第77話~今後を賭けた勝負~
勇者パーティーへの復帰を拒否した事で勇人と口論になり、今後の生活を賭けた勝負をする事に決められてしまった神影は、他の面々と共にグース達の家を出てルビーンの外へと向かっていた。
流石に町中で暴れる訳にはいかないため、広くて誰にも迷惑が掛からない町の外で行う事になったのだ。
《何か、話が面倒臭い事になっちゃったね》
《全くだぜ。あの野郎、ギャーギャー喚く暇あるならさっさと王都に帰って訓練でもやってろってんだ》
後ろを歩く調査隊チームの面々に聞かれないようにするため、"僚機念話"でそんなやり取りを交わす神影とエーリヒ。
彼等2人の表情は、先程から不快感で歪みっぱなしになっていた。
《と言うか、あの勇者君は一体何様のつもりなんだい?まるで、『自分の言う事が絶対正しいのに何故従わないんだ』とでも言うような口調だったじゃないか》
《そう言う考え方の人間なんだよ、彼奴は》
吐き捨てるように返した神影は、周囲に聞こえる事も構わず舌打ちをする。
後ろを歩くイリーナ達が突然の舌打ちに驚くが、苛立っていた神影は全く気に留めなかった。
「………っと、そうしている内に着いちまったか」
「そうみたいだね」
そう呟いて足を止める神影とエーリヒの前には、だだっ広い平野があった。
正に『広野』と呼ぶに相応しい広さを持つこの平野は学校の校庭並の広さがあり、其処から徐々に幅が狭まっていき、最終的には両サイドを木々に囲まれた細い街道が出来上がっている。
「よっ、お前等。勇者さん達連れて何してんだ?お見送りか?」
「まさか。今後の生活を賭けた戦いですよ」
苛立ちを全く隠す事無く答える神影に、声を掛けてきた門番の男は何を言っているんだとばかりに首を傾げる。
「まあ、取り敢えず聞いてて気分の良い話じゃないってのは確かです」
「お、おう………?」
そう付け加えるエーリヒだが、やはり門番の男は理解出来なかったのか、頭の上に疑問符を幾つも浮かべている。
「ま、まあ何が何だか分からんが、頑張れよ」
ただ、2人の不機嫌そうな表情からして少なくとも歓迎出来るような話ではないと言う事だけは何と無く察しがついたらしく、それだけ言って話を切り上げた。
「さて………じゃあ誰がやるんだ?」
後ろを振り返った神影が訊ねると、当然ながら一方的に勝負を取り付けた勇人が出てくる。
そして、そんな彼に続くように功や恭吾、秋彦が歩み出てきた。
「(おーおー、余程俺が反駁した事が気に入らない…………ん?)」
前に出てきた4人の男子生徒を見ながら内心呟いた神影は、彼等に続いて出てくる騎士や魔術師6人の姿を視界に捉えた。
「うっわぁ…………コレまさかの1対10ってヤツか?」
予想外の展開に表情を引き攣らせる神影だったが、騎士の1人が答えた。
「そんな数秒で決まるような勝負、する訳ねぇだろ。お前、馬鹿か?」
そう言った騎士は、神影の隣に立っているエーリヒを指差した。
「ソイツとお前で2対10だ。コレなら2分くらいやれるだろ」
「「2分だけかよ」」
思わず声を揃えてツッコミを入れる神影とエーリヒ。
不快感を通り越して清々しさすら感じさせる程の過小評価に、最早怒りも湧かなくなっていた。
「まあ良いや…………取り敢えず、勝負に参加する奴は此方に来て、参加しない奴は門番さんの所にでも行っといて」
諦めたように溜め息をついたエーリヒは、そのように指示を出す。
「古代、彼と2人だけで大丈夫なのか?何なら私も………」
「いや、今回は良いよ。心配してくれてありがとな」
参加を申し出ようとする太助だったが、神影は首を横に振った。
決して太助が足手まといと言う訳ではなく、神影としても彼が居た方が心強いし、これが単なる戦闘訓練なら喜んで申し出を受けただろう。
だが、今回は自分の今後の生活を賭けたぶっつけ本番の勝負。
人数的に大きなハンデを抱える事になるとしても、ずっとコンビを組んでいる上に、同じ"僚機念話"の能力を持つエーリヒと2人だけで挑む方が本気を出しやすかったのだ。
「そうか………健闘を祈る」
残念そうにそう言った太助は、見学組の方へと歩いていく。
その背中を申し訳なさそうに見送っていた神影は、自分を見つめる奏に気づいた。
彼女もまた、申し訳なさそうな表情を浮かべており、神影と目が合うと軽く頭を下げた。それは恐らく、幼馴染みの暴走を止められなかった事への謝罪だろう。
「…………」
彼女の意図を悟った神影は苦笑を浮かべ、気にするなとばかりに手をヒラヒラと振った。
「さて…………それじゃあ始める前に」
そう呟いたエーリヒは、平野を軽く見渡した後に指を鳴らす。
パチンッと清々しい音が響いたと思われた次の瞬間には、太助達ギャラリー組を上手い具合に避けるようにして、平野全体を半透明の巨大なドームが覆った。
