6話
あまりにも衝撃的な内容に僕は頭を抱えてしまった。あのあと、僕はその場にいた皆へ断って、一度、一人にしてもらった。ラータマさんとは夜ごはんの約束をして別れた為、昼ご飯は自分で露天のおばちゃんからサンドイッチを二つ買ってから、帰った。
本来であれば、僕は先達のヤノ・フルイから冒険者として、選ぶ祝福のアドバイスとか、記された祝福について知っている事とかを聞こうと考えていたのだが、この結果は明らかに異常で、相談することは出来なかった。
まず、冷静にもう一度、祝福の一覧を読み解く。やはり何度見ても祝福の内容がおかしい。もちろん巷で聞くことのある祝福の種類の中にもこのような、複数効果の祝福や、完全に僕個人の事情を察した祝福や頭のおかしい過激な祝福は存在していない。あえていうなら、挑戦者の中でも数少ない試練の地の生還者が受け取った祝福の中には“加護”という種類の祝福があるという噂はあるのだが、影の試練や三つの試練においては与えられる祝福の種類というのは殆どが判明している。
「はあ、これはどうしようかな」
それぞれ、精査していく。まず、一つ目の祝福に関しては、村に居る間に僕がどれだけ頑張っても取り戻すことが出来なかった、慢性的な記憶喪失になる前の、僕がヤツ爺と共に門番をしていた時の力の事だ。主にヤツ爺と同レベルの剣術と“破衣”という遺物を使いこなすことを、目指していたが結局、僕は記憶を取り戻すことも、実力を過去の自分に追いつかせることも出来なかった。それを考えると、この加護はもしかしたら、これからの冒険や挑戦に凄く役立つかもしれない。けれど、一つだけ心配がある。それは、ヤツ爺が話していた、過去の僕が持っていた特殊ないくつかの力の事だ、それはこの村であれば影響は少ないが、世界に入ってからは、あまりにも危険な力になるかもしれないと危惧していた。村を出た後に、もし思い出しても決して人の住む領域では気軽に使う事の無いように言い含められていた。そんな、得体が知れない力まで思い出してしまう可能性があるのであれば、僕にはこの祝福を選ぶことは出来ない。僕は、マワリを追うことを目的としているから、その目的を果たすだけであれば、過去の力を取り戻し、邪魔を撥ね退け力任せに強引に彼女の居場所を探し出してい行けばいい。しかし、きっと過去の自分の忌まわしい記憶の障害と向き合い、そうしていつか完全にその問題を解決しなければ、マワリにあっても、また悲しい思いをさせてしまうだろう。
だからこそ、僕は遠回りをする。きっと、それが彼女の望みでもあるはずだから。かつて思い描かれた彼女の筋書きが僕には手に取るように分かった。
僕は二つ目の祝福を見る。これは一体どういうことか、僕には正直理解できなかった。祝福とはそもそも、試練管理局の運営に基づいた試練を克服した者に、神王様から祝福を与えるという、ものだったはずだ。その祝福の内容が世界を破壊する力な筈がない。当然、未だに自分の力の制御が怖くて最初の加護を避ける結論に至ったのだから、これに関しても同じだ。
というわけで、最後は消去法で決まった。
僕は意を決して、その祝福を声に出してはっきりと発音した。
「祝福、友人へ贈る祝福と祈念」
出来るだけ小声で、発音ははっきりとしながら唱えると、身体の周りに仄明るい光が生まれやがて、消えると、祝福の紙は白紙に戻っていた。まるで、先ほどまでの事は全て幻覚なのではないかと思うほど僕の緊張と意気を削ぐような呆気ない終わりだった。
僕は身体の様子を確認して手を握ったり開いたりしながら、祝福の効果の一つの身体能力微向上の効果が気になっていたが、なんだかんだ、考えたりぼーっとしたり、自分でも気づいていなかったが、もうそろそろ夜になる。ラータマさんとの約束があるので、僕は一旦、祝福の効果について、覚えているうちにメモ用紙に清書しておいて、いつでも効果を忘れずに試せるようにしておいた。僕は身だしなみを整えようとして、自分の服装をみた。これは、僕が目が覚めてから、元々着ていた服は処分してもらった後、入院着では外に出ることが出来ないので、ゼン先生にお金を支払い用意してもら服で、この村の独自の模様だろうか襟元に青い格子状の模様が広く入れられた布製の白い服だった。なんだかこれを着ていると、この村の風土や歴史を感じることが出来て少し旅行気分で浮ついてしまう気になるけれど、出来ればこの先の大都市などに入る前にもっと目立たない普通の服も何着か着替えとして用意しておいた方がいいだろう。僕は明日の馬車に乗る前に早起きして調達することを決めた。
