表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
超越お姉さんに愛を伝えたい。  作者: 鳥木野 望


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/16

9話 芸術都市アルプレート・一日目

さて、部屋の悍ましさはさておいて、これからの行動を決めようと思う。

まずは、とにかく観光だろう。昼になるころで既にお腹が空いてきていたが、せっかくなので露天で売っている物を食べ歩きでもしよう。先ほどこの部屋の机の引き出しを開いたらこの都市の観光マップが入っていたのでそれを参考に歩いていこう。それと探し物は明日一日を使ってすることにしよう。先ずは観光だ。

僕は部屋を出て、フロントに居た従業員の人に外出を告げて、貴重品の入った荷物をフロントに預けた。部屋で管理すればいいとも思ったが、どうも鍵の形式的に信用が出来なかったので、念のためフロントに管理してもらうことにした。

街に出て僕は広場の方へと向かった。西の城門から入って進んできた大通りは、絵画区の範囲になっており、道の至る所に絵描きが作品を展示して売っていた。

僕は宿から出て中央広場に向かった、先ほどの宿からは部屋が暗い色付きガラスだったので良く見ることが出来なかったが、巨大な広場とその奥に聳える巨大な城はとても見ごたえがあった。

広場へ入るとそこら中にストリート音楽の人がいて、それぞれが順番に交代しながら様々な様式の演奏をしていた。他にも古本の露店や、先ほどの通りで見たよりもかなり高価格設定の絵画売りもちらほら見える。円周に設置されたベンチには恋人たちや、食べ物を持った旅行客のような風体の人たちが座っていた。

広場の中をぐるぐると見て回って、露店の横で炭を起こして焼いていた、おいしそうな肉串を買って、空いているベンチに座って食べていたら、一つ見て回りたい場所が出来た。お城の形をした中央役所は、一階部分は誰でも入ることが出来るらしく、最初の城門でのやり取りで、確かその場所で法律のセミナーを受講や、諸々の手続きが出来るらしい。僕は短期滞在者の中でも滞在日数は二日だけの短い間なので法律の受講は受けるつもりは無いけれど、せっかくなのでその豪奢な見た目の役所に入ってみたい。

僕は今後の観光予定を変更することにして、ごみ箱に串を捨てて市役所に向かった

「おかえりなさいませ、本日は観光との事でしたが、お楽しみいただけたでしょうか?」

夜が更けたころに宿に帰った僕を受付の人が迎えてくれた。

「はい!とても素晴らしかったです。駆け足で全部見て回りましたよ!南区の神王国大劇場から西区の画廊、東区の古本市場、それにそれぞれの区にある三つのアルプレート美術館まで!全部凄く新鮮な経験でした。」

「楽しめたようで良かったです。そこまで満喫したとなると、さぞお疲れでしょう。当宿には自慢の大浴場もございます。よろしければお疲れを癒していってください。」

「ありがとうございます。一度、荷物を部屋に運んでから湯を頂きます。」

「かしこまりました。大浴場は受付右手奥にございます青い扉でございます。赤い方の扉は女湯ですのでお間違いないようお願いいたします。」

東方由来の大浴場は初めてだったが、身体の芯から温まり、入っている間は温かい安心感に包まれていた。無防備な裸なのにここまで安心感とリラックスできるのは驚いた。湯を上がった後に用意されていた館内着を羽織って、三階にあるカフェコーナーでゆったりとデカフェのコーヒーを楽しんだ。

窓からは明かりに照らされた広場と巨大な城が見えている。

今日は一日大満足だった。目に入るモノ全てが新鮮でとても良いっ経験になった。

けれど、僕は少しおかしな気分の高揚を感じていた、まるで夢を見ている様な感覚に近くて、旅をする僕を、どこか遠くで俯瞰してまるで異国が舞台の映画を脳内でなぞっている様な感覚になっていた。きっと異国の地は、それだけで現実を飲み込むほどの非日常なんだ。こうやって旅をしていくうちに慣れてもっと純粋な気持ちと自然体でこの世界を楽しめるようになれれば良いとそう思う。

この美しくも異物感の拭えない観光は今日で終わりだ。明日は僕の旅の目的の一つである“とある物語”についての書物を東区の図書館で探さなければならない。目標と目的これを忘れずに地に足を付け進んでいこう。僕は酸味の無い、麦茶のような味のデカフェを一気に飲み干して、部屋に戻ることにした。

