第28章 強奪
「君もマリアンのブライズメイドをするつもりだと言ったが、アレン殿下や僕から逃げるために、国に戻るつもりだったんじゃなかったか?」
ギフティーが胡乱な目でそう訊ねると、リーチェは平然とこう答えた。
「変装して出席するつもりだったわ」
「馬鹿だろ」
彼はボソッと呟いた。
彼女が場当たり的にそう言ったことは丸わかりだった。やっぱり子供のころと変わらない。無計画で思い込んだら猪突猛進。
これまでずっと振り回されてきた。しかし、それが嫌じゃないから困るとギフティーは心の中でため息をついた。
頭の良過ぎる彼は、大概の事象の結末を見通せてしまう。結果が分かってしまうからつまらないのだ。
しかし、リーチェだけは何をしでかすのか全く予想がつかない。だからこそ面白い。彼女と一緒にいるだけで、自分が生きていることを実感できるのだ。
いや、彼女が側にいないこの二年だって、彼女の行動を様々な角度でシミュレーションして、その対策を練ってその対処をしてきたのだ。
それは彼女を心配しつつも、心がワクワクする日々だった。
とはいえ、また勝手にいなくなられては困る。
たとえ彼女にマラカイトのネックレスを身に着けさせて、居場所がすぐに分かるように仕向けたとはいえ。
ちなみにそのネックレスは、通信機器であるとともに探査装置であり、彼のブレスレットと連動していたのだ。
しかし、決して彼女を束縛したり監視するために贈ったわけではない。彼女の能力に気付いて、その身の安全を図るためだった。
まあ、一生外せないという点で、ギフティーがリーチェを離さない気満々なのは明らかだったのだが。
とりあえず婚約できたことは一安心。
帰国したらすぐにドレス製作に入り、その仕上がりに合わせて挙式の日取りを決めようと考えていた。
しかし、そうスムーズにはいかなそうだ。とギフティーは理解した。
(いくら冷徹非情だと母上に言われている僕だって、従姉妹のマリアンには幸せになって欲しいと思っている。
それに、彼女とキース卿には散々リーチェのことで面倒をかけてきた。人として恩返しくらいはすべきだろう。
それならリーチェとは違い、僕はお金ではなく自分の能力を使ってそれをしよう。
非効率で僕らしくないと王太子殿下には言われそうだけれどね)
「王太子殿下の婚姻の儀を変更なんてとんでもない話だよ。多くの人々に迷惑がかかるんだからね。簡単に口にするな」
「ごめんなさい」
「そしてそれは侯爵家もそうだろう。だから、アルペディア王国だって結婚式にキース卿を帰国させないってことはないだろう。国際問題になるからな。
ただし、実質的な結婚生活はしばらくお預けになるだろうから、そういう意味でお気の毒だと僕は言ったんだ」
「そ、そうだったんだ。早とちりしてしまったわ。ごめんなさい」
「そもそも二年前だって早とちりして留学したんだろう? 反省していなかったのか?」
ギフティーの容赦ないツッコミに、さすがのリーチェも涙目になった。
この二年本当にずっと反省していたのだ。それなのにどうして自分はこう思い込みが激しいのだろうかと。
するとギフティーはまるで幼い子を諭すように、彼女の頭をポンポンと優しく触れながら言った。
「まあ、心配するな。マリアンとキース卿には幸せになって欲しいから、僕が手伝って、さっさと論文をまとめてやるからね」
「え?」
「これからのスケジュールを伝えておこう。
まず君を国へ送り届け、君が僕を毎日思っていたという証拠をちゃんと見せてもらう。
二人で学園の卒業式に参加する。そして卒業パーティーで一緒に踊ろう。ドレスは仕立ててある。
その後僕は、再びアルペディア王国へ渡り、キース卿の論文をまとめる手伝いをするよ。
君はマリアン達の結婚式の準備と同時に、僕達の式の準備も母上と共に進めておいてくれ。
それでもまだ余裕があるなら、宝物庫の整理でもしてもらおうかな。君、学芸員の資格を取ったんだよね?」
「そんなことまで知っているの? マリアン様が取っておいた方がこの先役に立つと言ったから勉強したのだけれど。
宝物庫を整理しておけばいいのね?」
「ああ。将来博物館を開くのが僕の夢なんでね。
君の好きな化石類もたくさんあるよ」
化石という言葉にリーチェは、目を輝かせた。しかもギフティーの役に立てるのだと喜びかけた。しかし……
「ねぇ、ギフティーがキース様の手伝いをするというのなら、私も一緒に行った方が効率がいいのではないかしら?
