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超越お姉さんに愛を伝えたい。  作者: 鳥木野 望


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10/16

10話 二日目・本を求めて。

「おはようございます。お早いですね。お部屋の方は何か不都合はございませんでしたか?」

昨日は高揚感のせいで上手く寝付けず、早朝のランニングの時間には寝過ごしてしまった。

僕は少し落ち込んだまま朝食をとるために、フロントに向かった。きっと受付の彼女は元気のない僕を見て、あの部屋が原因だと考えたのだろう、とても心配そうな様子で聞いてきた。

しかし、あの部屋の内装に関して言えば昨日はそれこそ例の高揚感と若干の不安に押しつぶされていたので気にならなかった。

「はい、大丈夫です。それで、昨日予約していた朝食を頂きたいのですが、レストランがどこにあるか忘れてしまって」

昨日の説明で館内の設備や施設は案内されていたが、昨日は色々あって忘れてしまった。受付に立っているのは昨日、僕にその説明と案内をしてくれた人で、再度訪ねるのは少し恥ずかしい気持ちになった。

「はい、ではご案内します。」

案内されたレストランは昨日の夜の間訪れた三階のカフェが、朝になるとそのままレストランへと変わっていた。中には既に数人の客がいた。僕は案内された窓際の席に座って、景色を眺めながら、待っていると。目の前に焼き魚と東方の郷土料理の小皿とスープ、それからお米がどかっと器に盛られて出てきた。

本当にこの宿は部屋以外完璧だ。これほど完成された組み合わせの盆料理が存在していると思わなかった。小皿の漬物のサッパリとした塩味と、旨味の溢れた素材の味と炭の香りで完成したメインの料理、それにお米もここまで美味しい物は食べたことが無かった。最後までとても満足度が高くて、いつものなら食後にコーヒーを頂いているところだったが、今日は出されたお茶を飲み干して満足してしまった。

「ごちそうさまでした」

さて今日さっそく今日の用事を消化しようと、僕は昨日のうちに場所の下見は終えていたので、迷わずに東区のアルプレート図書館へと向かった。

図書館は昨日も見たがとても巨大な石造の建物で灰色の武骨な壁が厳粛な空気間の演出となっていた。中へ入ると、広い空間にこれでもかと書架が連なる光景は僕の創造したような図書館のイメージの通りだった。正面から見て右側にはカウンターがあり、そこにはこの図書館の従業員の司書が二人座っていた。

「あの、すみませんちょっと、いいですか?」

僕はまずそのカウンターに座る中年のふくよかな女性に話しかけた。僕はもうすでに自力で探す気は無いのだ。昨日それは古本市を回って、探している書物、又はそれに関連付けられそうな本を探したけれど、それらしき本は見つけられなかったので、今日は最初から探してもらう気で来ていた。

「はい、なにかお探しですか?」

書類を整理していた手を止めて、こちらを見て聞いてきた。

「はい、あの、ある“物語”について記された書物を探しているのですが、旧神時代の迷宮街で活動していた挑戦者のグループを中心に話が進んで、迷宮への挑戦、それから悪しき旧神との最終決戦に向かうお話なんですけど。」

僕がそう、司書に告げるが、反応はあまりなかった。

「そうですね、当館には存在しません。お力になれず申し訳ないです。そもそも迷宮街についての情報は統制されていて、無くなって数百年が経った今でも噂程度でしか聞いたことの無い物です。書物に関しても同じでしょう、規制が為されている以上、正式な出版物にはそのような書物は存在しません。もし、あるとしたら私家版という形になりますね、それでしたらこの先の古本市で探してみた方が良いかもしれません。ちなみにお探しの本の題名はわかりますか?」

「はい、“友人へ贈る消閑の具”もしくは“歪み迷宮”という題名の本で、それぞれシリーズ化していて、後日譚のような外伝も加えると全八巻になります。作者や出版社などの表記はなくて、外伝の一冊だけ背表紙に金字で空ノ森と書かれていましたがそれも実際作者を表しているか判然としません。」

