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魔法使いは奇跡の外に  作者: 陰日向日陰
第1章 魔法使いの弟子編
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第23話 オーファン武器商

「武器屋ですか?」

「うん。みんな揃ってるから丁度いいかなって」


 迎えにきたグラシゥスとフィリと、五人で揃って遅めのお昼を食べていて、食べ終わったらどうしようかという話になった時にグラシゥスが言った。


 前に一度だけ話をしていたことである。主にはフィリとルーシーの装備の新調で、ついでにルレアとエマの護身用の武器も。


 ルレアは杖を使わない――というか村で使っている人はいなかったので、魔法を使うのに杖を用いるのはおとぎ話の中だけだと思っていた――し、エマは今使っているものがとんでもなくいい杖だ。神殿でもらったものらしく、一級どころか超級で使っていてもおかしくない質だとはグラシゥスの弁。


 よって、目的は前述の通りだ。

 今日は鍛錬も依頼も終わっているから時間があるし、買うと決まっているのなら早々に買って体に慣らしておいた方がいい。

 緊急時に使うものなのに使い慣れていなくていいはずがない。


 というわけで、昼食後、グラシゥスに連れられて城下町の外れの方にある武器屋にやってきた。

 城下町の外れにあるのは、地価が比較的安いため素振り用の庭などが確保しやすいのと、仕入先が行商人で得意先が冒険者だからだそう。


 構えてある看板には『オーファン武器商』の文字。


 グラシゥスに続いてルレアたちは店内に入る。


 店内は短剣から長杖まで一通りの武器と、剣士がよく使う片手盾や部位鎧なんかまで揃えているようで、商品は分類ごとに分かれて綺麗に整頓されている。

 正面にカウンターがあって、店主らしき男性が待ち構えるように座っていた。


「花車の意匠に」

「夜の瞳に御目文字を」


 グラシゥスのそれに店主は商人がよく使う祈りで返して、感心したような、驚いたような声音で続ける。


「本当に連れてくるとはな」

「意味のない嘘はつかないって言ったでしょ。この子たちが気に入ったのを買うから、商品を一通り見せてほしい」

「はいよ。オーファン武器商のグブラだ、贔屓にしてくれ。こっちはグレイスから聞いてるから自己紹介はしなくていい。気に入ったのがあったら言ってくれ」


 冒険者によくいる少々乱暴な言葉遣いは、筋骨隆々あるいは豪快な男性を想起させるが、見た目は人あたりの良さそうな風貌に細身だ。顔つきだけなら若干の胡散臭さが混じっているのは商人ならではだろうか。

 話す前と後でかなり違う雰囲気に少し戸惑いを隠せないルレアに対し、エマが元気よく手を挙げた。


「オーファン武器商って最近話題になってるお店だよね!」

「ああ、前の領主の関係でな」

「何かあったんですか?」


 まだ町に来てひと月と経っていないルレアは、町に親しんできたとはいえまだ世の中の情勢には疎い。できるだけ新聞は読むようにしているが、村にいた頃の――町に来る前のそれまで目を通せてはいない。


 少なくとも、町に来てからの新聞の地域面――新聞は語継ごけいの神の信徒が世界中で同じものを発刊しているから、少しだけでも地元のことを扱った面を用意しているらしい。その面を地域面と呼ぶ――でそのような話題はなかったはずだ。


 ルレアの問いに、グブラは内容に反してあっけらかんと答える。


「使用人という名目で孤児を引き取っては違法に奴隷として扱って、さらには嬲り殺してたらしい。前領主が死んで、息子だった今の領主様が代替わりした時に公表した」

「うわ……」


 奴隷という身分に馴染みはないが、光景が容易に想像できてしまってルレアは無意識に半歩身を引いた。

 どう考えても、ああいうのは人が人にやっていいことではない。


 その様子にエマがこてんと首を傾げた。


「ルレアちゃんゴシップ読んでないの?」

「ゴシップ?」

「うん、町のこと紹介してくれてる雑誌だよ。辺境伯のことが新聞に載ってからは孤児関係の特集結構やっててね」


 元々、町に一つだけある孤児院の子供が養子や跡継ぎとしてもらわれることはさして珍しくないのだという。そして、そういう慣習が少なからずあるから孤児院と町の人々との距離も近い。前領主が孤児を引き取っても違和感を覚えられなかった一因でもある。

 前辺境伯――前領主の問題で孤児に注目が集まっているから、そういう店を特集で一挙に紹介した、と。


 オーファン武器商もそのひとつだ。

 代々跡継ぎや店員として孤児を数人引き取っている特殊な伝統のある武器商店で、現店主のグブラも当然のように孤児院出身である。

 だから、かなり早いうちに取材が来たらしい。


 エマが話しているうちに早速店内の武器の目利きを始めていた――グラシゥスが奢る奢らない論争は昼食を食べながら済ませてある――ルーシーが言う。


「ここ、本当は初心者向けのお店じゃないの」


 ルーシーがほら、と示した値札を見てみると、金貨十数枚は下らないものばかりで、金銭感覚が村での生活と七級依頼の報酬でできあがっているルレアには実感の湧かない金額だった。

