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超越お姉さんに愛を伝えたい。  作者: 鳥木野 望


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7話 別れと新しい街

翌日は太陽が顔を出す前に起床して、前日の夜に買ってあった黒い独特な風味のパンを胃袋に押し込んで、病院をそっと飛び出した。まだ、寝静まっている村の中を静かに出来るだけ音を立てないようにランニングを始めた。これは僕の毎日の日課だった。しかし、別に体力を付けたいとか、訓練の一環というわけでは無い。それならば別にこの時間でなくともいくらでも出来る。これは一種の精神修練のようなものだ。日々の生活の始まりを引き締めて、一日の基準とするそのストイックな精神こそ僕の記憶の保持にも役に立つのだ。

しかし、今日に関してはもう一つ目的があった。それは先の祝福での効果の実証である。

村の端に近づくにつれて徐々に畑の数が増えてきて、人家の数が減ってきた。僕はそのあたりで、一度立ち止まり、周囲を回し見る。どうやらここでなら試せそうだ。

僕は身体能力の微向上という効果の実証として、まず短距離の全力ダッシュと道端に落ちている石を拾って投擲。徒手空拳の型の練習を行うことにした。

結果として、実証の意味があったのは石の投擲の部分だけだった。徒手空拳の型の練習はいつもよりも空を切る音やキレの良さが分かるし、短距離は明らかに早くなっているように感じるけれど、結局は体感だし、祝福を得る前にタイムでも測っておけば意味があったかもしれないが、あの時の僕はそこまで考えられなかったらしい。

僕はとりあえず間違いなく身体能力の向上はしているらしいけれど、やっぱり“微向上”だったようだ。僕は少し肩を落として、最後の実証を開始する。道端に落っこちている石の中からこぶし大の大きさの物を探して、拾い上げた。その時、僕は不思議な感覚を覚えた。それは言葉に表すことは出来ない、ただ、掌におさまる硬く大きい石を力いっぱい握っている、その瞬間に違和感を覚えた。“本当にこれは力いっぱい握っているのだろうか”と。僕は少し手のひらで石を転がして弄び、そうして今度は手のひらに押し込まれ痛みを感じるほど、それぐらい強く石を握る力を込めた。バキッ、と手のひらで石が砕ける音がした、手のひらを開けてみると、パラパラと石の破片が零れ落ちていき、手のひらの上にはいくつかの破片に分かれた石が置かれていた。これは、間違いようが無いことだった。僕は試しに先ほどよりも小さい石を掴み上げて、今度は石を握る指を突き立てるような形で、指先を石にめり込ませていく、バキッ、今度は目に見える形で石が割れた。どうやら、力の向上に関してはまさしく祝福の克服者として、一般人の域から逸脱しているみたいだった。しかし、これはもしかしたら、先ほど感じた違和感と同じで、肉体の能力として、前の状態で無意識に掛けていた力を制御する感覚が、邪魔をしている可能性がある。しかし、僕はこの実証で明確な効果を体感することが出来たので、これ以上の細かい実証はしないことにした。あとは、炎操作の効果で使える疑似魔術というのを試してみたいけれど、疑似魔術系の祝福は使用に資格が必要になってくるので、今は試すことが出来ない。最後に少しだけストレッチをして既に明るくなり始めた紫がかった空を眺めながらゆっくりと病院に戻ることにした。

「それでは、イアルージュ君。よき出会いと恵まれた環境に巡り合えることを陰ながら祈ってますよ。冒険者になるようですが、無茶はなさらず、せっかく拾った奇跡の命を生き急いで失わないように、お節介かもしれませんが、頑張ってくださいね。」

朝の馬車に乗り込むところに、ゼン先生とラータマさんが見送りに来てくれた。

「ゼン先生、ラータマさん。この度は改めて本当にありがとうございました。お世話になりました。もし、上手くいけば神王国で冒険者として長期的に活動することになるので、もしまた会えたら、ぜひ仲良くしてください。それじゃあ、行ってきます。」

「イアくーん!もし、なにかトラブルがあっても、必ず芸術の都市は中継した方がいいよ!めっちゃ凄い街だからね!私のお勧めは書物区だよ!」

僕は馬車の荷台から少し体を乗り出しながら大きく手を振り続けた、二人の姿が見えなくなったころ少しだけ泣いてしまったのは秘密だ。

「はーい、こちら芸術都市アルプレートの短期滞在者向けの入り口でーす。順番にご案内します。並んで決して列を乱したり、横入りしたりしないでくださーい。」

僕はフルイの村を出発して途中、一か所の村を経由して、第一中継地点であるアルプレート、芸術都市に着いていた。僕は、ここで三日間滞在して木曜日の神王国行きの馬車に乗り換える予定になっていた。

