第六話
記者の人は午前中の定期船に乗ってやって来た。お祭りの提灯を見て、少し驚いた様子だった。
「毎年の夏祭りなんですけど、今年からは少し趣向を凝らしてみることになったんです」
役場の斎藤さんが、案内係をしている。
「それで宇宙人の仮装ですか?」
記者の人がデジカメを操作しながら言った。
「そう。実は岬の宇宙船の出来が良かったので、イベントが決まったんです。うちの島は人口が少ないですからね。ノリが良いんですよ」
斎藤さんがハハハと笑いながら、記者の人をお祭り広場へと案内する。なかなかの演技力だ。みんな着ぐるみの中で、汗だくになりながら見守った。
お祭り広場へ着くと、いよいよぼくとジュラの出番だ。ぼくはジュラの日焼けでむけた抜け殻を着ている。その上からお揃いの浴衣を着てお面をかぶると、白と黒の双子の宇宙人みたいだ。
手を繋いで無邪気なふりをして走り回る。もう心臓がバクバクだ。
「あの……、あ、あれも着ぐるみなんですか⁉」
記者の人が目を見開いて聞いた。
「セイくん、ジュラくん、おいで」
斎藤さんに呼ばれたタイミングで、ぼくはお面を外した。ぐるりと回って黒宇宙人をアピールしてから、そのあと顔の部分の皮を脱ぐ。
「こんにちは!」
子供ぶりっこして、元気に挨拶する。ジュラは黙って頭だけ下げた。
「実はこれ、島の特産品として開発中の素材なんです。すごいでしょう? 撥水性が高いので、子供なら水に浮くんですよ」
「ハハッ! そうか……ネットの動画はキミたちだったのか……。すごいな! 二人とも、本物の宇宙人みたいだ!」
記者の人はぼくの脱いだ皮やジュラの頭を触りながら感心したように言った。ぼくはジュラの目の色が変わってしまわないか、ハラハラした。
「まだまだ開発途中ですから、マスコミへの露出は勘弁して下さいね」
斎藤さんがにっこりと笑いながら言った。
記者の人が岬へ宇宙船を見に行く後ろ姿を見送ってから、ぼくとジュラは顔を見合わせてへなへなと座り込んでしまった。
「上手く出来たかな?」
『信じてたみたい。ドキドキしたね!』
ぼくらがこっそりと小さくハイタッチをしていると、後ろからうちの爺ちゃんに肩を叩かれた。
「二人とも頑張ったな。あとは大人に任せて遊んで来ていいぞ」
ぼくとジュラはおこずかいを三百円ずつもらって歓声を上げた。うちの島ではあまりお金を使う機会がないので、お祭りはそれも楽しみのひとつだ。
「ジュラ、火星人たこ焼き買いに行こう!」
『ぼく、七色わたあめ食べたい!』
待ち切れないといった様子で駆けだしたジュラの背中に、思わず手を伸ばす。
「待ってジュラ! 行かないで!」
それはぼくが、言わないと決めていた言葉だった。
『わたあめ、買いに行かないの?』
ジュラの目は嬉しそうなオレンジ色だった。
ぼくはそのことに傷ついてしまった。楽しいお祭りなのに今から終わりのことを、ぼくだけが考えている。
「何でもないよ! 行こう!」
もしもぼくの目がジュラと同じだったとしら……。きっと紫色で点滅してしまっている。ぼくは嘘がつける地球人で良かったと思った。