 だって、下手したら村で一年生活できるし、今の調子で冒険者として稼ぐとしたら貯金が終わるまで何年かかるか分からない。


「うちは何より質がいいのを揃えるからな。二の次にしてりゃ値は張るもんだ」


 当然、あるいはむしろ誇るようにグブラが言った。


 フィリはそういうのに詳しいのか、かなり真剣な面持ちで剣を一振りひとふり見定めている。当然のようにその後ろをついて回っているエマ。

 ルーシーは感覚派のようで、短剣や小道具など手に取って軽く振って試していた。


 対して、値段もそうだが、そもそも武器屋という場所に来慣れていないのでどうすればいいか戸惑っているルレアに、見かねてグラシゥスが声をかける。


「こういうのは結局感覚だから、あんまり気負いしないで店内を見て回るといいよ」

「で、でも、お値段が……」

「あー、やっぱり気になるか。じゃあこうしよう」


 グラシゥスが店内に軽く魔法をかけると、値札が全て黒塗りになった。

 見咎めでグブラが口を開く。


「おい、グレイス」

「気にせず選んでもらうならこれが最善でしょ。魔法を解けば元に戻るから心配しないで」


 先刻ルーシーに見せられた武器の値札を元に戻して見せると、他に客もいないということもあってグブラは渋々ながらも納得したようだ。


 ルレアも、買ってくれると何度も言ってくれているのに無下にするのも失礼かと思い、好みのものを選び始めようとする。


 したが。


 ……ダメだ、分かんない。


 見始めるも善し悪しなど区別がつかず、後ろで見守ってくれているグラシゥスに声をかける。


「あの、グレイスさんのおすすめとかは」

「フィリが見てる長剣とかそっちの長物は護身用じゃなくて得物として使う人向けだから、ルーシーが見てるような短剣とか暗器とかがいいと思う」

「あんき?」

「手元に隠し持てるくらい小さな武器の総称だよ」


 話し声が聞こえていたか、ルーシーが寄ってきながら自分の腰につけているポーチから何か取りだした。

 ゴツゴツして穴の空いた平面的な握りやすそうな鉄器とか、突起がついてるだけのただの鉄の塊みたいなものとか、そういうのを。


「ここら辺でしょ。どれも結構癖あるし、護身用としてなら短剣の方がいいと思うけど」

「本人が気に入ったならその方針で戦い方と教え方を変えればいいだけだから。武術の基礎は一通り教わってるらしいしね」

「え、ウァイストって魔法の神だよね?」

「うん。ただ、武術の神イラーツィと学識の神フローレノとは特に仲が良かったから、それぞれの基礎くらいは子供の頃から教わるの」


 とはいえ、基礎を習っただけで素人も素人だから戦ったとしてフィリどころかルーシーとすら勝負になるとはルレアは思っていない。ルーシーやエマがルレアに勝てないのと同じ理由で。


 だから、変なものを選ぶより使い慣れてるものの方がいいだろうと思って、ルーシーが先刻まで見ていたところの、短剣の類を中心に見てみる。


 こうして見ると結構種類があって、大小、長短、厚薄はものによって様々だ。片刃もあれば諸刃もあり、直剣も曲剣もある。諸刃で直剣で、片手で振るのに適した大きさで長さで重さの木剣しか知らないルレアにはどれも目新しい。

 短剣だからだろう、柄は片手で持てる程度の長さ、鍔は申し訳程度か飾りだ。護拳がしっかりとついているものもあるが、見慣れない装飾になっているから多分、遠くの地域の剣だと思う。


 ただ、残念ながらどれもルレアの趣味ではない。ルレアの好みは典型的なウァイストの信徒のそれだ。流れるようでいて柔らかな清艶。


「……あの、これは?」


 気づけば普通の短剣ではなく地域色の強い武器の棚に寄っていたようで、ルレアの指した剣の周囲にも正しい使い方が直感的に分からない武器が並んでいる。

 ルレアの指の先で渦を巻いて鞘にしまわれている《《それ》》はとりわけだった。

 全長は恐らくルレアの身長の倍は下らず、剣にもかかわらず帯のように巻かれた刀身。


 後ろで眺めていたグラシゥスが、ああ、と。


「確か、西方大陸の中央半島の剣だね」

「えっと、どこですか?」


 世界地図はぼんやり見た覚えがあるが、自分には関係がないだろうと思っていたので、ルレアは詳しい場所までは覚えていない。

 辛うじて知っているのは、極北回廊で東方大陸と西方大陸が繋がっている、くらいだ。


 ルレアの疑問に答えるべく、グラシゥスが空中に世界地図を描いた。

 今ルレアたちのいる辺境伯領城下町と、恐らくはこの剣の発祥の場所らしい位置が明るく光る。

 ここ、辺境伯領は東方大陸東端――つまり全世界の東の最果てにある。対して、西方大陸中央半島は名前の通り、西方大陸の中央部の辺り、南に向けて大きく出張った半島を指す。


「西方大陸とか中央半島とか、大地形の名前はそのままだから、世界地図が分かれば分かると思う。で、この剣の発祥はここね」


 光っているのは、その中央半島の南西部だ。


 そこで生まれた、一般的な剣の追い求める硬く、つよくとは対照的に、薄く、軽く、柔らかくを極めた剣。


 名を。


「アーラ」

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