これは、予想外の事実であった。僕の村の“書斎”にも迷宮街についての詳しい書物は少なくかったが、それが理由だったのか。

そうと分かると芋づる式に気づくことがある、まずあの本のタイトル、あれは文字通りの意味で作者が私家版として誰かへ暇つぶしとして贈った物語なのだ。

それに迷宮街の物語、あれは昔の僕は読んでいる時にてっきりフィクションの物語として受け取っていたのだが、このように世界の中で規制された内容だと言われると、わざわざそんな危ない舞台を使ってフィクションを書くのだろうか疑問になってくる。それに僕は初対面の時に勘違いされたのだ、あのマワリちゃんに、当時はまだ十一歳くらいの見た目をしていた少女に。

僕は溢れ出した疑念とともに、今でも覚えているマワリとの数少ない記憶の中から初対面の時に言われたこと、その時に感じた腑に落ちない感情を思い出した。

休日に巨神の書斎で暇を潰そうと思い、午後から向かったら、そこには何かを読みふけっているマワリちゃんがいた。僕が入ってくると、マワリはこちらに視線を向けてきた。

「イア君、おはよ。」

「おはよう」

短く挨拶を交わすと、マワリが居る机の前を通りすぎて、目当ての本棚の前へ向かった。いつもの事だった。休日は大抵、この場所に僕たちはいるし、この村の正しい余暇の過ごし方でもあった。僕は歴史の分類を見送り、次いで文学の分類に差し掛かったところで、ふと昔の疑問が思い出させられた。

「ねえ、気になっていたんだけど、マワリちゃんって、“友人へ贈る消閑の具“を読んだことあるの?」

「え?なにそれ」

それは、マワリちゃんとの初対面時に起きた不名誉な勘違いの事だった。“友人へ贈る消閑の具”というシリーズ物語に登場する。鬼の姫は極めて珍しい髪色と虹彩を持っていることになっている、そして偶然にもその髪色と虹彩は僕も生まれつき同じようなものを持って生まれている。マワリちゃんは初対面時に僕をその鬼の姫と勘違いをしたのだった。今思い出してもあの勘違いには納得がいっていなかった。

「いや、最初会った時、僕の事を鬼の姫と勘違いしたでしょ?あれってさ、やっぱり勘違いするくらいあのシリーズを愛読していたからなのかなって。」

「うん?なにそれ?」

なぜ伝わらないのだろろうか。もしかしたマワリの勘違いを僕が勝手にあのシリーズに結び付けていただけなのだろうか?もしかしたら、鬼の姫というのは別の本にも登場するのだろうか?僕はてっきりあの本の創作種族だと思ったのだけど。

「ああ、“歪み迷宮街“でしょ?私の好きなシリーズなんだ。昔、芸術の街の本屋さんで買ったんだけど、それからもうしばらくはその本の読了後の余韻が消えなくて、他の本を読み始められなくなったくらいだよ。綺麗な明るい茶髪に、瑞瑞しい柘榴色の瞳~本当にイア君は綺麗だね、やっぱり鬼のお姫様みたいだよ。」

僕は昔の記憶を想起させる。やっぱり、何かがある。いつだってマワリちゃんの事を考えれば、愛情と共にどこか腑に落ちない記憶が蘇ってくる。ミステリアスな少女だった。いや、そうだ“今は“ミステリアスな美女となっている。それすらも取り巻く謎の一つなのだが、本人に問いただすしかないだろう。

さて、さっきまでの白昼夢を見たおかげで、沈みかけていた目的意識にたいして、もうひと頑張りする気力が出てきた。東区の古本市は昨日少し見て回ったので、これからはいくつかの書店を見て回ることにする。

しばらく書店を探して歩いていると、多くの書店は有名な書店なのだろう、店の外観も立派で、嵌め殺しのショーウインドウから見える店の中はそこそこ混み合っている様子だった。

