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航空傭兵の異世界無双物語  作者: 弐式水戦
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第76話~近況報告と揉め事~

 ブルームとゴルトの一件が一先ず解決した後、シロナに迫られた神影は城を出てからの生活について話していた。

 自分達が戦闘機を使う能力を持っている事や"黒尾"を壊滅させた事を言うのは流石に憚られたため、冒険者登録をした後、主に依頼や迷宮攻略で生計を立てながら過ごしていた事だけを伝えた。


「な、何と言うか………私達とは違って随分と順風満帆な生活を送っているようね」


 神影が話を終えると、シロナが何とも言えない表情を浮かべてそう言った。

 彼が城を去ってからは、幸雄や太助が若干荒れ気味になっていた上に沙那達も寂しがっていた事に比べると、彼等の生活の雰囲気の違いは明白だった。


「まあ城に居た頃と違って、何があっても自己責任である代わりの自由があるし、何より差別されないのでね。ホント、城と比べりゃ何倍も過ごしやすいぜ」


 其処で一旦言葉を区切り、皿に残っていた菓子を幾つか摘まんで1つを口の中に放り込み、残りをエリス達に分け与える神影。

 その余裕そうな立ち居振舞いから、城と言う名の大きな籠の中に閉じ込められた鳥のような生活を送っている勇者組とは違って、誰にも縛られない、自由でのびのびとした生活を送っていると言うのが目に見えて分かる。

 この国を救う存在として常に期待され、また、羨望の眼差しを浴び続けると言う気の休まらない生活を送っている太助や奏達は、そんな神影の生活を羨ましいと感じていた。


「それは何よりだが、せめて天野達にも何か残しておいてほしかったな。あの時見つけた君の置き土産は、幸雄や私への手紙1つだけだったから」

「うぐっ………そりゃ、すまん」


 せめてもの嫌味とばかりに太助が呟いた一言に、神影はダメージを受けたかのように仰け反った後、先程までの余裕が嘘のように引っ込んで縮こまる。


「でも良かったわ。城を出てからの生活に慣れて、私達の事なんてどうでも良いと思っているんじゃないかと不安になってたから」


 そんな神影を見た奏が、安心したようにそう言った。


 城で生活していた頃の神影の立ち位置は非常に悪く、常に蔑みの眼差しを向けられる日々だった。

 それに奏や沙那や桜花、そして幸雄や太助と言った一部を除いた勇者組も、訓練についてこられなくなる神影に見下すような視線を送る者が多数居たため、そんな生活から解放された事で自分達への興味を完全に失ってしまっているのではないかと、奏は考えていたのだ。


「いやいや、そんな事ねぇよ。他の奴等は正直どうでも良いが、流石に最後まで味方してくれたお前等への恩を忘れたら罰が当たっちまう」

「それにミカゲの奴、何時も君達の事を話してたからね…………本当、羨ましい限りだよ」


 そう付け加えるエーリヒは、太助や奏に微笑ましそうな視線を送っていた。


「な、何か古代の奴………変わったわね」

「う、うん。何と言うか………ワイルドっぽい感じ?」


 それを遠巻きに見ていた赤崎涼子が、隣に居た花岡はなおか 沙紀さきと囁き合う。

 外向きにカールした紺色セミロングの髪につり目を持ち、明らかに『気が強い女の子』感を出している涼子とは違い、沙紀はサイドテールにした茶髪を持ち、左の肩から垂れている部分を三つ編みにした内気な少女だ。