「おーい、イアルージュ。起きてくれ。」

夢と現の境に在る、茫然とした意識の内部に遠くの方から木霊のような音の集合体がちらついた、それは寄せる波の如く徐々に重なり、やがて大きな波になり私のところまで届けられる。久方ぶりに感じる目覚めの流れで私の意識はゆっくりと持ち上がり、重い瞼を持ち上げる。

僕の小屋は村の外れに位置していて、訪れる者はほとんどいない。玄関の方へと目を向けると、全身を白い麻のゴワゴワとした質感の着心地の悪そうな服を身に纏った、陰気な雰囲気の男が立っていた。不精な様子のその男は、髪は肩にかかるほどの長髪で、前髪から覗く双眸には暗い色が宿り、生気を感じさせなかった。

「ヤツ爺?どうしたの、今日は休みって言っていたじゃない」

極度の寝不足からくる不快感を抑えきれず、ぶっきらぼうに言い放った。ヤツ爺はこの村の村長で、物心ついたころからの僕の親代わりになってくれた人だ。歳は僕の所感では50代半ばに思えるが、本人曰く随分と長い時間を生きているらしい。

つい先日、ヤツ爺より、僕の授業と訓練はひと段落したと告げられた。それから次の一段階上の内容に移る前に少しばかりの暇を与えられ、僕は達成感と解放感に興奮してつい、積んだまま読めていなかったお気に入りのシリーズ物語の後日譚にあたる外伝を読み始めてしまい、後ろの時間を気にすることなく夜通し朝を跨ぎ昼過ぎまで読みふけってしまった。ヤツ爺の立っている玄関口の向こうから目を萎ませる強い光の束が部屋に入ってくる。

「もしかして“また”か。」

「うん?」

ヤツ爺は玄関先で立ち止まり目を大きく開けて驚いている。なんだか様子がおかしい、ヤツ爺はいつもなら重そうな瞼を最低限の力で開いている様な人だった。

僕は少し気になって上半身を起こして自分の身体を確認する。まさかと思った。何がとは言わないが男として何かの尊厳の揺らぎを感じ、布団の中の下半身の触覚にまで意識を通わせたが、何一つ問題なさそうだった、確認が済むと相変わらず嫌になりそうなほど小さい自分の身体から目をそらして、朝から変な冷や汗をかかせてきたヤツ爺に抗議の目を向ける。

「なに、変なこといって驚かせないでよ。やめてよね、朝っぱらから僕みたいな繊細なお年頃の子供に悪辣ないたずらを仕掛けるの」

「ああ、すまん。それより随分と眠そうだがもしかして昨日は夜更かしでもしたのか?」

「う、うん、本を読んでいたんだ」

寝不足の事を突かれた時は反射で気まずさを感じもしたが、休日だということを考え直し、僕は素直に答えた。ヤツ爺が渋い顔で僕のベッドのナイトテーブルに置かれた数冊の“埃をかぶった本”を見つめる。

「『友人へ贈る消閑の具』か、前に読み終わったと言っていたはずだが、読み返しているのか?」

「うん、本編は読み終わったからこれは外伝、だけど後日譚を読まないと完読したなんて口が裂けても言えなかったね、特に登場人物の中である意味主人公よりも目立っていた二人の、悲恋の結末、その先で月日に洗い流されてついには暗い炎の扉が開かれるところなんかはもう、本編で語られなかったもう一つの物語の結末として最高だったよ」

ヤツ爺は気圧されたように後ずさった。数秒の間が開き、短く息を吐きだし、要件を話し出した。僕は意識がはっきりしてからというもの、どこか腹の底の方に沸き立つ謎の興奮を不思議に感じていたが、昨夜の読書体験と、華の休日に若干の寝不足が重なった結果だと納得することにした。

「イア、休暇を与えたばかりで悪いが、村に新入りがやって来たのだ。紹介させてくれ」

はて?新入りとはこれ如何に?一体“どこから来たのだろうか”。

「急がずともいい、できれば昼までには俺の家まで来てくれ」

こちらの困惑を意図的に無視して強引に話を進めると、ヤツ爺は帰っていった。ヤツ爺が出ていき扉が完全に閉まる前に外からヤツ爺のこちらに呼びかける声が聞こえた。

「ああ、そうだ、随分と眠そうだが二度寝だけは絶対にするなよ。二度寝は身体に悪いぞ」


お読みいただきありがとうございます。本作はストーリーがかなりゆっくりと進んでいきます。その代わりに毎日更新となっております。ぜひ長い目でお楽しみください。


☆評価やブックマーク、感想などお待ちしております。よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