しかし、これでは良くない。先ほど得た情報を統合すると、立派な書店ほど探している本が見つかる望みは薄いだろうことは容易に想像できた。そうやって、できるだけ条件に合いそうな古臭く、人の流れが避けていくようなそんな暗い雰囲気のある寂れた個人書店を見つけた。看板こそ“アルプレート古書店”なんてついているけれど、実際店の外見は他の煌びやかな店舗とは打って変わって、ほとんど民家のような見た目をしていた。当然、ショーウインドウはおろか普通の窓すら付いておらず店の中を伺うことは出来なかった。僕は本当に営業中なのか心配になるくらいの状態で少し入るのに勇気と時間を要したが、何とかその重い一枚板の木の扉を押し開けて中に入ることが出来た。

「あ、いらっしゃーい」

店の中は造像したようなカビ臭さや埃の匂いは一切していなかった、それよりも驚くべきことに、店内はまるで時間が止まっているかのような店の外観と明らかに合わないほど綺麗で、むしろ新築の香りまで漂っているようだった。

店内は縦長の作りになっており、壁には天井まで届きそうな背の高い書架が並び、中央には島のようにいくつかの平積みをする台が並べられていた。

店の中に入った時に奥の座敷で何かの台帳を開いていた、眼鏡をしている若い女性がこちらに向かって少し声を張り上げ挨拶をしてきたので、僕も会釈だけをすると、静かに店内を見て回り始めた。

やはりこのお店にも置いてないようだった。最初探し始めたときは、至る所にある、古くて見たことの無い書物の数々と、恐らく旧神時代の東方の古言語で書かれた超絶貴重な本まで置いてあったくらいなので、凄く期待値が高くなっていたが、その出だしのおかげで隅から隅まで砂から玉を探すがごとき細かさで一冊一冊探したのだ。労力の分だけ僕は肩を落として静かに店を出ようとすると、店員の女性から声を掛けられた。

「あ、おきゃくさん?何かお探しですか?」

先ほどから店内をうろうろと必死の形相で見て回る僕が珍しかったのか、チラチラと店員の彼女がこちらをカウンターの向こうから視線を向けてきているのを感じていた。

僕も一度は店員の知恵に頼ろうとも思ったりしたけれど、その若い眼鏡の女性は明らかにこの店の外観から推察する創業を考えると、きっと店主ではなくて、店番なのだろうと考えた為、控えていたのだ。しかし、このようにわざわざ様子を見かねて声を掛けてもらたったからには、頼るのがスマートだろう。

「はい、あのもしかしたら書店の人にとっては聞くのも失礼な内容で、法律や遵法倫理的によろしくないものなかも知れないのですが、旧神時代の迷宮街の物語は置いてありますか?」

ぼくがそう聞くと、彼女は目を見開いて驚いた様子を見せてきた。

「あら、これはまた随分とニッチな物をお探しですね。それって歪み迷宮ですよね?あれは全て回収されてしまいましたので、今は禁書として王立図書館に保管されていますよ。」

「え、知っているんですか!あの、その他にその本について何か知っていることありますか?」

これは有益な情報が手に入るかもしれない。僕は期待の念を込めて彼女に少し詰め寄った。

「えーっと、まあ、伝説の本なので書籍愛好家の中では有名ですよ。神王歴十五年に初版本が市場に流通し始めたんだけど、そのわずか半年で神王国の公布で今すぐに“歪み迷宮”を焚書するか、国立図書館に寄贈するように指示があったんです。当時でも首都や大都市を中心に人気が出始めていたところだったらしくて、その数は千冊を超えるほど刷られていたらしいです。その一年後には迷宮街に関する情報規制法が施行されたので、今では持っている事はもちろん読んだことのある人は内容を語ることも厳しく禁じられています。これは余談ですけれど、あの書物は史実であるという噂があります。私はあの書物の内容に関しては存じませんが、神王国建国記に記された、最も古い歴史では旧神の行った“収穫祭”と称した人類の選別と誘拐を止め、仲間を連れその後の旧神戦争を終わらせ、世界の救世主と新たな神として国を一つにまとめたのが今の神王、その神王がその後の政策はあらゆるものが現代社会の近代化に繋がったとされていますけど、一つだけ謎が残ります。神王は世界統一後すぐに一つの街を消しています。それが“迷宮街”の事だと言われていて、そこの住人に関してはその殆どが今の神王国遺物省に召し上げられたという話です。遺物は迷宮街の産物、それくらいはいくら情報が規制されていようと言外の事実なのは神王国の動き方で分かってます。結局のところ真実は分かりませんけれど、事実として神王国建国後に初めて迷宮街について語った物語を慌てて回収し、規制までかけることになった。・・・まあ陰謀論じみた噂です。なんの証拠もありません。失礼いたしました。そんなこんなで禁書に指定されています。なぜか焚書されてないものが、王立図書館に一冊寄贈されていますけれど、他の禁書と違って研究者や学者でも閲覧することは許されていないみたいですね。」

