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魔法少年になった仙人じいちゃんの驀進譚(ばくしんたん)◆書籍第二巻発売決定◆ESN大賞7奨励賞受賞◆  作者: 相有 枝緖
第五章

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205 魔法青年は怒られる

よろしくお願いいたします。



毎朝訓練をして、午前中はカーヤに魔法を教え、午後からは論文執筆と研究、たまに迷いの樹海での魔獣狩り。

コーディの日常は、久しぶりに穏やかに流れていた。





「そうです!上手ですね」

自宅の庭の一部は、完全に訓練用の場所と化している。

きちんとグリップが効く床よりも、土の方が訓練には良いというコーディの考えもある。


そして今、カーヤは連続で動く型を練習していた。

とはいっても、簡単なものだ。


左手で相手の攻撃を斜め下に逸らし、腰をひねるようにして右手で正拳突き。

ゆっくりとなぞる動きを早くするだけで、実戦でも使える技になる。


カーヤの場合は、目的が体を動かすことなので、速さや攻撃力は気にしていない。

しかし、思ったよりもカーヤの筋が良く、コーディは少しずつ神仙武術を指南している。


「楽しいです。わたくしはまだまだですが、コーディ様の型を見ていると、いないはずの相手が見えるような気がして」

タオルで汗を拭きながら、カーヤは目を細めた。


「そうですね。型は、踏み込んでくる相手の動きを想定したものですから」

「先ほどの動きであれば、相手が正拳突きをしてきたとかそういう感じですか?」

「ええ。ちょっとやってみましょうか」

「はい!」


パッと笑顔になったカーヤを見て、コーディは彼女の前に立った。



二人で型をなぞる組み手が楽しかったらしく、カーヤは頬が真っ赤になるまで頑張った。

結果、次の日に酷い筋肉痛になった。


「申し訳ありません、コーディ様」

「いいえ。僕の見極めが甘かったせいですから」

「そんなことはありません!わたくしが、自分を見失ってしまったためです」


カーヤは、ベッドからろくに起き上がれなくなっていた。


「今日はゆっくり休んでください」

「はい……。ですが、コーディ様にすべてさせてしまって」

カーヤは眉を下げた。


「大丈夫ですよ。家族として当然のことですから」

コーディがにっこりと笑顔を向けると、一瞬言葉をのみ込んだカーヤは軽く頭を下げた。


「ありがとうございます。ですが、ずっとわたくしの世話をしていただく必要はありませんから、魔塔に行ってください」

カーヤは、懇願するように言った。

本当に気にする必要はないのだが、コーディの邪魔をするのが嫌なのだろう。


「そうですね……。カーヤが部屋の中だけでも動けるなら、午後から行ってきます」

「ええ、少し時間はかかりますが、何とかなります」

力強くうなずくカーヤに、コーディは笑顔でうなずいた。


「わかりました。では、午後は魔塔に行きますね。夕食は買って帰りますから、ゆっくりしていてください。その痛みは体の中で炎症が起こっているからです。治すには、安静にするほかありません」

