前奏 道端、17歳と2歳
「あ、おーい!おはよう!」
長く続く道の向こうから、朝の光を身に纏い、軽やかな足音をたてながら走ってくる女子高生がひとり。
オレンジのポニーテールがあどけない笑顔に木霊して眩しい。
ああ、この街の朝は明るい。
俺は多原ダイスケという名の人間だ。容姿は冴えないが、嬉しいことに、人間だ。何も特徴が無い個体でも、人間であること自体が存在価値だからだ。
ん、ああ。あんたには意味が分からないだろう。俺だって、高校生になる直前でやっと理解できたくらいのレベルだ。まあ俺の理解力なんて部外者と同じくらいなもん
「ダイスケーーーーーっ!」
どぉぉんという轟音と共に、視界の端に死海の端が映る。し、死ぬ。やっぱり俺の命はこんなにもあっけなく
「おーい、おきろーーーー!!」バキボコベコ
「瀕死の俺の上に乗るなぁぁぁぁぁっっっ!!!!
しかも馬乗りかよ!起きるくらいならお前と寝るわっ!!」バキボコベコグキ
「ぎゃあああああああああああああ!!!!!!だれかたすけバキィッ!」
感傷にも浸れねえ!
・・・朝からイチャイチャしてるように見えるだろう。爆ぜてやろうか。
しかし残念ながら、この女子高生は俺の彼女じゃない。こいつは、
推定、2歳。
「おなかすいた」
「残念ながら朝食後まだ15分」
俺が行っているのは単なる教育に過ぎない。
「むにゃむにゃん・・・」
「って道端で寝るなよっ!!」
2歳児なんてよく分からん。体は成長していても、心は幼児以下。俺に教育出来るはずがない。
くるりんと丸まって目をこすっているかわいいガキ。お前は、なんでここに生きていくサダメを背負ってしまったんだろう。
せっかく物語の一丁目一番地を任されたのだから、彼女について一時間くらい説明したいところだが、生憎それは学校の方がしやすい。ついてくるかはあんたの自由だ。ただし、『特別保健室』に入る勇気があるのならな。
「ほ、ほけんしつ、いきたくなあい・・・」
気がついた足許で、狐晶サニーロは小刻みに震えていた。