史実である可能性、それは僕もマワリちゃんとのやり取りや、ヤツ爺に対する違和感で何度か頭に浮かんだことのある思考だった。しかし、今改めて言葉にされ告げられると僕はどうしても信じたくないような気持になってくる。あの物語が史実であればそれはとても恐ろしい話であるような気がしてくる。“終わりよければ全てよし”そう話す人もいるけれど、世界が悲劇の舞台であるのなら、そこでどれほど喜劇を演じようと、外から見ている観客からは悲劇の御題目でしかないのだ。

「あの?お客様?どうされましたか?凄く怖い顔をしていますけれど、ごめんなさい、探している本のことでお力になれず」

「いや、大丈夫です。ごめんなさい少し考え事をしていました。情報ありがとうございます。」

どうやら凄く嫌な客になってしまったようだ。僕は彼女に感謝を伝えると、先ほど探して回っていた時に気になっていた、いくつかの書籍を買うことにした。

「お買い上げありがとうございます!」

彼女に紙袋に詰められた先ほど購入した本を手渡された。僕はそこで少し気になっていたことを彼女に聞くことにした。

「ところで、あなたとこの建物は遺物ですよね?所有者は誰なんですか?」

僕がそのことについてできるだけ柔らかく警戒されないように心掛けながら聞いてみた。本当はこんな明らかに“地雷”のような異常な真実には触れない方が良いに決まっている。ましてや彼女には本についての有益な情報を提供していただいた恩がる。けれど、僕は駄目なのだ、ここまで自分の中で肥大化して見えている現実への異物感を放置しておけない。

彼女は最初とても驚いているようだったが、直ぐに“嬉しそうな”満面の笑顔に変わった。

「うん。それにしても驚いたよ、まさかその祝福にしていたなんてね。賭けにも負けちゃったなー、私の欲を言えば愛する人の為に生き急ぐっていうのも見てみたかったけれど、それに彼女の案は絶対通したくなかったし、彼の案は少し素っ気なさすぎない?とも思ったからね。」

僕の問いに対してこちらの動揺を意に介さずにつらつらと独り言のような言葉を一方的に吐き出した彼女からは、先ほどまでの控えめな雰囲気は感じられず、ただ異様な存在としての異物感が増しているように感じた。

「あの、先ほどから何のことについて話しているか理解できないのですが、その様子だと何も答えるつもりは無いような、そんな雰囲気を見受けられます。」

「ごめんね、君はこちら側には来ずに一般人として意中の女性を追いかけて欲しい。だって私の祝福を選ばなかったのだから、記憶とそれに紐づけられたいくつかの真実はあなたにとってはどうでも良かったんでしょう?いずれ語られることはあっても、それは君が自分で選んだ祝福の道を地に足を付けながら進んだ先で初めて語られることで、こんな序盤で話すことではないよ。まあ、こんな形でバレたのは私のミスだから、一つだけ話すとすれば、これから先で違和感や異物感には敏感に、そうして気になった事はとことん追求しなさい。以上だよ。それじゃあ、イアルージュ君“立ち去って”。」


お読みいただきありがとうございます。本作はストーリーがかなりゆっくりと進んでいきます。その代わりに毎日更新となっております。ぜひ長い目でお楽しみください。


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