ドバシュンッ!!
「まず、おまえを置いていく」
「っ……」
「勘違いするな、見捨てるわけじゃない。俺とユニヴェールが騎士たちを連れて戻るから、おまえは身を隠せる場所で休んでいろ」
そんな場所があれば、アークトゥルスはすでに身を潜めていただろう。
「そんな場所、あるだろうか」
弱気が覗く。シリウスが小さく溜息をついた。
「ここへ来る途中に、具合のいい洞穴を見つけて休憩をとった。仲間のひとりが、今もそこで休んでいる」
「大丈夫ですよ。ちゃんと結界を張ってありますので」
それなら大丈…………うん?
「結界? 神官や聖女が作る、あの結界じゃないですよね?」
「その結界です。わたし、こう見えて元聖女なんです」
ドバシュンッ!
天使のどでかい矢が、アークトゥルスの心臓を貫いた。
(まずいまずいまずい……ッ。これは刺さる! 聖女とか……ッ、ユニヴェールさんにとても合ってる! 聖服を着たユニヴェールさんは完璧の最上位じゃないか! エプロンドレス姿に大鎌も最高だし小悪魔もびっくりの眼福、眼福どころか目が潰れそうなほど眩しいけど、聖服姿で祈りを捧げる姿はさに至宝! 天使! もはや神! 女神ッ! そうか、私は聖女属性をもっていたんだな!? いや、女神属性!? だから異性愛者なのに身体的興味がもてなかったんだな!? それをユニヴェールさんが教えてくれた! これぞまさに天運! 抗うことなど不可能! 今この瞬間から、私はユニヴェールさんの下僕となろうッ!!)
ふふふふふ。アークトゥルスの口から笑い声がもれる。
「頭も打ったようだ」
シリウスの辛辣な言葉など、今のアークトゥルスにとってはそよ風のようなものだ。
ユニヴェールが本能的に身を引いたことに、アークトゥルスは気づかなかった。
「聖女様が、冒険者になることもあるんですね」
目の中にハートが浮かんで見えそうなアークトゥルスに対して、ユニヴェールはびくびくしながら頷く。
「今は、宿屋の亭主です。25階層で宿屋を営んでます」
「俺と一緒にな。ユニヴェールと俺の宿屋。つまり、俺たちの我が家だ」
いちいちシリウスがユニヴェールとの仲を主張してくるも、すべてアークトゥルスの耳を爽やかにすり抜けた。
「ダンジョンで宿屋とは……さすがユニヴェールさんです」
「ありがとうございます?」
なにが『さすが』なんだろうと言いたげに首を傾げながらもお礼を言うユニヴェールに、アークトゥルスは身も心も熱くなった。
今にもアークトゥルスを放り投げそうなシリウスに肩を貸してもらって、移動する。
「カラ」
洞穴のような横穴に入ると、子どもがひとり寝そべっていた。
「子ども?」
「仲間のカラです」
ユニヴェールが紹介してくれる。本を読んでいたカラという少年がアークトゥルスを胡乱そうな目で見た。
「なに、そいつ。拾ったの?」
「そいつではありません。隣国の皇子様ですよ」
「へえ、でもダンジョンでは皇子とか関係ないよね」
カラは子どもにしてはシビアな少年のようだ。よいしょという具合に起き上がる。
「カラはこう言ってますが、とてもよい子なので安心してください」
ユニヴェールが言うのなら間違いないだろう。なにせアークトゥルスの女神なのだから。
「これからの計画を説明する」
シリウスが簡潔に説明してくれた。
シリウスとユニヴェールで騎士を探しに行き、その間はカラがアークトゥルスの面倒を看る。
騎士を見つけ次第、シリウスとユニヴェールは彼らを連れて戻ってくる。最長でも二週間で見切りをつける。三日たってもシリウスとユニヴェールが戻らなければ、カラは自力で宿屋へ戻る。
「この人を連れて宿に戻ればいい、ってことだよな」
「帰り道はわかるか?」
「まあ、大体。ほぼ道なりだったし、途中に看板も立ててきたしな」
「最悪の場合は、こいつを見捨ててひとりで宿へ戻っていい。共倒れはするな」
シリウスのセリフはひどい。でも自己責任なのがダンジョンだ。
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