「かしこまりました」

しょぼんと肩を落とすカーヤは、謝罪の言葉をのみ込んだようだった。


「治ったら、また訓練の続きをしましょう。次は、魔力を乗せて動く方法をお教えしますよ」

「っ!本当ですか?楽しみです!」

ぱあっと笑顔になったカーヤには、影が見当たらなかった。




「タルコット、久しいな」

「ギユメットさん。お久しぶりです」


本を探すために図書室へ行くと、ギユメットと行き会った。

「あと三ヶ月で、ギユメットさんの結婚式ですね。準備は進んでいますか?」


結婚式は帝国で行って、生活はホリー村になる。

移動は大変だが、ギユメット曰く帝国の貴族位を持つからには必要なことらしい。


「ああ。もう家も準備が終わっている。ここ数日はアリーヌから荷物が送られてきているから、少しずつ配置しているところだ」

「そうなんですね」


手紙転送の魔法陣は改良され、もう少し大きなものを送れるようになっていた。

まだ大量の荷物を一度に送ることはできないので、一つずつ届けているのだろう。


「そういえば、カーヤ夫人はどうしている?」

ギユメットはついでとばかりに質問してきた。

コーディとしては隠すことでもないので、普通に答えた。


「今日はカーヤは家で休んでいます。少し、武術の訓練を頑張り過ぎまして」

「は?」

ギユメットは目を丸くした。


「僕も教えるのが楽しくてやりすぎました。筋肉痛らしいので、数日休めば治ると思います」

「え?タルコット、お前……」

徐々に眉根を寄せたギユメットは、コーディをじろりと見た。


「どうかしましたか?」

「どうかしたではない!お前というやつは、まさか、公爵令嬢に武術を教えているのか?!」

突然の剣幕に、コーディは驚いて一歩引いた。


「いえいえ、今は僕の妻なので准騎士夫人ですよ」

「そういうことではない!貴族夫人に、何をさせているんだ!」

「何と言われても……。魔法を安定して使うためには、体作りが大切なんですよ。散歩から始めて、今は朝から数十分走っています。その後に、ゆっくり武術の型をなぞっているんです」


それを聞いたギユメットは、何か言おうとして息を吸い込み、しかし言葉を選べずにそのまま深いため息をついた。


「お前というやつは」

「ですが、プラーテンス王国では普通のことですし」

「いや、だがな!」


ギユメットの言いたいことはわからないでもない。

帝国でもほかの国でも、貴族の女性は表立って魔獣を退治することはない。


「カーヤは、僕の妻になったのでプラーテンスの方式でいいと思っています。本人も楽しそうですし」

「それは、そうなんだが……!というか、カーヤ夫人は嫌がっていないのか?」

軽く頭を抱えたギユメットは、コーディに疑いの目を向けてきた。


「心外ですね。さすがの僕でも、彼女が本心から嫌がることはさせませんよ。健康のための運動以上のことは、カーヤ本人の希望に沿ったものにしています」

「うぬぅ……」

ギユメットは唸って悩んだあと、もう一度ため息をついた。


「私から言っても上手く伝えられない。誰か、話ができる女性はいないのか?」

「話……?故郷の友人か、近所ならディケンズ先生の奥方でしょうか」

「わかった。誰でもいいから、現状を説明してみろ。私と同じことを言うはずだ」

「そう、でしょうか」

「多分、同じように言う。その、はずだ」

言いながら少し自信がなくなっているようだったが、自分に言い聞かせるようにギユメットはうなずいた。



確かに、ほかの人の意見は全く聞いていない。

だから、まだ比較的そういった話がしやすい友人、ブリタニーとチェルシーに聞いてみた。


手紙で、カーヤが筋肉痛になった経緯や、現在の訓練内容などが適当かどうか質問してみたのである。


「あー……」

コーディは、手紙を読みながら思わず声が出た。


『深窓の令嬢に何させてるのよ。訓練は確かに大切だけど、そこまで必要なの?魔獣討伐でもしたいの?筋肉痛で動けなくなるまでさせるなんて師としてなってないわ。最初にきちんとメニューを決めるとか、様子を見ながら計画的にしないといけないでしょ』

ブリタニーからは、直接的なダメ出しがきた。


『本人が希望しているなら、私としては何も言えないんだけど……。いくらなんでも、脳筋すぎない?もちろん魔法とかの訓練も大事よ。でも、少なくともプラーテンス王国の准騎士の妻なんだから、文化の勉強も大切なんじゃないかしら。カーヤさんが恥ずかしい思いをしてしまうわ。あ、そういえばタルコット君、魔塔の方の結婚式に出るって言ってなかった?タルコット君も、きちんとマナーを勉強し直した方がいいわ。しかも帝国なんでしょう?プラーテンスよりもずっと格式が高いはずだから、ちゃんとしていないと大変よ』

チェルシーからは、ほかの方面からの意見がきた。


確かに、プラーテンスの文化については何も教えていない。

すぐに行くことはないからと後回しにしていたが、少しずつでも伝えた方が良さそうだ。


もちろん、ギユメットたちの結婚式に行くのだから、そのための準備もするべきだ。


コーディは、二人にお礼の手紙を書きながら、さてマナーは誰に学ぼうか、と考えていた。



読了ありがとうございました。

続きます。


◆お知らせ◆

私生活の方が少し忙しくなったため、こちらの連載の更新頻度を下げ、週一回木曜更新とさせていただきます。

楽しみにしていただいている方には申し訳ありません。

もう少し続きますので、ゆっくりお付き合いいただけると幸いです。

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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 まぁ本人が望んでるとはいえ、キャパを超えたオーバーワークになるのはちょっとアレですからね(笑) その辺はマナーの勉強共々、計画の練り直しかな? 更新頻度了解です、年末年始は忙しく…
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