*
「あ、そうだ。」
僕は待ち合わせの店に入る前に昼にラータマさんから貰っていたブレスレットの事を思い出した。昼の試練の前に外してポケットに入れたままだった。僕はせっかくなのでそれを着用してから、お店に入った。
店の中は暖かな光に溢れていて、カウンターの席といくつかのテーブル席が置かれていた。僕は店の端の席で待っているラータマさんをみて少し考えた。もしかしたら男が後から来るのは非常識だったか、しかも相手は目上の相手だし。一応時間通りには来られたけれど、次からは気を付けなければいけないな。そう思いながら、こちらを見てきたウエイターの人に一言声を掛けて、ラータマさんの席に向かった。
「お、来たねー!未来の冒険者君!よおし、そこ座って、ほらこれメニュー表!おすすめはー、大鋼鱗魚の煮つけだよ!もちろん私の奢りだよ!お酒はまだ飲めないだろうから、好きな果実の飲み物頼んでねー」
僕が席に着くと、ラータマさんは既にお酒を飲んでいたみたいで、いくつかの空のグラスと、茹でた赤い豆のおつまみが置かれていた。
「ありがとうございます。あ、僕からもラータマさん、改めて命を救ってくれてありがとうご
ざいます。これ、良ければ貰って下さい。」
僕は、朝に思い立って用意したお礼の品を手渡した。ちょうどいいタイミングだったと思う。明日にはお別れになってしまうし。
「んえ?ほんと?あ、これって茶屋のオリジナル紅茶じゃない。しかも一等品だ。うわー、めっちゃ嬉しい。これ村に滞在中ずっと買おうか迷っていたのよ。でも、茶器は持ってきてないし、買うには少し高いからね。ありがとう!けど、命の恩人だなんて、私かも言わせてほしいけれど、今日は影の試練で守ってくれてありがとうの、私からしたら影の恩人だよ。」
どうやら、喜んでくれたみたいだった。事前情報が全くない状態での贈り物になってしまったから、かなり賭けの要素が強くなっていて不安だったが、一安心した。
「いえ、いえ。あの時は本当に驚きましたが、結局、あれも僕の試練に巻き込まれた形でしょうから、よかったです守れて。」
「うんうん、そうだよねー、まあ、お互い影を失わなくてよかったねー、影なしは冒険者なら馬鹿にされちゃうし、私の場合は何か取引相手に不信感や不要な警戒をされてしまうことになったかもしれないからね。」
話していたら、ウエイターのおばさんが大きな煮魚の乗った皿を運んできた。目の前におかれた魚は本当に大きかった。僕の腕の全長くらいある魚で、厚みも幅もとにかく巨大という印象だった。
「うわー、やっぱり大きいね。でも大丈夫、本当においしいからすぐ食べ終わっちゃうよ!あ、もし、食べきらなくても、お姉さんに任せてね。」
「あ、ははは、とても大きくて食べきるか不安になりますが、ご心配無用です!僕は故郷に居る間にどうしても早く大きくなりたくて、お肉を沢山食べていたんです!」
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「うう、ちょっと、ごめんなさい。ラータマさん一口味見しますか?」
「うん?あれー?もう十回目の味見だけどね!素直にお姉さんを頼ってくれてもいいんだけど、かわいいなー」
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「ふう、ありがとうございます、ラータマさん。魚の煮つけとても美味しかったです。」
「うーん!久しぶりにいっぱい飲んだし、食べた!凄い楽しかったし、楽しいことが嬉しかったよ!商売中は私ずっと一人で旅していたからさ、イア君と出会えてよかったよ。またどこかで会えたらいいね。というか、まあ神王国を拠点に冒険者をするのなら、多分、夏の前くらいには私もそっちに向かってしばらくは商売するだろうから、またあったらよろしくね」
僕達は、ゆっくりと食事を取りながら雑談を交わして、そうして、店の前で別れた。
帰り道、僕は凄く奇妙な気持ちになった。胸の中が温かくて、それでどこかソワソワするようなそんな不思議な居心地の悪い気持ちだった。たぶん、これからも人と出会って深くかかわって、そうやってこの気持ちを繰り返すのだろう。きっとこの気持ちと共にある、記憶は忘れない。この先もずっと覚えているだろう。
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