絶対はない
「この人の体調をみてだけど、結界石に余裕があるうちに戻る。ここにも宿にも戻ってなかったら、探しに来て」
「ああ、そうしよう。では」
「待ってください! もう少し結界石を作ってから出発しましょう」
ユニヴェールが心配して聖石に結界を付与する。カラが「俺、二十個持ってるけど」と呟くも、ユニヴェールは受け入れずに十個ほど追加した。
「美しい……さすが女神です」
金色にキラキラと輝くユニヴェールを見て、アークトゥルスがうっとりと口走る。シリウスはもちろん、カラまで蔑むような半目になった。
「こちらは、わたしが調合した鎮静剤と解熱剤です。どちらも六時間毎に一包ずつ。一緒に飲んで構いません。あ、もちろんタダじゃありませんよ。あとでお代を請求しますからね」
「もちろんです。いくらでも請求してください」
「ユニヴェールの薬はよく効くぞ。感謝しろ」
「感謝どころか、足に口づけたいくらいだ」
ユニヴェールが青ざめた顔でドン引きした。そんな姿もまた可愛い。
今のうちに薬を飲んでおく。時間はカラが計ってくれるというので、目覚まし機能がついた時計をアークトゥルスが貸した。
「もうひとつ、明かりを置いていきます」
ユニヴェールがポンと手を打つ。小さな明かりが灯った。
「これは……魔道具ではなかったんですね」
先ほどから不思議に思っていた明かりは、ほんのりと温かい。
「神聖力ですか?」
「ルミエール様からいただいた加護です」
「小さな太陽みたいなものだ」
なんて不思議な力だろう。シルヴェニア帝国でも多くの神官と聖女を雇用しているが、ここまで稀有な加護は見たことがない。そもそも加護をもつものが極端に少ない。
(温かい……。本物の太陽のようだ)
ただただ魅入ってしまう。
ユニヴェールは他にも食材をカラに渡す。カラはそれを手持ちのポーチにしまっていく。ストレージバッグなのだろう。
「もしかして、ストレージバッグもユニヴェールさんが作ったのですか?」
「はい。見よう見まねで作ってみました」
原理は知っていたけれど作ったことがなかった。なぜなら材料となる魔石が買えなかったから、らしい。神殿には大量の魔石があったけれど、それを個人でもつには買わないとならなかったそうだ。
ユニヴェールの謝儀が少なく魔石を買う余裕がなかったそうで、だから作り方を知っていても作れなかった。それが今は作り放題らしい。
(これほどの加護があって、神殿はなぜユニヴェールさんを手放したんだ?)
そして自分は、なぜ今までユニヴェールを見かけなかったのだろうとアークトゥルスは首を傾げたくなった。神聖国へは何度も足を運んでいるのに、目立つ桃色の髪を見かけたことがない。
「カラ、結界は無駄になってもいいので早めに使ってくださいね。眠っているときに効果が切れるかもしれないので」
「わーってる。今までどんだけ使ってきたと思ってんだよ」
カラは自信があるようだが、シリウスは釘を刺した。
「ここがダンジョンであることを、忘れるな」
絶対はない、と言いたいのだろう。カラも「うん」と素直に頷く。アークトゥルスも改めてダンジョンという単語を胸に刻んだ。
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