 この2人ともう1人、間延びした喋り方が特徴の少女、神崎かんざき 陽菜乃ひなのの3人組で、よくつるんでいる。


「う~ん………ワイルドって言うよりぃ、軍人さんって感じだと思うよ~」


 機嫌が悪かった時の神影が放っていた強烈な威圧感や、この世界に来る前と比べた時と比べて口調が荒くなったと言う観点から、そのような感想を溢す陽菜乃。


「(エーリヒやアイシス達にも言われたけど、俺そんなに雰囲気変わってるのかな……?)」


 それが聞こえていた神影は、内心不安そうに呟いた。


「ああ、そう言えば古代」


 ふと何かを思い出したかのように両手を合わせた太助が、神影の方を向いた。


「迷宮を攻略したりして過ごしていたらしいが………今の君のレベルは、幾つなんだ?」

「…………」


 その質問を受けた瞬間、神影は凍りついた。

 とは言っても、別に城を出る前から全くレベルが変わっていない訳ではなく、寧ろ異常なまでのレベルアップを遂げている。

 何せレベルが80を上回っている事に加えて全ステータス値も非常に高く、足を引っ張っている魔法面でも4000を超え、それらの数値は、今でも勝手に上昇しているのだから。

 この事を馬鹿正直に伝えればどのような反応を返されるのかは、考えずとも分かる。

 調査隊は、かつて無能扱いしていた事など無かったかのように手のひらを返し、戦力として王都へ連れていこうとするだろう。


「ま、まあ、1人でも生活していけるくらいには強くなった………んじゃないかな?毎日エーリヒと一緒に特訓して、その都度アドバイス貰ってたし」


 幾ら親友とは言え、状況が状況であるために自分のステータスをありのままに暴露する事は出来ない。

 そのため、神影は気まずそうに頬を掻き、視線を明後日の方向へと向けながら曖昧な言い方をする。


「………そうか」


 笑顔を浮かべて言う太助だが、その表情は何処と無く寂しそうなものだった。

 太助としては、もし伸び悩んでいるなら何かしらのアドバイスをしてやろうと思っていたのだが、エーリヒがその役目を代わりに果たしており、もう自分がアドバイスしてやれる事は残されていないんだと悟ったからだ。

 ずっと見下されてきた親友が強くなっているのは素直に嬉しいが、もう少し自分や幸雄が傍で教えてやりたかったと、太助は思った。


「ところで古代、念のために聞くんだが……………もし、勇者パーティーに戻らないかと聞かれたら………?」

「無論、拒否する」


 あっさりと答える神影。

 その当たり前だと言わんばかりの表情に、太助や奏と言った一部を除く面々は、『えっ?』と間の抜けた表情を浮かべた。


「お前や瀬上達には悪いけど、学校でもこの世界でも散々な目に遭わせやがった連中に力を貸す気はねぇんだ。俺にだって、許せる範囲ってヤツがある…………大人気ねぇけどな」

「そうか………まあ、分かっていたよ」

「……………」


 その言葉に頷いた太助と奏は、何も言わずに引き下がった。

 シロナや涼子達も、神影への悪口がそこかしこで囁かれているのを聞いていながらそれを止められなかった事を思い出し、その負い目から気まずそうな表情を浮かべ、そのまま何も言わない。


「おい、古代。それは本気で言っているのか?」


 神影の発言に唯一反論出来る者と言えば、この男、聖川勇人くらいしか居ないだろう。


「お前は、この国がどんな状況に陥っているのかをもう忘れたのか?」

「国王が魔王に呪いを掛けられたって話だろ?覚えてるよ」


 邪魔臭そうに答える神影だが、その態度は勇人の怒りに拍車を掛けるだけだった。

 

「それが分かっているなら、なんで仲間に協力しようとしないんだ!魔王を倒して国王を助けるためには、1人でも多くの戦力が必要なんだぞ!そんな()()()()()を気にしている場合じゃないだろ!」

「………くだらない事?」


 捲し立てる勇人に、神影の冷めきった眼差しが向けられる。


「あ、ああ。そうだ!国王が呪いを掛けられて、その命のタイムリミットは今こうしている間にも迫ってきているんだ!お前の個人的な恨みを言っている余裕なんて無いだろ!」

「ちょっ、勇人!!」


 神影が受けてきた理不尽な扱いをそのように言い表す勇人に、奏が声を張り上げた。


「(コイツ、人の気も知らないでよく言えるな………それに、あれだけ理不尽な扱いしといて何が仲間だ、笑わせる)」


 神影は、男子生徒に敵視された日から数えて半年以上も理不尽な扱いを受け続けている。

 おまけに、この異世界に召喚されてからは貴族や騎士達からも見下される始末。

 元から頑丈な精神を持っている神影でも、流石にこれだけ理不尽な扱いを受け続ければ、許す気も失せると言うものだ。

 しかも勇人は、神影がいじめを受けている時でも、何時もの善人論でいじめをする側ではなく、受けている側である神影に説教をする。

 何かと言えば難癖ばかりつける癖に何が仲間だと、神影は思っていた。

 

