12話 王都へ
「おはようございます、ご出発ですか?」
次の日は予定通りの時間に起きることが出来て、昨日は出来なかった早朝ランニングを敢行することが出来た。戻ってきて最後に大浴場をゆっくりと堪能して、朝ご飯を食べると既にもうこの宿に対する名残惜しさが生まれていたけれど、僕はチェックアウトをすることにした。
「お世話になりました!」
僕は鍵を返してそのまま宿を後にした。
神王国首都行きの馬車の駅がある東の門に向かうと、既に行きに乗ってきた馬車よりも二回り大きな、巨大な荷台を引く馬車が止まっていた。僕は馬車の隣に立っている男に運賃を払って馬車に乗り込んだ。これからの日程は一日かけて神王国首都プレールに向かうことになる、馬車は途中停留所は無く、止まることなく走り続けるらしい。その為、今夜はこの馬車で大きな揺れの中で眠ることになるので覚悟が必要だ。僕はしばらくしてゆっくりと走り始めた馬車からこの二日間過ごしてきた芸術の都に恥じない素晴らしい街を名残惜しみつつ見送った。
*
「お客様にお知らせです、間もなく首都プレール東門へと到着いたします。首都プレールは入都に際して簡単な手続きがあります。到着いたしましたら、王国兵士の方の案内に従い受付をしてください。なおこの馬車は直ぐに折り返します、忘れ物はございませんよう、お荷物の再確認をお願い申し上げます」
運転手の男が乗客に聞こえるくらい大きな声でアナウンスを始めた。馬車の前方にはアルプレートの街とは比べ物にならないほどの巨大な城門が見えてきた。
「ようこそ首都プレールへ、手荷物チェックを行います。その後は犯罪者アーカイブに登録が無いか確認するため、こちらの遺物に手を翳してください。」
門番の兵士が順番に手荷物を確認していき、それがすべて終えた後に受付を担当する兵士へ報告が行われ、問題が無いことが確認されると、一人の兵士が手のひらサイズの石板を持ってきた。
「これは遺物の“善性の板”です。これで簡易的に犯罪を犯しているか確認させてもらいます、もしもこの板が割れたり、歪んだりした場合は可能性ありとして、一度、王国兵士管轄から、首都治安部隊の本部管轄に移って貰って、犯罪者アーカイブに乗っていないか正式に調べが終わるまで拘留となります。それでは順番にお願いいたしまーす」
*
僕はそのあと問題なく受付を済ませて、やっと僕の旅の拠点となる予定の首都プレールに到着することが出来た、神王国の首都には僕の目指している冒険者の組合があり、そこで国家資格を取れば冒険者になることが出来る。冒険者組合の場所は既に門番の人に質問して知ることが出来ていた。まずは旅の基本の宿の確保なども視野に入っていたけれど、僕はどうしても先に冒険者組合の実物を見てみたかったので、先にそちらの方面へ向かうことにした。
街の中の作りは芸術都市とそこまで変わらずに、四つの区に分かれていて、北区には見上げるほど巨大な王城が位置していて、その周辺には官僚や政府関係者が住んでいる。西区は冒険者組合が存在していて、必然的に住人の割合も冒険者やその関係者が多くなっている。東区と南区はそれぞれの特色は存在しないけれど、目玉の観光地はちらほら存在していた。町の造りこそ芸術の都と同じらしいけれど、こちらは道幅も百人が手を繋ぎ広がってもあまりあるくらい広く、建物のサイズも規格外に大きい物がちらほら見えている。
僕はふと歩きながら気になって、貴重品入れの財布を取り出して中身を確認した、ヤツ爺が用立ててくれた当面の生活資金だけれど、ここに来るまで特に出費について深く考えずに行動をしきたけれど、ここからは少なくとも冒険者の試験に受かり正式に冒険者組合に所属出来るまでは残高に気を使わなければいけない。
財布の中を検めてみると、現在の残高は二十万イエンと小銭が五百イエンほどになっていた。ここまで来るまでに既に五万イエンほど出費があったようだった。しかしこれまでの出費の内訳を考えればその大半は運賃が占めていたので、仕方のない部分がある。
