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灰都の剣士と機械人形  作者: NOEU
2. 灯火の都
15/65

2-11. 武具の受け取り

エゼル商会を出たとき、空はまだ明るかった。


昼をいくらか過ぎていたが、工房が戸を閉めるまでには十分な時間がある。ロアンは商館の前を行き交う荷車の切れ目を待ち、大通りを横切った。


上着の内側には、三日間の調査を終えたことを示す報告書の控えが入っている。北側岩盤路を使うことは決まり、水と積荷の組み直し、案内人との契約、護衛条件を反映した最終の行程表は、明日の昼に確認することになっていた。


護衛の仕事そのものは、まだ受けていない。


ロアンは工房区へ向かった。


棒剣を預けてから、四日ほどが経っていた。


その間、ギルドの記録室、東門外の隊商宿、修理場、飼料売り場を歩いた。武器が必要になる場所へ出たわけではなく、腰には短刀もあったが、背に何もない状態には最後まで慣れなかった。


後ろから台車が近づいたときや、人混みで誰かが肩へ触れたとき、右手が柄のあるはずの位置へ動きかけ、そのたびに空いた背へ気づいた。


武器がなければ歩けないわけではない。それでも、長く身につけてきた重さが消えると、身体の動きの基準までわずかに変わった。


横向きの剣と槌を組み合わせた工房の印が見えてきた。


大きな扉は半分開き、内側から砥石の音が聞こえている。ロアンが入ると、受付台の向こうにバルトがいた。


白髪交じりの髭と、金属粉で灰色に見える眉は前と変わらない。太い腕を台へ置き、何も背負っていないロアンの背を見た。


「遅かったな」


「仕事があった」


「剣が直った日に来ない奴はいる。直っていないのに毎日来る奴もいる」


バルトは帳面を取り出した。


「札は」


ロアンが預かり札を渡すと、番号を確かめて奥へ声を掛けた。


「長い方を持ってこい」


砥石の前にいたニコが立ち上がり、壁際の棚へ向かった。


棒剣は、修理を終えた武器の中でも見つけやすかった。ニコは片手で下ろそうとし、すぐに両手へ持ち替える。


「先をぶつけるな」


バルトが言った。


「分かっています」


「分かってる奴は、最初から両手で持つ」


ニコは言い返さず、棒剣を受付台へ横たえた。


鞘は砂と汚れを落とされ、薄く油を入れられている。表面の色が少し濃くなり、留め具も動かして擦れる音がしなかった。


柄には新しい革が巻かれていた。以前と同じ黒に近い色だが、長く使ったものとは違い、巻き目に艶と硬さが残っている。


ロアンは柄を握った。


新しい革は指と掌へ馴染まず、巻き目の角がわずかに当たった。


「きつく巻いた」


バルトが言った。


「緩むよりいい」


「最初は硬い。馴染ませようとして油を入れすぎるな。巻きが動く」


「ああ」


ロアンは棒剣を鞘から抜いた。


砂が擦れる音はしなかった。


刀身からは汚れが落ち、側面にあった二つの小さな欠けも均されている。削られた範囲は狭く、厚みは保たれていた。先端の潰れもなくなり、突き込むための角が戻っている。


「中も開けた」


バルトが言った。


「柄にも鞘にも、かなり砂が入っていた。芯と留め具に異常はない。曲がりもなかった」


ロアンは柄元を見た。分解した際についた、新しい工具の跡がわずかに残っている。


「振っていいか」


「奥を使え」


作業場の脇には、武器の状態を確かめるための細長い場所があった。石壁の前へ太い木柱が立てられ、その周囲だけ床に厚い板が敷かれている。


ロアンは鞘を壁際の台へ置き、棒剣を持ち上げた。


預ける前と同じ重さが、掌から手首、腕を通って肩へ返ってくる。軽くなったわけではない。


まず切っ先を下げたまま前へ振った。右腕を頭より高く上げず、腰と肘で刀身を動かす。狙った位置で止めても、柄の内部に何かがずれる感触はなかった。


次に横へ短く振る。先へ寄った重心に腕を引かれたが、以前と同じ位置で手首を締めると、棒剣はそこで止まった。


柄革はまだ硬い。滑りはしないが、指が馴染んでいないぶん、握りが浅く感じられる。


最後に左足を前へ置き、肩を大きく入れずに突いた。木柱の手前で先端を止め、引き戻した瞬間、右肩の奥へ鈍い痛みが走った。


強いものではなかった。


それでも、筋がまだ戻っていないことは分かった。


ロアンは構えを解いた。


バルトは離れた場所から見ていた。


「もう一度やる気か」


「確認した」


「何をだ」


「柄と重心。それから肩だ」


バルトは近づき、棒剣の先端から柄まで目を通した。


「剣は直った」


続いて、ロアンの右肩を見る。


「直っていないのは、おまえの方だ」


「動く」


「動くことと、使えることを同じにするな」


治療所でも、似たことを言われた。


ロアンは棒剣を鞘へ戻した。抵抗なく収まり、最後に留め具が小さく鳴る。


バルトは帳面へ修理完了の印をつけた。


「側面と先端のならし。内部と鞘の清掃。柄革の交換。最初に言った額だ」


ロアンは硬貨を出した。


「三日ほどは、柄を乾いた布で拭くだけにしろ」


「ああ」


「肩も急に使うな」


「分かった」


「そういう顔には見えんな」


