第75話~謝罪と絆の確認~
あ~、バイトが結構キツい。
昨日は朝6時出勤で、今日は急遽来れなくなった人のために1時間延長。
明日は未だ楽だけど、月曜日(祝日)も行く事になったし(8時間と休憩1時間の合計9時間)………
まあ、その分稼げるから良いんですけどね………
あれから時間は流れ、イリーナ達によって大広間へと連れてこられた神影は、事の経緯を話していた。
其所にはイリーナ達からの頼みでエリスとエミリアも立ち会っており、神影を両サイドから挟むようにして立っていた。
因みにゴルトとブルームは、気絶した状態で大広間へと引き摺られ、今は大広間の隅に放置されている。
「………まあ、こんな感じかな」
後頭部で両手を組み、壁に持たれ掛かった神影が話を終わらせた。
大広間へ連れていかれている間はずっと機嫌が悪く、威圧感すら撒き散らしていた神影だが、そのままの状態では落ち着いて話し合いも出来なくなるとエーリヒに宥められた事で、今ではある程度の落ち着きを取り戻していた。
「それにしても、本当にやらかしてくれやがったよ彼奴等。『立入禁止』の貼り紙は無視するし、この2人を奴隷にしようとするし、ちょっと正論言ったら剣向けるし」
「そ、その…………私の後輩達が無礼な事をして、本当に申し訳無い」
うんざりした様子で言う神影に、イリーナが深々と頭を下げた。
勇者程ではないにせよ、王国騎士団と言うエリート集団の1人であり、その強さや凛々しさから多くのファンを集めていた彼女が、かつて"無能"や"成り損ない勇者"と言った不名誉な二つ名で蔑まれていた少年に頭を下げると言う光景に、ソフィアを除く騎士や魔術師、そして勇者組の数人が、驚きのあまりに目を見開いていた。
「ああ、いや。別にアンタは悪くねぇよ。それに俺への謝罪も要らん」
『ただ』と付け加えた神影は、未だに自分の方へと寄っている2人の少女の肩に手を置いた。
「アホ2人が目を覚ましたら、取り敢えずコイツ等にきっちり謝罪させてくれ。彼奴等のせいで、危うく人生潰されそうになったんだからな」
その言葉に、騎士や魔術師達が大きく目を見開いた。
この国の人間にとって亜人族とは奴隷であり、そんな彼等に格上の自分達ヒューマン族が頭を下げるなど有り得ないと考えており、そう言った思考は、専ら貴族達や王国上層部の間で深く根付いており、それは騎士・魔術師団員の彼等も例外ではない。
つまり神影が言った事は、奴隷に頭を下げて謝罪させろと言っているのと同じ事なのだ。
プライドが高い彼等からすれば、それは受け入れがたい事だろう。
「………分かった、約束する。調査隊隊長代理、イリーナ・レクサスの名において、ブルーム・ド・デシールとゴルト・コアンを彼女等に謝罪させると誓う」
だがイリーナは、そんな神影の要求を受け入れた。
当然ながら、騎士や魔術師達は反対意見を出そうとする。
「い、イリーナ様!?それは………!」
「コレは1つのけじめだ。どんな相手でも、此方に非があるなら謝るのが当然の事だ」
そう言って、真っ先に反対しようとした騎士の1人を封殺するイリーナ。
エーリヒの体験談から、王国騎士・魔術師団にはロクな者が居ないと思っていた神影は、そんな彼女に感心したような眼差しを向けた。
ただプライドが高く、威張り散らすだけの選民主義者の集団だと思っていた騎士・魔術師団にもマトモな考えを持つ人間が居る事が分かったからだ。
そんな思わぬ人格者の発見に、神影は驚きつつも嬉しく思っていた。
「さて………一先ずコレで、後輩達の無礼は許してもらえるかな?」
そう訊ねられた神影は、エリスとエミリアに目を向け、視線でどうするかと訊ねる。
「「…………」」
神影を挟み、互いに顔を見合わせて確認を取り合った2人は、小さく頷いた。
「それで良いってさ」
「そうか………ありがとう」
その言葉を聞いたイリーナは、安堵の表情を浮かべた。
「さて、それでは私からの話は終わりだな」
「………?」
