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魔法使いは奇跡の外に  作者: 陰日向日陰
第1章 魔法使いの弟子編
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第11話 エマとルーシーとフィリ

 かくれんぼが終わるとちょっと待っててと言われ、グラシゥスはどこかに行ってしまった。

 ルレアは人目を気にする余裕もなく、ほんの十数分でどっと疲れた体をベンチに投げ出して休ませる。


 そろそろ人が出始める頃らしく、通りの人の数も、開店した店も少しづつ増えてきている。ぼんやり空気に感覚を乗せると周りの様子が分かった。


 近づいてきて声をかけてくる知り合いも。


「ルレア、おはよう」

「おはよう、ルーシー……」

「なんで目瞑ったまま?」

「師匠に朝からしごかれてたところ」

「もしかして前に協会で待ってた人?」

「そう」


 遅れてやってくる二人も感じ取って、初対面でこれは失礼かと体を起こした。

 目を開けると眩しくて光を手で軽く遮る。


 何度か瞬いて明るさに慣らすと、エリが少年の手を引いているところだった。先日協会で、遠くから会釈だけした少年だ。


「初めまして。エリとルーが世話になったね。剣士のフィリ・サリックスだ」

「『魔法使い』のアンティルレア・プレナです。こちらこそ、お二人には仲良くしてもらってます」

「同じ冒険者だし、普通に話してくれていいよ」

「なら、お言葉に甘えて」


 こちらも、エマとルーシーと同じように人当たりのいい。魔力自体はほとんどないが、エマと似た気配を感じた。

 フィリにべったりくっつきながら、エマは彼の頬をつんつんする。自慢するようにルレアに言った。


「前話したわたしの彼氏だよ!かっこいいでしょ」

「そうだね」

「えへへー、あげないよーだ」

「エマ、少しは人目を気にする」

「ルーだって彼氏ができたらこうなるよ!」

「いや、恋人同士が全員そんなことやってるわけじゃないでしょ」


 まったく、とルーシーはため息をついて、フィリはしたい放題のエマに微笑んでいた。どうやらいつもはこんな感じの様子らしい。

 仲睦まじいと傍から見ているルレアも自然と笑顔になる。ぜひともこのままでいてほしかった。


 つめたルレアの横にルーシーが座り、その向こうにフィリが、その彼の上にエマが座る。

 エマがあくまで自然にそう座ったのでルーシーが、「びっくりするよね、いつもこうなの」と説明してくれた。

 ルーシーの向こうからエマが、ルレアに向かって顔を覗かせて尋ねる。


「ルレアちゃんのお師匠さんって魔法使いの人?」

「そうだよ。すごく魔法がうまいの」

「そういう人ってさ、どこで知り合うの?」


 どこで。


 住んでいた村が襲われて、そこを助けてもらって、他に知っている人もいないし、強いから、せっかくなら魔法を教えてもらおうって。


 そんな経緯を説明できるはずもなく、考え込んだルレアは否応なく村でのことを思い出して顔が陰る。まだほんの数日前だ。普段は意識しないようにしていても、少女の心はまだ晴れていない。


 見てとったエマが慌てて言う。


「言いたくなかったら大丈夫だよ! それを知りたかったんじゃなくて、えっと、その」

「最近魔法の勉強してるんだけど、独学じゃ限界があってね」


 バツが悪そうなエマにルーシーが助け舟を出す。


「ほら、うちのパーティーって剣士と神官と斥候だからさ、火力がやっぱり足りないんだよね」


 後方からの火力支援は主に魔法使いの役目だ。その魔法使いがいないパーティー構成ならば、当然火力は大幅に下がる。


「で、図書館に行ったりして勉強してるんだけど、基本的な魔法から先に進めなくてねー。火を出すとか水を操るくらいならできるけど、それじゃ魔物相手の戦闘で役に立たないし」


 ルーシーは小さく水を出して、空中でくるくる回転させてみせる。


 魔法が使えることと、魔法で戦えることは同義ではない。もちろん、魔法で戦えると一口に言っても、どの程度の練度、精度で戦えるのかはピンキリだ。


 同じように魔法が使えても、ルレアはまだひよこでグラシゥスには一撃すらも当てられる気がしない。

 それと同様に、ルレアからすると、この二人の拙い技量では攻撃を食らうとは思えなかった。


 幼子が赤子を相手取るようなものである。


 指先の水を消したルーシーが肩を落とす。


「でもさ、人に教えられるくらいの魔法使いなんて知り合いにいないし、顔見知りの魔法使いはみんなどこかのパーティーに入ってるから手詰まりで。一応、ルレアを誘えないかって話もしたんだけど……」

「まだ実戦で使えるほどじゃないと思うから、期待に応えるのは難しいかも。ごめんね」

「ううん! ルレアちゃんは悪くないよ!」


 先刻の申し訳なさからか、即座に否定するエマにルーシーは宥めるように頭を撫でる。気にしいもほどほどにした方がいいとあれほど。


 ――この子は、ルレアはそんなことで怒るような人じゃない。


「元々、多分ダメだろうねって話に落ち着いてたから気にしないで。人待ってたって言ってたからパーティー組んでる可能性もあるし、そもそも、うちらの最近の任務考えると初心者の子は合わないかもって」