天井も20メートル程で、かなりの高さだ。
「この平野全体を結界で覆ったよ。こうすれば、何れだけ暴れても迷惑は掛からないからね」
突然現れた結界に何事かと驚く騎士や勇者達に向けて、エーリヒが言った。
「はあ?お前何時の間にそんな事が出来るように………!?」
先程、神影を馬鹿にするような発言をした騎士が聞き返そうとするが、自分達に向けられているエーリヒの視線に凍りついた。
「……………」
殺気すら感じさせる鋭い視線は、無言で『一切容赦しないから覚悟しておけ』と語っていた。
「あら、貴方…………噂に聞いていたのとは随分違いますのね」
そんな彼に、調査隊メンバーに参加していたフィーナが声を掛けた。
彼女から見た彼は、神影と同じ落ちこぼれにして、"終わりの町"と呼ばれるルビーン出身の下層民。
そんな彼がこの勝負に乗ってきた上に、あたかも歴然の戦士のような鋭い眼差しを向けてくる事が信じられなかったのだ。
「ああ。これまで散々邪魔者扱いされてきたけど、それで泣き寝入りしていた訳じゃないからね」
「そう…………でも、10人相手にたったの2人で挑むなんて、無謀すぎるのではなくて?」
若干の嘲笑を混ぜながらそう言ったフィーナは、目の前に立つ2人の少年を見た。
彼女の言う事は、確かに間違っていない。
何せ彼女等は王国騎士・魔術師団と言うエリート集団のメンバーである上に、10人中4人は、現地人より遥かに高いステータスを誇る勇者。
たとえ神影やエーリヒが城を出てから訓練を重ねていたとしても、彼女等からすれば所詮その程度。
ただでさえ人数でも大きなハンデを抱えていると言うのに、勇者や騎士団と言った高いステータスを持つ者達からの勝負を受けるなど、普通なら正気の沙汰を疑うだろう。
「…………」
だが、エーリヒはその言葉に全く怯んだ様子を見せなかった。
確かに2対10で、相手が勇者と王国軍のエリート集団となれば、普通の人間なら先ず、2人に勝ち目は無いと思うだろう。
だが彼等も、城を出てから決して遊び呆けていた訳ではない。
寧ろ、周りの目を気にしなくて済む自由な環境に飛び出した事で、今まで以上にハードな訓練も行えるようになり、肉弾戦は勿論、魔法の技術も上がった。
しかも、戦闘機の力を使ったとは言え、盗賊団"黒尾"を壊滅させた上に、つい最近では迷宮最下層のボスである巨大ゴーレムとの死闘を制してきたばかり。
少なくとも、簡単に負けるような事にはならないだろう。
「無謀、か…………そんなの、やってみないと分からないだろ?」
そう言うエーリヒだが、フィーナは鼻で笑った。
「もう少し今の状況を見てから発言した方が良いのではなくて?それ、彼岸の実力差を見極める事が出来ないと言っているようなものですわよ?」
ポニーテールに纏められた長い黄緑色の髪を掻き上げながら言うフィーナ。
「(あ~あ、好き勝手言っちまって…………知らねぇぞ。コイツの魔力は軽く10000超えてるってのに)」
そんなフィーナに、神影は同情の目を向けた。
通常の人間なら有り得ない魔力量に加えて強力な魔法を連発出来るような人間をこうして挑発すると、後でとんでもないしっぺ返しを喰らう事になるのは目に見えているからだ。
しかも、エーリヒは女性相手でもスパルタ特訓をするような人間なので、これが戦いとなれば容赦無く顔面を攻撃したり、火属性魔法で焼き炙って火達磨にしたりしかねないのだ。
「(まあ、だからと言って俺が手を抜く事は無いけどな)」
勇人が勝手に決めたこの勝負だが、決めた人物が人物なだけあって、神影達が負けたら本当に王都へ連れていかれるだろう。
それから待っているのは、自分達の力を王国の都合の良いように利用される最悪な毎日。そんなものは死んでも御免だろう。
ならばどうすれば良いか?答えは単純明快。
一切容赦せずに全てを薙ぎ払うだけである。
「好きなように言っていれば良いよ…………全員焼き払ってやるから」
「フンッ、強がりを…………まあ、精々頑張ってくださいな」
そう吐き捨てて、フィーナは騎士団員達の元へと戻っていく。
「ねえ、ミカゲ。絶対勝とうね」
「………おう。最初っから負ける気なんてねぇさ」
そんな彼女の背中を睨みながら話しかけてきたエーリヒに、神影はそう答えた。
その後、『相手を殺す、または四肢を欠損させるような攻撃は禁止』等のルールを決めた後、見学組についたイリーナの合図で勝負を始める事になり、両チームが20メートル程度の間隔を空けて睨み合う。
「用意………始めッ!!」
そして、イリーナが開始の合図を出した瞬間………
「「交戦!!」」
砲弾の如く飛び出した殺戮部隊が、調査隊チームに襲い掛かった。




