るほどのメリットがあるとは思えない。


これがプラーテンス王国の魔法学園なら、母校ということで多少の愛着と恩義くらいはあるが、この国にはない。

里帰りしたときに聞いた限りでは、魔法学園でコーディたちが始めた放課後の勉強会が、その訓練方法を踏襲したクラブ活動のようになっていて、冒険者とも連携して南の森で自主的に訓練しているという。

コーディが置いていったものを取り込んで、自分たちの形にして続けているらしい。


研究までするほどの熱意があるなら、コーディがわざわざ講演などせずとも、自ら取り組んでいるはずだ。


とはいえ、そこまで言わないといけないのも煩わしい。

さてどう断ろうかと思っていると、何度も頭を下げていた職員が、ふと思い出したように言った。

「もしよろしければ、魔法学校の地下に残された超古代魔法王国時代の遺跡をご案内することも可能です。普段は封印しておりますが、ご足労いただけるというのであれば、特別に許可を出してもらいます」


コーディは、必死に頼み込む職員からカーヤへと視線を動かした。

隣に立つカーヤは、遺跡と聞いて目を輝かせていた。


さてどうしようかと考えていると、職員はさらに続けた。

「学園の閉架図書として封印してある古代魔法の本の閲覧許可も取ります!もちろん、滞在中は持ち出さなければ自由に見ていただけるようにいたします」


それは、コーディにとってはそれなりに魅力的な申し出だ。

結局、カーヤが遠慮がちにこちらを見たことで、コーディは決めた。


「……わかりました。遺跡と古代魔法の本をある程度自由に見せていただくことを報酬として、お引き受けします」

「ありがとうございます!!」

職員は、ほっとしたように肩の力を抜いた。


「研究に興味を持ってもらうような講演って、どういった内容を想定されているんですか?」

「はい!できれば、超古代魔法王国のことを絡めてお願いいたします。末裔と言われる家の子どもたちもいますので、きっと興味を持ってくれると思うのです」


どうやら、ハマメリス王国では研究離れが問題になっているらしい。

「冒険者を志す生徒が増えてしまって、保護者からも相談を受けているのです」


魔塔が各国と協力して六魔駕獣を倒した、というのはもはや大陸中に伝わっている話だ。

それを聞いた子どもたちが、官僚や騎士ではなく冒険者を志すようになったそうだ。

貴族の子はさすがにそこまで動けないようだが、平民で魔法を使える子どもたちが全員冒険者になってしまっては、将来国を動かす人がいなくなってしまう。


つまり、研究に興味を持たせるのも目的の一つだが、冒険者以外にも道があると教えてほしいらしい。


それくらい自分たちですればいいと思わなくもない。

だが、コーディの言葉がきっかけになるならそれも悪くはないだろう。


コーディは、報酬に釣られた言い訳を頭の中で並べながら、簡単な打ち合わせを行った。



読了ありがとうございました。

続きます。

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