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ブルーライトニング  作者: toy


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70/121

ブルーライトニング 第70章

「ただいま」と玲子とマルスが帰ると、ロビーが出迎えた。

「今日は夕食を作っておきました」とロビーが告げる。

「ありがとう、ロビー」

 テーブルをのぞくと、一人前とはいえ、そこそこ充実した食事である。玲子とマルスは洗面所で手を洗い、テーブルにつく。


「今日はソレイユに会ってきたのですか?」とロビーが聞く。

「ええ、瑞穂やメアリや恵ちゃんと一緒にね」

「ずいぶんにぎやかな集まりになりましたね」

「今週の土曜日にはね、瑞穂のお店でソレイユを招待してパーティを開くの」

「それはいいですね」

「ぼくもいくんだよ」

 ロビーは「楽しんできてください」と言いながら、冷製パスタを差し出した。

「ありがとう、おいしそうね」


 冷製パスタはとてもおいしかった。マルスはパスタの皿と玲子を、交互に眺めている。

「どうしたの?」と玲子はマルスに聞く。

「ロビーはすごいなあ。こんなものまで作れるんだ」

「作れますよ。この家に仕えるときに、家事プログラムを追加されましたから」

「ぼくにも追加してほしいな」

「それは不可能です。マルスのメモリには、もう余裕がないですから」

「つまんない」


 玲子は食事の手をとめて、マルスの頭をなでる。

「マルスはね、自分ができることをすればいいんだよ」

「うん、そうなんだけど、ぼくだってお姉ちゃんのために何かしたいよ」

「一緒にいてくれてるじゃない」

 そう返しても、マルスの表情はさえなかった。ロビーが続ける。

「また、一緒に作りましょう。お嬢様が喜びますよ」

「本当?」

「ええ、楽しみにしてるから」

「じゃあ、やってみる」

 ロビーは言った。

「マルス、風呂の準備をしてください」

「はい」

 そう言ってマルスは椅子から滑り降りると、風呂場に駆けていった。

「あんまり無理しなくてもいいのに」と、玲子は部屋を出ていくマルスを見送りながら言った。

「マスターのために働くというのは、ロボットの本能です。察してやってください」

「そうなんだけど、私にとっては十分尽くしてもらってるんだけどなあ」


 そのとき、玲子のハンディの呼び出し音が鳴り、玲子はハンディを取り出して、相手を確かめる。

「ソレイユだわ。何かしら」

 そう言いながら受信ボタンを押した。

「玲子だけど、どうしたの?」

 控えめなソレイユの声が聞こえる。

「玲子、今日も来てくれたけど、明日も来られる?」

「瑞穂は部活があるから無理だけど、私なら行けるわ」

「玲子が来てくれればいいの。玲子が来てくれるなら、明日、マルスを呼んで最後の訓練をしたいの」

「最後」

「明日、最後の訓練が終わったら、マルスに私の機能停止のことを話すから、マルスを迎えに来てほしいのよ」

「そうなんだ」

「玲子がいてくれたら、マルスも大丈夫だと思うから」

「わかったわ」

「じゃあ、明日はマルスは学校を休ませてね。恵さんの護衛はルーナとノーマにやってもらうから」

「まだ危険があるの?」

「海軍情報局は安心してないみたい。まだ、ピースメーカーという団体が活動しているから」

「あの団体、ほんとにテロリスト集団なのね。平和主義団体なんて厚かましい!」

「じゃあ、マルスにも軍からの指令を伝達するから、学校への連絡をお願いね」

「ええ、わかったわ」


 翌日、ロボット訓練施設で、マルスとソレイユがライトセイバーでの戦闘訓練をしていた。本来、高性能なマルスにはソレイユは太刀打ちできないのだが、マルスはソレイユのレベルに落として、動きの訓練を行っていた。

 ライトセイバーの戦い方には二つの系統がある。ソレイユのように速さと動きの効率性を高めたスタイルと、アトスのようにパワーと攻撃を重視したスタイルである。マルスはソレイユの、リョーカはアトスの動きを学んでいた。

