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魔法使いは奇跡の外に  作者: 陰日向日陰
第1章 魔法使いの弟子編
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第12話 焼き鳥を食べながら

「グレイスさん、どこ行ってたんですか?」

「みんなこれ食べるかなって」


 ルレアの問いに答えながらグラフゥスはどこからともなく椅子を作り出し、ベンチに座る四人の正面に座った。

 焼き鳥の紙袋を差し出すとエマが受け取る。


「ありがと! ちょうど朝食食べてなかったんだよねー」


 言って、エマはさっそく一本を豪快に一口で食べた。よく噛んでから飲み込む。

 ルレアも、一言断って紙袋から一本取った。

 ルレアの師匠だと言われたのもあって警戒心が上がりきっていなかったルーシーは、エマが二本目に手を伸ばしたタイミングで気付く。


「ちょ、エマ? 知らない人からもらったものは食べちゃダメだって」


 そんな彼女の制止も聞かず、さらにもう一本食べながら予知の神の信徒は言う。


「忘れたの? わたしの主神は予知の神スタンデュリアだよ。毒なんて効くわけないじゃん」

「予知の神スタンデュリアは予知の神とは言われているけど、未来に起こることに対する予防なら全般的に彼女の特性の範疇だからね」

「おー! 詳しいんだね!」

「前に少し調べたことがあるだけだよ」


 自分の信じる神様のことを知っている野生の魔法使いにエマはにこにこだ。もちろん、焼き鳥が美味しかったのもある。

 フィリも礼を言って食べ始める。


 エマと行動を共にしているフィリにもルーシーにも同様に、スタンデュリアの加護がある。そのようにエマが祈ったからだ。


 食べながら、まだどうしようか決めかねているルーシーにフィリが言う。

 自分にも君にも、スタンデュリアの加護があるのだから。


「ルーがいつもやってくれてるのは助かるけど、そこまで警戒しすぎなくていいと思う」

「そうそう。ルーはいっつも気にしすぎなんだよ」


 フィリに続いて、ルーシーの目の前で焼き鳥を一本くるくるさせながらエマが言う。


「いやでも、二人が気にしなさすぎるんだし、私くらいは気にしないと……」


 初対面の人には警戒しなければという義務感と、少なからず過剰な対応をしようとしているという自覚とでルーシーの心が揺れる。


 ついでにお腹も空いたから食欲もある。

 朝、エマが、いいことあるから! とルーシーとフィリを無理やり引っ張ってここまで来たから朝食を食べていないのだ。それなのに元凶め、美味しそうに食べやがって。

 焼き鳥は空きっ腹に悪い。匂いがしてくるのと、両隣で美味しそうに食べているのがなおさらだ。


 私を挟んで分け合うな。我慢してるのに。


 焼き鳥を食べる三人に挟まれて葛藤するルーシーにグラシゥスは苦笑した。


「好きにしていいよ。気持ちは分かるし、警戒されたからってやることは変わらないから」

「……じゃあ、そうする」


 ルーシーはその言葉に甘えることにして、それはそれとして、エマの抱える紙袋から両手に二本ずつ、計四本の焼き鳥を引き抜いて大口を開けて食らった。

 エマがあっと声を漏らす。


「ルーずるい!」

「みんなこれぐらい食べてるじゃん」

「食べ方がずるい!」

「こうでもしないとなくなるでしょ」


 ありがたいことに、ルーシーはエマに出会ってから遠慮しないことの大切さを身をもって知った。

 遠慮してると食事にありつけない。


 エマとルーシーが競うように食べてみるみるうちに減っていくのを見て、グラシゥスはもう一つ紙袋を取り出した。


「まだあるからゆっくり噛んで食べな」

「どれだけ買ったんですか」

「開店準備として焼いてた分は全部」

「絶対買いすぎ……」


 ぼそっと言いながらも、ルレアも焼き鳥は食べるらしい。魔法を使うなら体力も欠かせない。ルレアはちゃんと朝食を食べたとはいえ、今し方とんでもない魔法を使わされたばかりだから、疲労で体が栄養を求めている。