「そんなに難しい任務なの?」

「魔法が使えると楽だねってなるくらいにはむずかしくなってるかな」


 冒険者の危険度と技量の話だ。


 初心者の危険度はとても低い。そもそもが戦闘のある依頼の受注を禁じられているからだ。

 そして次に危険度が低いのが超高難度の依頼。そもそも受注する人間が人間離れしているので、死亡や重傷での受注破棄がほとんどない。


 一方、一番危険とされているのが、初心者から少し練度が上がり『自分たちでは対処できない強さの個体がいる可能性のある討伐依頼』を受注し、なおかつ『イレギュラーな状況に対処できるほどの実力がまだない』等級、つまり六級や五級。

 今のエマ、ルーシー、フィリの等級帯である。


「そろそろ五級に上がれるかもって話もあって、五級と六級の間くらいの任務を中心に受けてるの」


 だけど、とフィリがルーシーに続ける。


「火力不足のせいで戦闘が長引くことが多くて、最近はエマに攻撃が届きそうになることも増えてきてる」

「うちはエマがやられたら終わりだからね。文字通りの生命線ってわけ」


 気づくと、落ち込んでいたはずのエマはにこにこしている。慰めようと思って言ったのに、言わなくてよかったじゃん。


 ……そういえば、立ち直りも早いんだった。


 ルーシーが思い出すのと同じタイミングでエマが詰め寄ってくる。


「えへへー、もっと褒めてくれてもいいんだよ?」

「あんまり言うと調子乗るから却下」

「フィリは?」

「いつもありがとう。すごく助かってる」

「えへへ」


 恋人同士でいちゃいちゃしてるのにルーシーは肩を竦めて、そういうことだから、とルレアに続ける。


「なんとかしなくちゃいけないんだけど、解決策が見つからないんだよね。そもそも、パーティーが変っていうのはあるんだけどさ」

「変?」

「そう。パーティーは前衛ニ、後衛ニの四人構成が基本で、しかも斥候はその基本に含まれてない。なんでか分かる?」


 苦虫を噛み潰した表情でルーシーが聞いてくる。


 パーティーの基本構成は、前衛に剣士と戦士、後衛に法士と神官。斥候は大規模な軍や討伐隊では重宝されるが、一般的なパーティーでは採用されにくい。


 ちょうど、昨日と今日でグラシゥスから教わったことだ。隠密と、索敵。その後者。

 とりわけ、三、四人程度の人数で動く時には。


「魔法で事足りるから」

「そゆこと。探知とか索敵の魔法って便利でね、うちらが駆けずり回って集める情報を数秒で集めちゃうの。しかも斥候って目立たないから冷遇されがちなんだよね」

「わたしはすっごく助かってるよ!」

「うん、俺も」


 エマとフィリがそう言うのに、ルーシーは照れくさそうに笑って応じた。

 彼女といちゃいちゃしながら、フィリがルーシーの説明を引き継ぐ。


「人数の調整も考えたことはあるけど、三人増やして六人になると多すぎる。かといって二人増やして五人にしようと思っても、二人で組んでる人なんてほとんどいないんだ」

「一人とか二人で活動してる人ってね、変な人かすっごく強い人なんだよ!」

「僻地出身だといるらしいんだけど、まあ知り合いにいないんだよね」


 この町は辺境伯の城下町で国全体で見ても相当大きい、らしい。ので、僻地出身の冒険者というのは珍しい。僻地の冒険者はあまり外に出ずに近くのそれなりの町で生涯を終えることが多いのだそう。

 対して、ここのような大きな町出身、あるいは田舎の出でも大きな町にある学校を卒業した者は、旅に出たり拠点を転々とすることが比較的多いのだという。


 前者はその時の人口にパーティーメンバーが左右されやすいために人数はバラバラだ。後者は定石の教育も行うし、同年代の知り合いが増えるから例外が少ない。


 それでね、とエマ。


「わたしの主神は誰でしょーか!」

「予知の神スタンデュリアだよね」

「そう! でねでね、今日夢で、朝早く町に出かけるといいことがあるかもしれないって感じたの!」

「……神様から言われたとかじゃなくて?」

「うん!」


 なぜその曖昧さで自慢げなのだろうか。

 そういう考えなのかなと、信仰の仕方としては変な部類に入るウァイストの信徒は納得する。

 信仰は神とその集団によって変わるものだ。それに部外者が口を出してもいいことはない。


 ルレアの広げていた索識魔法に引っかからない声が突然四人の後ろに現れた。


「さすが予知の神だね」


 ぎょっとして振り向いたルーシーとフィリと対照的に、エマはにこにこの笑顔で振り返って応じる。


「こんにちは! ルレアちゃんのお師匠さんですか?」

「うん」


 エマの元気な問いかけに、焼き鳥の串の入った紙袋を抱えている――残念ながら匂いは彼が消しているようだ――グラシゥスが優しく微笑んだ。


「魔法使いのグラシゥス。呼びにくいだろうから、グレイスでいいよ」

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