二十万イエンでこの首都で無収入で生きていけるのはどれくらいの期間だろうか、食費、生活費、宿代を含めて考えたときに、最低ラインはおそらく一か月ほどになるだろう、もちろん僕も節制を心掛けるつもりだから、これよりは努力次第ではもう半月程は延命が可能になるだろうけれど、そこまでしたとしても期間は一か月半となり、冒険者の資格に何度も落ちている余裕などは存在しない、筆記も実技も絶対に一発で合格しよう。そう覚悟を決めることになった。
そのように意気込んでいたら、気づいたらもう冒険者組合のある西区に入っていた、西区は先ほどまで歩いていた東区とは打って変わって、歩く人の姿がとても少なく、建物もどこか人の気配がしなかった。
しばらく歩くと、巨大な木造の三階建て建築の冒険者組合が見えてきた、看板の横には神王国 の国旗が両側に掛かっていて、その外観のまさしく栄光の登竜門としての威容を放っていた。
ここが僕が村の中で憧れた多くの物語が始まる舞台だ。この場所に至った経緯を思うと僕は感慨深く思った。あの停滞した村の停滞した僕をここまで連れてきてくれたのは間違いなくマワリちゃんのおかげだった。人の通りも少ない道で周囲を気にすることもなく存分に感慨に耽っていると、急に組合の扉から一組の男女が出てきた。僕は咄嗟に門の前で佇む姿を客観視して気まずくなり、目線を少しずらしたけれど、その二人はこちらに気が付いて僕に話しかけてきた。
「あ、もしかして見学?王立中学の生徒さんかな?右奥のコーナーには見学者向けの簡単な展示室とかあるから気軽に入って大丈夫だよ。君くらいの子は良く来るんだけど冒険者志望でしょ?」
二人の内の男の方が前のめりでこちらに近寄ってきた。僕は一瞬身構えてしまったけど、どうにか怯むのを押しとどめ、男の方を見た。
男の格好は黒い儀礼服で所謂喪服と呼ばれるような類のものだった。隣に並んだ女も同じいでたちで、僕は少し不思議に思ったけれど顔には出さず心掛けた。
「いえ、僕は冒険者試験を受験しに来ました。辺境の地より旅をしてきて、まださっき首都に到着したばかりで、ここには受験の予約をしに来たのです。ただ、お恥ずかしながら少し緊張してしまい、ここで二の足を踏んでいたのです。」
僕が勘違いと誤解を言外に説くために、敢えて少し背伸びした話し方を選んだけれど、どうやら効果は少なかったようで、僕の言葉を受けて二人は目を見合って驚いていた。
「え?そうか、それは失礼した。けれど、これは疑っているわけでは無いけれど、君はまだどれほど高く見積もっても、成人したてだろう?一度でも攻撃性のある試練は克服しているのかい?受講資格の一つなんだけれど」
彼らの驚きは最もであった。確かにいくら冒険者を夢見る青年でも成人したてで三つの試練の一つでも克服をしているとは考えにくい。特に冒険者を目指すものや力を求めるものに与えられる攻撃性のある試練は未成年が一人で克服出来る類ではないし、毛が生えた程度の成人したての子でも難しいだろう。大抵は成人してから専門の機関で訓練を受けてから早くても二年はかかる物だ。しかし、僕は少し事情が違った、ヤツ爺より祝福を得られない可能性を提示されていたので、いざというときは三つの遺物の力を頼るつもりでいたし、それくらいのズルをする気でいた。けれど、今の僕は正真正銘、祝福の克服者となった。しかも文句なし、純度百パーセント攻撃性が約束されている影の試練だ。
「はい、存じ上げています。間違いなく受講資格は満たしています。それでは僕は行きますね。ご心配ありがとうございます。」
僕はそう早口に言葉を言い放つと相手の返事は待たずに逃げるような勢いで先ほどまで開く勇気が無かった扉を押し開けた。
*
組合に入ると巨大な空間になっており、待機列用の線が引かれていて正面には十口以上の受付窓口が連なっていてた、しかしこれだけ窓口が連なっていてそれぞれの待機列用の案内まで床に示されているけれど、それに並ぶものは居らず、窓口も一番右端と中央の窓口のみ開かれていた。
「えーっと」
どうやら、案内看板を見ると中央に開いているのが依頼・遠征申請カウンターらしい。そして右端のカウンターが受験やその他のインフォメーションカウンターになっているようだった。
