第9章 子爵家の秘密
アイリス王女主催パーティー後、オーウェン子爵家には毎日贈り物が届くようになり、夫人は正直辟易していた。
プレゼント男爵夫妻からの贈答品だけでも困惑していたというのに。
そう。分かってはいたのだ。
ギフティーを人前に出したらどうなるのかは。天使か妖精かのような愛らしい孫をあやす義母から
「早めに宝物庫を作る準備をしておいた方がいいわよ。頂き物をすぐに売る気がないならね。
本来の能力に加えて、ギフティーは私の息子より数十倍モテそうだし」
と、言われていたからだ。
しがない子爵家が建国から現在まで生き延びてこられた理由は、目立たず、それでいて国から必要とされる存在であり続けてきたからだ。
そしてもう一つは、特殊能力が隔世遺伝で現れるからだった。
それは人々から愛され、ことあるごとに何かしら贈り物をいただく、という変わった力だった。もちろんその力は人それぞれらしかったが。
領地が飢饉に遭ったときや、一族あるいは国が差し迫った状況に陥った際などに、その宝物品を売却して資金を調達して提供してきたのだ。
しかも、それが表立つと財産や命が狙われたりするので、決して口外しないとわざわざ相手に一筆書いてもらっていたという。
そう。それゆえに国には記録が残らなかった。それでも国はオーウェン子爵家への感謝の気持ちは忘れずに、子や孫に語り継がれて、やがて一つのことわざが生まれた。
「南南西に頭を垂れぬ者に未来はない」
受けた恩には絶えず感謝の気持ちを持たなければいけない、という教訓の言葉だ。
そしてそれは王城から南南西に位置している、オーウェン子爵領を指していたのだ。
代々王家の人間ならば大抵はこのことわざの真の意味を知っている。
しかし王弟のアレンは信用できないと思われ、知らされていないのだろうと、フルーラ夫人は思っていた。
それはともかく、もうこれ以上贈り物は要らないというのが、彼女の本音だった。
ギフティーは誰かと顔を合わせただけでも何かしら贈り物をいただいてしまうのだ。たとえそれが初めて会う知らない人物だとしても。
いつもやんわりと贈り物を辞退しようとしているのだが、ギフティーに微笑みかけられて幸せな気分になれたお礼なので、お返しなど一切不要。だから受け取って欲しいと相手からそう懇願されては強くは拒否できなかった。
まあ、子供に対する贈り物であったので、さすがにプレセント男爵のような高額な品でもなかったし。
「ねぇ。貴方は一体何をしてこんなにお礼をいただいているの?」
息子にそう訊ねると、彼はコテッと小首を傾げて
「特別なことはしていないよ。相談事に乗ったり、分からないことを教えたり。
お礼なんて要らないとちゃんと言っているよ。でもそれじゃあ気が済まないって、困った顔をされてしまうの」
本当に困惑気味にそう言った。そしてこう続けた。
「そもそも僕の言っていることが分からない人も多くて、それをね、リーチェが通訳してくれているからみんなは理解できているんだよ。
だからお礼なら彼女だけにして、と言ってはいるのだけれど。
ちなみにリーチェはもらったものは孤児院へみんな寄付している。僕は労働で貢献するつもりだけど。
だって、うちの宝物庫にあるご先祖様の遺産を調べてみたら、そのほとんどが国宝級だったんだよ。
それをただ保管したままにしておくのは社会的損失だと思うんだ。
だからね、いずれ博物館を造って公開したいなぁって考えているんだ。
そのためにも贈り物はしまっておきたいんだ。これからいただく物も、もしかしたらこの後価値がでるかもしれないでしょ」
(通訳って……貴方は外国語を話していたわけじゃないでしょ。単に分かりやすく説明するのがめんどうくさいのね。
全くリーチェちゃんがいないとだめね、この子は……)
息子の話を聞いた夫人は、やっぱりリーチェをお嫁さんに迎えなければならない、と改めて思ったのだった。
その後もギフティーの交友関係が広まる度に贈り物の数は多くなっていった。
それらの品々は、彼が生まれた半年後に建造された宝物庫に次々と納められていった。
なにせ彼は老若男女、年齢、身分、そして職業関係なく、自身が興味の持つ人々とはすぐに親しくなったからだ。
しかしそれは、いつもギフティーと共に行動しているリーチェの交友関係までもが広がって行くことを示していた。
さすがの天才令息も、まだまだ子供だった。
それゆえ、そのことに気づくのが遅くなり、その後慌てて対策しようとしたが失敗し、その結果、誰よりも大切な彼女と離れ離れになってしまったのだった。




