エピソード3 初対面?
校門に近づいた、そのときだった。
「みっずき〜! おはよう〜!!」
突然、元気いっぱいの声が響き渡った。
「……えっ?」
声のした方を振り向くと、一人の女性がこちらに向かって駆け寄ってくる。
茶色のボブカットに、目元のほくろが印象的な女性だった。身長は百六十センチほどで、女性としてはやや高めだろうか。水色のトップスに白いスカートという清楚な服装が、彼女の明るい雰囲気によく似合っている。
女性は、目の前まで来ると、にっこりと笑った。
「おはよ、みずき!」
どうやら、彼女は自分に話しかけているらしい。
しかし、少女には心当たりがなかった。
「あの……私に話しかけてくださっているのでしょうか?」
「そうに決まってるじゃん!」
女性は即答した。
「ってか、何そのしゃべり方! お姫様モードってやつ? あははっ!」
からからと笑う女性を前に、少女は困ったように首を傾げた。
――お姫様?
なぜ、そのようなことを言われたのだろう。
自分では普通に話しているつもりなのだが……。
そこで、少女ははっとした。
――そうでしたわ!
先ほど、不思議な板に表示されていた文章。
そこには、確かに『みずき』と書かれていた。
つまり、今の自分の名前は、みずきということなのだろう。
ひとまず、そう考えることにした。
「は、はい! 私は、みずきです!」
「……いや、何その返事!?」
女性が目を丸くした。
「初対面の挨拶みたいになってるじゃん! もう大学入って一年たつよ!?」
「い、一年……?」
少女は思わず固まった。
どうやら、自分は大学二年生らしい。
しかし、そんなことを言われても、まったく記憶にない。
そもそも、大学という場所が何なのかさえ、まだよく分かっていないのだ。
少女は困惑を隠しながら、恐る恐る口を開いた。
「えっと……あなた、ですよね? その……この板に書き置きをしてくださったのは?」
「板!?」
女性は一瞬きょとんとしたあと、吹き出した。
「ちょっと待って! スマホのこと!? 板って何!? あはははっ!」
どうやら、よほど面白かったらしい。
お腹を抱えて笑っている。
少女は、自分の発言のどこがおかしかったのか分からず、ただ困ったように微笑んだ。
「それと、あなたって……。私の名前、忘れたの?」
女性は笑いを収めると、少しだけ不満そうに頬を膨らませた。
「私の名前は、いつき! 金森伊月! 何度も一緒に授業受けてるでしょ!」
――なるほど。
この方は、いつきさんというのですね。
少女は心の中で、しっかりと名前を覚えた。
金森伊月。
これで一つ、分かったことが増えた。
「も、もちろん覚えていますよ! いつきさん!」
「さん付け!?」
伊月は、再び声を上げた。
「いやいや、今日どうしたの!? いつもとキャラ違いすぎない!? まだ、お嬢様モード?」
「お、お嬢様……?」
少女は、またしても首を傾げる。
どうやら、この話し方は普通ではないらしい。
けれど、だからといって、どう話せばいいのかも分からなかった。
そもそも、今の自分にとっては、この話し方こそが自然なのだ。
「……まあ、いいや!」
伊月は、ひとしきり笑ったあと、少女の手を取った。
「ほら! 教室行くよ! 一限に間に合わなくなる!」
「えっ? あ、あの、ちょっと……!」
「大丈夫、大丈夫! いつもの教室だから!」
伊月はそう言って、少女をぐいぐいと引っ張っていく。
少女は戸惑いながらも、その後をついていった。
――いつきさん。
どうやら、この方は私のことをよく知っているようです。
それならば、いろいろと教えていただけるかもしれません。
少女は、少しだけ安心した。
自分の名前らしきものが分かった。
知り合いらしき人物にも会えた。
分からないことばかりだった世界に、ようやく小さな手がかりが見つかったのだ。
……もっとも。
「ねえ、みずき! 今日ほんとにどうしたの? なんか変なものでも食べた?」
「へ、変なものですか!? いったい何を食べれば、そのようなことに!?」
「いや、そこ真面目に聞く!? あはははっ!」
どうやら、前途多難であることに変わりはなさそうだった。
第三話です!
ついに友達登場です!ここから大学の中へ冒険です!