都市と称されるだけあって、随分としっかりとした城郭が反り立っていて、僕は昔読んだ美術書に載っていた有名な絵画の中にいるようなそんな気分になっていた。しかし、そんな浮ついた気分もそこまで長く持たなかった。僕と前の村で合流してきた、お洒落な格好をした都会の雰囲気がある若いカップルが到着して馬車から降りたころには、まだ昼を過ぎたころだったが、既に都市に続く街道に長々と人の列が為されていて、青い隊服をきて帯剣している、兵士と見られる人たちが、そこかしこで列の整備と注意喚起を行っていた。

僕達もその列に加わり、伺ってきた兵士に軽く自己紹介と短期滞在で間違いない事を簡単に説明を行った。それからは本当に長い時間が過ぎた。なかなか進まない列にそこかしこから不満の言葉が聞こえてきた。それもそのはずで、大抵の人々は大きな荷物を抱えて列に並んでいて、本当にランダムな感覚で少しずつ進むせいで、頻繁に立ち上がって大きな荷物を抱えてのろのろと進み、その場に座ることを繰り返していた。

僕は幸い持ってきたものと言えば、前の村で買った食料とフルイから持ってきている着替えと、遺物や金銭の貴重品を入れた小さな布の巾着袋しかなかったからだ。すべてこれも前の村で用意した、中くらいの大きさのバックに全て詰め込めている。

その為、他の人よりは身軽で疲労も少ないがそれでも既に夕方が近づいてきたころになって、まだ三十人以上の人がずらりと並んでいる光景をみて、ため息が出た。

どうやら、単純に入れる人ばかりではないらしく、長い人だと三十分近くの時間を問答していた。

・・・やがて、日が完全に落ちて、兵士の灯す松明の光のみが残り少なくなった十人余りの列を照らしていた。

「ふざけるな!!」

不意に先頭の方からそんな声を荒らげる男の声が聞こえてきた。しかし、事はそれだけに収まらず、ざわめきが先頭の方から押し寄せてきた。そして、やがて衝撃の事実が僕の耳に飛び込んできた。

「おい、どうやら、今日の受付は終わったらしいぞ」

「えー、どうしてよ!それじゃあ私達どうするの?野宿なんて嫌よ!」

僕の前を並んでいた一緒の馬車でここまで来ていた、カップルらしい二人がそんな話をするのが聞こえてきた。

「えええー、うそでしょ…」

さすがに僕も限界だった。ここまで来てまさか入れないなんて、これからどうしろというのか?昼ご飯の用意は持ってきていたが、夜は既に町中のレストランで美味しい料理を食べている予定だったのだ。それにもちろん、こんな軽装で野宿の備えなどない。いくら冒険者志望だといっても、まだそんなもの持ち歩く段階には至っていない。

「本日は大変、お疲れさまでした。申し訳ありません都市防衛の規則により本日の受付は終了いたしました。もし、ご希望される方は受付待機になってしまった人向けに、待合所を用意しています。そちらでお過ごしください。大部屋になっておりまして、夜を越すには雑魚寝という形になってしまいますがご了承ください。軽食、シーツと枕はご用意がありますが、こちらは有料になります。」

これは、願ったり叶ったりだった。ご希望される方と兵士は言っていたがそんなのここに並ぶ誰にも選択の余地は無い。十数人の待機者にそれぞれ意思を確認して回った兵士は最後に大きな声で案内を行った。

「それでは、今並ばれている列の先頭から列を崩さないようにそのまま私に付いてきてください。」

僕達は城郭に沿って西の方へと歩いていき、暫くして、西の城門前に着いた。城門前には木製の二階建ての建物が立っていて、その扉の前には二人の甲冑を着た兵士が立っていた。

「こちらが、待機所になっております。中は大部屋ですが十分な広さがありますので、不便はないと思います。二回に上って左の部屋には先ほど話しました、軽食、シーツ、枕を販売している購買があります。それから、こちらの待合所は完全に芸術都市防衛隊が警備しますが、同時にもしもトラブルや何かの事件を起こされた方は、警備隊の管轄として直ぐに略式裁判となり、罰金刑、酷い場合は当面の間、この都市に近づくことさえ許されなくなるので、くれぐれも問題を起こさないようお願い申し上げます。」