それにしても不思議な感じだ、組合の中は受付カウンターに並ぶ人が居ないどころか、他のどこにも受付の係員以外の人の姿が無かった。
僕は右のカウンターへ進み、受付を担当している顔に皺が刻み込まれた壮年の女性に話しかけた。
「あの、冒険者志望で来たのですが、資格受験の受付ってお願いできますか?」
僕がそう尋ねると、こちらを一瞥して笑顔で頷いた。
「はい、受験の受付は可能です。恐れ入りますが受付の前に受験条件を満たしているかの判別を行いますので、こちらの遺物を手に取っていただけますか?こちらの遺物では年齢と克服回数を判別することが出来ます。」
受付の人はそういうと手のひらサイズの水晶玉を渡してきた、これは“人の玉”という遺物を汎用化に成功して主に冒険者組合や役所の手続関係で使用されている。この玉に設定した内容の情報を人から映し出すことが出来る遺物だ。この遺物を使用する際は設定した内容を相手に伝えなければいけないという法律で決められている。今回で言えば設定された内容は年齢と試練克服回数ということだろう。それ以外の情報が抜かれることはない。
僕は手のひらに置かれた水晶玉を注視していると、水晶玉には1128334という暗号化されている数字の羅列が現れた.
「えーと、1128334ですね。はい受験資格は問題なくあるみたいですね。それでは受験の受付ですね。えーっと、受験日は最短で明後日になりますが、当時は朝、昼、午後の部で空きがあるのが朝の7時の部のみになっています。どうしますか?」
「はい、それでお願いします。」
「かしこまりました。四月十五日の日曜日朝7時に予約いたしました。試験内容についての説明は必要ですか?また、質問などがあればお答えいたします」
「あ、内容について説明をお願いしたいです」
「はい、当日の試験会場はこちらの組合二階にありますので当日は7時よりも少し早めにこちらに来てください。受験に際して必要な持ち物はございませんが、二科目合わせて試験時間は凡そ二時間になります。もし必要であれば軽食や飲み物など持参いただいてもかまいませんが、試験中は試験官の方で持ち物全て預けていただくこととなっておりますのでご理解ください。当日は筆記試験から始まり、小休憩を挟み会場を移動してから実技試験となります。筆記試験に関してはこちらの窓口で過去問題集の販売もしておりますので、必要であればご利用ください。」
受付の人は淀みなく説明を行いこちらの様子を伺った。
「説明は以上になりますが、質問はございますか?」
「いえ、ご丁寧にありがとうございます。あ、もし知っていればなんですけど、周辺で泊まれる安宿はありますか?」
「はい、それでしたらこの冒険者組合の目の前にある宿をご利用いただけますよ。それ以外ですとこの西区内でしたら今の時期はどこも閑古鳥なのでどの宿も低価格で宿泊することが可能になっております」
これは思わぬ情報が飛び込んできた。そういえばここに来るまでの人の気配の無さと言い、冒険者組合の中の寂れ具合といい何か特別な理由があると思っていたところだった。
「それでしたら宿の心配はする必要なさそうです。そういえば、ここに来るまで西区に入ってから通りに人が少なくって、この組合内も聞いていた様子と少し違うみたいですけど何か理由があるのですか?そのこの時期というのは?」
「実は冒険者組合は毎年二月から三月末まで開拓地遠征に関する業務を停止していまして、それでほとんどの冒険者は年末から一月にかけて帰ってきて、一か月間は休暇をとり、営業開始に合わせて四月初めくらいから開拓地遠征する人が多くなっています。そのため四月、五月までは西区全体で閑古鳥の大合唱です、冒険者見習いで依頼をこなす少数の人とあなたのように受験をしに来る人くらいしかいませんね」
なるほどそういう理由があったのか、ここまで来るまでの違和感に合点がいった。それに思いがけず僕は来る時期が良かったようだった。
僕は受付の人に再度お礼を言って、その場を後にした。
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