 食べながらでいいから、とグラシゥスは話始める。


「根本的な問題は『火力が足りない』『前衛が足りない』の二つで合ってる?」

「はっへふ!」

「エマ、食べながらしゃべらない」


 焼き鳥を人質にルーシーから言われてエマは大人しく黙って食べる。

 そのせいでエマの食べる速度が早くなる。食べ尽くされないようにルーシーが四本ほど引き抜いて確保しておくとエマも真似をしてくる。そっちがやってどうする。


「三人さえよければ、ルレアさんと一緒に鍛えようかと思ってるんだけど、どう?」


 グラシゥスの提案にエマは目を輝かせて、言いつけ通り、ちゃんと飲み込んでから口を開く。


「ほんと? すっごく助かる! ね、ルー?」

「まあ……強いのは事実だと思うし」


 まだこの魔法使いを全く信じられるというわけではないが、強くなれるならやぶさかではない。

 強くて困ることなど、弱くて困ることに比べたら可愛いものだ。


 けれども、エマの口の端についたタレを拭き取りながらフィリが尋ねる。


「四人も同時に教えられる?」

「うん。もうやることは考えてあるから」

「どんなことやるの?」


 エマの問いに、グラシゥスは質問してきた彼女の分から答える。


「エマさんが学ぼうとしてる魔法は立式主義だから、普通の学校の授業と同じように進めてこうかなと」

「学校! 行ったことないから楽しみ!」


 他の生徒がいないから学校っぽさはないんじゃないかとルーシーは思ったが、エマがあまりに楽しそうなので言わないでおく。


「フィリくんは身体能力と基本的な剣技の向上だね。やることは今のあんまり変わらないと思う」

「フィリでいい。お互い冒険者なんだから」

「わたしも! エマでいいよ!」


 はいはいはーい、とフィリの膝の上で手を挙げながら言った。

 分かったとグラシゥスに承諾された後、エマがくるりと体をルーシーの方に向けて首を傾げる。


「ね、ルーは?」

「はいはい、私もルーシーでいいよ」

「えー、ルーにしようよ!」

「しません」


 なーんでー、いいじゃんルーと駄々を捏ねていたエマだったが、しばらくしてもルーシーが頑として頷かないのでちょっとむくれながら標的を変えた。


 ルーシー越しにルレアを覗き込んでくるエマの瞳が、楽しそうなおもちゃを見つけた時の猫のそれにそっくりだった。


「ルレアちゃんは?」

「私?」

「お師匠さんと弟子なんだから、ルレアさん呼びじゃよそよそしいでしょ!」

「え、うーん、そうなのかな」


 特に気にしていない、というか師弟関係なんて物語の中でしか見たことがないから比較のしようがないルレアは首を傾げるが、エマは思いっきり頷く。


「そうだよ!」


 そうらしかった。


 言われてしまえば、確かに、散々面倒を見てもらっているし、魔法を教えてもらっているし、多分年上だろうし、冒険者としても先輩にあたるのだから、そんなに畏まって接されなくてもいいかという気持ちになってくる。

 それに村ではみんなルレア呼びだったから、そっちの方が慣れている。


「じゃあ、えっと、グレイスさん、私もルレアで」

「いいの?」

「はい。わざわざこだわることでもないですし」


 そして二人の様子を見てうんうんと満足気にひとり頷くエマ。


 その彼女がまたしてもなんかにまぁとルーシーの方を見てくるので、ちょっと戦意を削いでやろうと思って、残り六本、エマの抱える紙袋に入った焼き鳥を全てかっさらった。


「あ、全部食べた!」

「エマはこのくらい食べてるでしょ」

「六本食いはしてないもん!」

「だから食べ方じゃなくて量の話だってば」


 さっさと食べきってしまおうとエマに背を向けて食べる。後ろからぽかぽか殴られたが無視だ。


 ぺろりと平らげて、絶望の表情をしているエマの持つ紙袋にこれみよがしに串を入れた。串と串がぶつかる軽い音がした。


 口元を拭って、グラシゥスの方を見る。


「それで、私は何するの?」

「最低一つ、できれば二つやってほしいことがある」

「……グレイスさん、まさか私と同じことをさせようとしてるんじゃ」


 ルレアがどん引きしている。

 どんなことをしたらその反応になるのかとルーシーが小首を傾げているとグラシゥスは笑って否定した。


「あれはあくまで魔法使いの領分だよ。斥候なら、昔の僕と同じ役割をしてもらおうと思って」

「斥候? グレイスは魔法使いなんじゃ?」

「前いたパーティーに別の魔法使いがいたから斥候を担当してたんだよ。魔法も使えるってだけ」

「あれをそれで済ませたらダメです」


 散々な言われようだ。

 どんなことをしたらその反応になるのか。


 ルーシーの疑念とルレアのジト目は無視して、それで、と続ける。


「ルーシーには盾役タンクをやってもらう」

「……はい?」

「俗には回避盾とも呼ばれるかな」

「あの、それって、超級のクゥ・カメリアみたいなってこと?」

「知ってるなら話が早いね。ついでにもう一つやってもらおうと思ってるのが、彼女も使ってる中央諸島の魔法だから」


 クゥ・カメリア。

 世界で他に例のない超級四人で組んだとあるパーティーの、前衛を務めている回復役だ。『巫女』という二つ名で知られている。冒険者として数ヶ月も活動していれば、誰でも名前くらいは耳にする。


 今、なぜかルーシーは、その彼女と同じことをさせられそうになっている。

 六級にして。


「……辞退していい?」

「そんなに難しいことじゃないから。……後者は」

「ねぇエマ聞いた!? 今、後者()って言ったよね!?」

「大丈夫! ルーならできる!」

「私エマとフィリと違って一般人なんだけど!?」

「スタンデュリアも多分できるって言ってると思うよ! そんな気がする!」

「予知の神なのにざっくりしてないかなー!?」


 後ろから肩を叩かれる。

 振り向くと、ルレアが満面の笑みを浮かべていた。


 宣告。


「一緒に頑張ろうね」

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