ロアンは帯を調整し、棒剣を背負った。


重さが背中へ戻る。右肩へ直接掛からないよう、帯はいつもより中央へ寄せた。歩くだけなら痛まない。出発までの数日、無理に振らなければよかった。


バルトが奥へ声を掛けた。


「革の方も持ってきてくれ。サンドワームの汁を浴びた胸当てだ」


しばらくして、ラウラが胸当てを抱えて現れた。


表面には薄い布が掛けられている。受付台へ置いて布を外すと、砂と汚れを落とされた革と金属板が現れた。


右胸から脇にかけて、黒い染みだけは残っていた。


ラウラはその端を指で押した。


「先に言ったとおり、色は消えなかった」


革は周囲と同じように曲がり、硬化していた部分にもひび割れは見えなかった。


「機能は」


「問題ない。表面を落とし、油を抜いて乾かしてから入れ直した」


ラウラは胸当てを裏返した。


切れていた右脇の縫い目は、元の穴を避けて少し内側へ縫い直されている。広がった古い穴の裏には薄い革が当てられ、力が一か所へ集まらないよう補強されていた。


「左の肩帯も補強した」


「留め具は」


ラウラは右脇の金具を持ち上げた。


以前より少し色の明るいものが、新しい鋲で固定されている。


「元の金具には亀裂があった。戻しても使えないから交換した。少し厚いものにしてある」


「着けてみる」


ロアンは棒剣を下ろし、胸当てへ左腕を通した。右腕を開くと、肩の奥が張る。


ラウラが脇へ手を伸ばした。


「押さえる」


「自分でできる」


「できるかどうかは聞いてない」


ロアンは右側を任せた。


ラウラが帯を背へ回し、三つの留め具を順に固定する。


「息を吸え」


胸を広げる。


苦しくはなかった。


上体を左右へ捻っても、縫い直した脇は引きつれず、新しい留め具も動かない。腕を前へ出しても、胸当ての縁が当たることはなかった。


「問題ない」


ラウラは帯を緩めた。


ロアンは右腕を必要以上に上げないよう、胸当てを外した。


「染みを消すことはできる」


「必要ない」


ラウラはうなずいた。


「そう言うと思ったから、勝手にはやらなかった」


色は残ったが、縫い目と金具は直っている。防具として使ううえで、それ以上の作業を頼む理由はなかった。


「油を入れたばかりだ。今夜は袋へ密閉するな。風の通る場所へ置け」


「ああ」


「染みのある場所は、ほかより傷みやすい。濡れたままにするな」


「分かった」


ロアンは修理代を支払った。


ラウラは胸当てを薄い布へ包んだ。完全には覆わず、両端を開けて空気が通るようにしている。


「抱えていけ。着て帰るより肩には楽だ」


ロアンは胸当てを左腕へ抱え、棒剣を背負い直した。左手が塞がっているため、柄の位置を整えるのに少し手間が掛かる。


「次は、剣と防具と怪我をまとめて持ってくるな」


バルトが言った。


ロアンはうなずき、工房を出た。


通りには午後の光が差していた。


工房区では、修理を終えた荷車を引き取りに来た御者が車輪を調べ、職人たちは店先へ出していた木材や金属板を中へ戻し始めている。


棒剣の重さが背中にあり、左腕には胸当てがある。


三日間、記録を調べて街を歩き、午前から商館で報告をし、そのあと棒剣を振った。右肩には鈍い熱が残っていた。


悪化したほどではないが、これ以上試す必要もなかった。


ロアンは宿へ戻った。


一階の広間には、夕食前の客が数人いた。宿主は帳場に座り、戻ってきたロアンの背と左腕を見た。


「やっと装備が戻ったか」


「ああ」


「肩はどうだ」


「動く」


「また、それか」


宿主は胸当ての布から覗く黒い染みへ目を向けた。


「落ちなかったのか」


「機能に問題はない」


「聞かなくても分かる答えだったな」


ロアンは階段へ向かった。最後の一段は、まだ直っていない。


「明日は出るのか」


「昼に商館へ行く」


「仕事は決まったのか」


「明日、契約を確認する」


部屋へ入り、棒剣を壁の鉤へ掛けた。


新しい柄革は、離れて見れば以前と大きく変わらない。近づけば、巻き目の硬さと艶が分かる程度だった。


胸当ては布を外して荷物台へ置き、窓の鉄戸を少し開け、風が内側を通る向きへ整えた。黒い染みは、夕方の薄い光の中でさらに濃く見える。


ロアンは水を飲んだ。


一階へ降りて食事を取るつもりだったが、寝台へ腰を下ろすと、身体の疲れがまとめて戻ってきた。


右肩だけではない。三日間歩き続けた脚、記録の文字を追い続けた目、固い椅子へ座り続けたことで張った腰。


明日の昼までは、ロアンが決めることはなかった。ヴァルドとラウルが、水と積荷を最終的に組み直す時間だった。


少し休み、暗くなる前に食事へ行けばいい。


そう考えて目を閉じた。


次に目を覚ましたとき、部屋は暗くなっていた。


街灯の白い光が窓から入り、床へ細い四角を作っている。一階から聞こえる食器の音も、すでに少なかった。


ロアンは旅袋に残していた硬いパンを取り出し、水で流し込んだ。


胸当てへ触れると、表面の油はほとんど乾いていた。


窓を少し狭め、寝台へ横になる。


今度は、朝まで目を覚まさなかった。

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