「聖川………お前と言う奴はぁ!!」


 勇人の言い分に完全に激怒した太助が飛び出して殴り飛ばそうとするが、それを神影が止める。


「こ、古代!?なんで………」

「……………」


 何故止めるのかと問い質そうとする太助だが、神影の冷めきった表情に怯んで勢いを失う。

 

「………良いんだ、篠塚」


 それだけ言って後ろへ下がらせた神影は、エーリヒに視線を向ける。


「…………」


 その視線を受け、何も言わずに頷くエーリヒ。

 その行動は、『君の好きなようにしたら良い』と語っていた。


「(了解。なら好きなようにさせてもらうぜ)」


 その行動で相棒の意図を読み取った神影は、勇人へ向き直って言い放った。


「お前が何れだけピーピー喚き散らそうが、俺の意見は変わらねぇ。お前等の元には戻らねぇし、手も貸さねぇ。俺は俺でやりたい事があるんでな。それを邪魔されるなんて真っ平だ」

「…………!」


 完全に拒絶宣言を叩きつけられた上に邪魔者扱いされた勇人は、怒りのあまりに何も言えなくなる。

 遠巻きに様子を見守っていた功や恭吾、そして、本来は別のクラスの所属で、偶然にも神影達の教室に来ていたために今回の異世界召喚に巻き込まれた元浜もとはま 秋彦あきひこと言う男子生徒も、不快感を露にして神影を睨んでいる。

 これまで、ずっと格下だと見下していた神影がこれ程にも反論してくる事が、余程気に入らなかったようだ。

 それに恭吾は、ファンタジー系創作物においては神影以上のオタクと言う事から別の考えも浮かんでいるらしく、怒りとは違った感情も織り混ぜていた。


「まあ、そう言う事だから」


 そう言って勇人に背を向け、エリス達を連れて相棒であるエーリヒの元へと歩み寄っていく神影。


「……!ま、待て!」


 だが、其処で何かを思い付いたような表情を浮かべた勇人に呼び止められる。


「其処まで勝手ばかり言うなら、俺達と勝負しろ!」

「……勝負?」


 歩みを止めた神影が、ゆっくりと振り返る。


「ああ、勝負だ!もし俺達が勝ったら今までの発言を全て撤回し、一緒に王都へ戻ってもらうぞ!」

「…………」


 ただ口で言っても駄目なら次は実力行使に出るつもりかと、神影は内心呆れ果てる。

 自分達はギルドに所属する冒険者であるため、基本的に中立の立場となり、それについて国家や騎士団、はたまた勇者が口を出す事は許されないと言う事を伝えても、勇人は『そんなもの関係無い』と返して聞く耳を持たない。


「いい加減にしろ聖川!さっきから勝手ばかり言ってるのはどっちだと思っているんだ!!」

「篠塚君の言う通りよ、勇人。確かに今の古代君なら十分戦力になるかもしれないけど、今まで彼にしてきた仕打ちを思い出してみなさい」


 その傍らでは、太助と奏が勇人に異議を唱えているが勇人は取り合わず、恭吾や秋彦が参戦すると言い始め、最早収拾がつかなくなっていた。


「ったく、この野郎。人様の今後の生活を勝手に景品にするとか、ふざけやがって………其処までしてでも俺を利用してぇのかよ………!」

「ああ、全くだ。あれで勇者とは聞いて呆れるね」


 不快感全開でそんなやり取りを交わす神影とエーリヒ。


 そうしている内にも話は進み、結局は神影達の今後を賭けた勝負を行う事が決定されてしまうのだった。

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