私は実際に発掘現場にいたわけだから」
「却下!
今日あんなに怖い目に遭ったことを忘れたのか?
君を気に掛けながらキース卿の手伝いをするなんてできっこないだろう。非効率過ぎる。
大体、これまではキース卿やグロリア公爵夫人が付けてくださっていた護衛騎士がいたから、どうにか君を守ってこれたんだぞ。
もうこれ以上夫人にご面倒をおかけするわけにはいかない」
ギフティーが目をつり上げた。綺麗過ぎる顔をしているから、本気で怒ると切れ過ぎるナイフような鋭い表情になる。
子供のころからリーチェが後先考えずに行動して危険な目に遭った時、こんな顔をしていた。
年下の彼にこんなに心配をかけてしまっていることに、彼女は恥じ入った。全く成長できていないじゃないかと。
しかし、これまでは自分の能力に気付いていなかったのだから、彼女が危機感を持っていなくても当たり前だった。
まあ、彼だってそれを気付かせないようにしていた。しかし、今後はそうはいかないのだ。
「今ごろ公爵家は大騒ぎになってるぞ」
「えっ? どうして?」
「今朝、君の木箱を受け取りに来た運送屋が、港じゃなくて公爵家へ向かったんだ。
まあ、マートン卿がそれを直前で阻止したから、君の僕への愛の証は、今、僕らとは別の船上にあると思うが」
「どういうこと? なぜ私の荷が公爵家へ運ばれたの?」
全く理解できず、リーチェは混乱した。
「あの運送屋はどうやら度を越した愛国者みたいだよ。だから、同じく愛国心の強い公爵家の護衛騎士の依頼を一も二も無く引き受けたみたいだ。
信じられないよ。いくら国のためとはいっても、客から依頼された荷を盗むなんて。
信用を失ったらもう二度とその商売はできないだろうに。
それは護衛騎士も同じだ。護衛対象者を陥れるような真似をするなんて、全く言語道断だ。
おそらく騎士の資格は剥奪されてしまうだろうな。
彼は公爵家の指示で動いたわけではなく、勝手に行動を起こした上に、その盗品を一次的とはいえ、公爵家をとりあえずの保管場所にしようとしていたんだからな」
「私の荷なんて狙ってどうするつもりだったのかしら? お土産が入っていただけよ」
心底訳がわからないという顔をしているリーチェを見て、ギフティーは今日だけで何度目になるかわからないため息をつきながら言った。
「さっき、君の能力の話をしただろう?
君は単に友人知人のために品物を選んだだけだったのだろうが、おそらくそれらはかなり価値の高いものばかりのはずだ。
その護衛騎士は、母国の貴重な財産を君に奪われるのを阻止しなければならない、と考えたのだろう。
彼らは国のためだと信じて疑っていなかったのだと思うよ」
「なによそれ。私は値切ることもなく、言い値で買っただけよ。奪うって何よ!
国外に商品を持ち出されたくないというのなら、外国人には物を売らないと、国が周知徹底しておきなさいよ。
そして、店先にでもその紙を貼っておけばいいわ!」
リーチェが怒りの声を上げた。もっともな話だと、ギフティーも頷いたのだった。