僕達は一通り説明を受けて、それぞれが行動をし始めた。まず、先に購買へ向かうものも居れば、場所取りを先にしようとするものもいた。僕は最初は部屋の隅を陣取ろうと考えていたけれど、よくみると隅の方は掃除が行き届いていないのか、埃や虫の死骸が落っこちていた為、部屋の中央らへんに場所を取った。その後は二階でシーツと軽食だけ購入して、直ぐに食事を済まして寝ることにした。枕は持ってきたバッグを代替として使用することを思いついたので購入しなかった。

早朝、僕はいつも通りの時間に起きて、見張りの兵士の一人に断ってランニングを行った。戻ってくると、既に外に全員出てきていて、昨日案内してくれた青い隊服の兵士の案内を聞いていた。僕は直ぐに、建物から荷物を持ちだして、その中に参加した。そういえばその途中で思ったが荷物は置いていかない方がよかったもしれない。幸い漁れた痕跡はなさそうだったけれど、これも次からは気を付けよう。

どうやら、兵士の説明ではこのまま、目の前にある西の城門で受付を行って入ることが可能になるらしい。可能な限り、昨日の並びに近い列に近い状態に整列して、城門に向かうらしい。

僕は特に悩む必要が無く一番後ろだったので、昨日の記憶を掘り起こしながらなんとか整列を完了した人たちの最後尾に加わった。

・・・「次の人―!こちらで止まってください。最初に荷物検査をします」

朝からまた受付が再開して、今度は前に十人あまりの人しか居なかったので、昼前には僕の名前が呼ばれることになった。僕はあらかじめ開いていた手持ちバックの中身を受付の人に見せた。唯一の心配だが、遺物は神王国の許可書が無い違法所持物だ。見つかったら面倒な事になるけれど、そもそも目視で確認するだけなので、ぱっと見はアクセサリーや只の布切れ、それからレターナイフにしか見えない。僕は少し緊張しながら確認が終わるのを待ったが、案の定指摘は無かった。

「はい、確認できましたありがとうございます。当都市に五回以上滞在された方が持っている、短期滞在者照明はありますか?もし、無い場合はこちらの短期滞在者用の申請書類への記載をお願いします。」

どうやら、昨日の時点で早く列が進むときと、中々進まない時の差が激しかったのはこの書類のせいのようだ、ざっと見ただけでもかなり細かい要項の記述が求められているようだ。

・・・やっと終わった。記載を進める内に産まれた時から今までの略歴なんかを書かされた時はさすがに少しだけイライラしてしまった。

「では、こちらで滞在証の発行を行うので、そのまま少々お待ちください。」

「・・・はい、待ちます。ものすごく待ちます」

余談だが、神王国の位置する巨大大陸は神王大陸と呼ばれ、文字通り神王の統治下にあった。本来であれば同じ国の国民として、このような大仰な審査は不要な筈で、事実多くの都市ではもっと簡易な手続き、主に手数料の支払いで入ることの出来る都市がほとんどを占めていたが、この芸術都市はその成り立ちが特殊で、神王国のなかでも自治区となっていて、あらゆる都市機能、法律、治安維持が自都市で行っている。その為、このようにとても多くの手間をかけて出入りを管理しているのだ。

「お待たせいたしました。審査が完了いたしました。この滞在証明書をお持ちください。滞在中は都市の住民でなくとも法の適用がアルプレートの法に基づきますので、出来れば一度、役所に向かい滞在者向けのガイダンスを受けるのをお勧めします。まあ、これは僕の個人的な意見ですけれど、神王国の法律と大きく違う部分はそれこそ、芸術に関する部分ばかりですので、普通に過ごす分には問題ないのかもしれません。」

「ありがとうございます。」

僕は受付を担当してくれた兵士の方に挨拶すると城門から中へと入っていた。

都市の中は大通りを挟んで住宅や店舗などの店が軒を連ねている。これは、僕がこの都市に来る前に馬車の操手から聞いたことだが、この都市は四つの区に分かれていて、その中央区にはこの都市機能を司る巨大な中央役所がそびえたっているらしい。

僕は体内時計と太陽の位置を頼りに時刻が正午であると分かった。大通りにはこの規模の都市にしてはあまり人通りが多くないようだったが、それでもやはり、フルイの村やその後に立ち寄った村に比べるまでもない程の人の数であった。僕はとりあえず空腹を我慢して先に宿を探すことにした。


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