どういう意味だとばかりに首を傾げる神影だが、イリーナはさっさとその場から捌けてしまう。
そして彼女と入れ替わるように、1人の女性が神影の前に歩み出た。
ポニーテールに纏められた長い銀髪につり目、そして碧眼を持つスタイル抜群の美女だった。
「(成る程、そう言う事か)」
内心で納得する神影に、イリーナと入れ替わるように現れた人物は声を掛けた。
「久し振りね、古代君」
「………ああ。久し振りですね、先生」
その人物とは、神影のクラス担任である夢弓シロナだった。
「色々と言いたい事はあるけど、先ずは………」
其処で言葉を区切り、ゆっくりと近づいてくるシロナ。
「(………コレもしかして殴られるパターンですかね?)」
幸雄達に宛てた手紙を残したとは言え、神影は何も言わずにクラスメイト達の元を去ったのだから、教師であるシロナが、何の相談もせず勝手に出ていった事について怒っている可能性も十分有り得る。
通常の人間を凌駕するステータスになっているために殴られてもダメージは無いだろうが、もし殴られるならば甘んじて受けようと、神影は1歩も動かずに彼女を待ち受ける。
「……………」
吐息が掛かる程にまで近づいたシロナは、暫く神影を見つめた後………
「………元気そうで、良かったわ」
正面から抱き締めた。
「………え?」
神影の口から、思わず間の抜けた声が漏れ出す。
殴られると思っていたところでのまさかの抱擁なのだから、驚かない筈が無かった。
「あの、先生………怒ってないんですか?」
「どうして?」
逆に聞き返されてしまい、どう答えたものかと悩む神影。
そんな彼に、シロナは言った。
「確かに、城を出ていったと聞いた時は驚いたし…………何より無謀だと、直ぐ死んでしまうのではないかと思ったわ」
彼女の言う事は、ある意味正しかった。
当時の神影は、戦闘機の力を持っていてもステータスは非常に低く、誰にも守ってもらえない外の世界に飛び出して生活していけるような強さとは言えなかった。
おまけに戦闘経験も少なく、途中から勇者パーティーでの訓練から切り離されたため、強い魔物や盗賊に襲われでもしたらひとたまりもないと、彼女は考えていたのだ。
「でも、こうして無事で居てくれたんだもの。怒る怒らない云々より、先ずは喜ぶべきでしょう?」
「…………」
シロナからの言葉に、思わず両目を見開いて驚く神影。
生徒思いの教師として人気だったシロナだが、まさかこれ程までに考えていたとは予想していなかったのだ。
「先生の言う通りだ、古代」
其処で、太助と奏が歩み出てくる。
「何の相談も無しに出ていかれた事はショックだったけど……こうして元気そうな事に、結構喜んでるのよ?私達は」
「ああ。逆に病気や怪我の1つでもしてしまえも思ってしまう程にな」
「お前等………」
笑みを浮かべた親友達の言葉に神影の両目が潤み、彼の視界が歪み始める。
離れても彼等とは親友だと、互いに互いの事を大事に思い合っていると確信していても、こうして面と向かって言ってもらえた事が何よりも嬉しかったのだ。
「………」
部屋の隅でグース達と共に成り行きを見守っているエーリヒや両サイドに居るエリス達も、微笑ましそうな表情を浮かべている。
「なあ、古代。此処で1つ確認しておきたい事があるんだが、良いか?」
「………何だ?」
視界を歪ませたまま言う神影に、太助は奏と頷き合ってから歩み寄った。
「今でも私達は………親友だよな?」
そう言って、スッと右手を差し出して神影を見つめる太助。
「………ああ、勿論だ!」
目尻に浮かぶ涙をグシグシと拭った神影は、両手で太助の右手を固く握り、互いの絆を確かめ合うのだった。
「さて、それじゃあ古代君。城を出てから何をしていたのか、きっちり聞かせてもらえるわね?」
「あ、はい」
その後、シロナから城を出てからの生活について吐かされたのは言うまでもない。
管理トップを見た時、何だかんだで2週間近く連続投稿している事に気づいた。