 訓練にはゼムとニーナが立ち会っていた。午前中はニーナを相手に空戦訓練が主だったが、午後は接近戦の訓練を行っていた。訓練を続けるにつれ、マルスの動きは明らかに良くなっており、ソレイユの動きと見まごうところまできていた。

「動きが良くなっているわね。ゼムはどう思う?」とニーナは傍らのゼムに聞いた。

「ソレイユの動きは本当に効率がいい。あの動きは、私も参考にしたいくらいだ」

 決められた時間が過ぎたので、マルスとソレイユの模擬戦が終わった。

「マルス、腕を上げたわね。もう、私には教えることはないわ」

「ほんと?」

「これからは、ゼムやライトニングのロボットを相手にするといいわ。もっと強くなれると思うから」


 ソレイユとマルスの会話に、ゼムが割って入った。

「早速、私とやってみよう」

「いいよ」

 そう言いながら、マルスは訓練モードでライトセイバーを作動させる。ゼムも自分のライトセイバーを起動させた。

「うーん、全然動きが見えないわ」とソレイユがニーナに言った。

「安心して。私にも見えない。二人は私たちとはレベルが違うわ。多分、ルーナにも難しいんじゃないかしら」

「でも、良かった。私にできることができて」

「今日、打ち明けるの」

「ええ、いつかは話さないといけないから。そのために玲子を呼んだし」

「私やアトスも、案外近いのかなあ」

「それは、そのときが来ないとわからないわ。一つだけ言えるのは、今日できることを精一杯やることよ」

「そうね」


 突然、マルスとゼムの動きが止まった。

「やるねえ、マルス。そういう戦い方をされると、私にとっては非常にやりづらい。私のような大柄なロボットは、その動きには対応しづらいからね」

「ゼムがやられたの?」とソレイユが問うと、ゼムは淡々と答えた。

「腕と腰を切断されている。それに比べて私は、マルスに一太刀も浴びせられなかった。ソレイユの訓練は正しいな」

「良かったわ。私にも残せるものがあって」

「玲子が来たみたいね」

 そう言うと、ニーナは訓練室の扉を開く操作をする。安全のため、訓練中は特別な操作をしない限り、外から扉が開かないようになっているからだ。


 開いた扉から玲子が入ってくる。ゼムは恭しく頭を下げ、マルスは玲子に抱きついた。

「お姉ちゃん、今日もゼムに勝てたよ」

「そう、良かった。ゼムは手加減してなかったの?」

「いえ、全力で戦って負けました。マルスの成長は著しいものがあります。ここまでくると、私が勝つことは難しいですね」

 玲子に会えたマルスは、玲子の腕にからみついて離れない。礼を尽くしてたたずむゼムとは、対照的な姿だった。

「こっちで休憩しましょう」と言って、ソレイユが小部屋に案内する。部屋には玲子のために、飲み物が用意されていた。ソレイユたちは椅子に座り、ゼムは体が大きいので椅子には座らず、部屋の隅に立っていた。

「ありがとう、ちょうどのどが渇いていたの」

 そう言って玲子は容器の蓋をあけ、冷やされたお茶を飲む。これから何の話がされるのかわかっている玲子は、少し緊張していた。マルスはというと、玲子の横に座ってご機嫌である。

「マルス、話があるの」とソレイユが切り出した。

「なに?」

「私ね、もうじき機能が停止するの」

 マルスの顔から笑顔が消える。

「機能停止の意味はわかるよね」

「うん、それって、もうじきなの?」

「そう。だから、レナが作られたのよ」

 マルスは傍らの玲子を見上げ、玲子はマルスの頭を撫でた。

「お姉ちゃん、知ってたの?」

「昨日、ソレイユから聞いたの。ソレイユはマルスにはいずれ話すと言ったから、私からはマルスには言わなかったの」

 マルスは玲子の体に顔を埋めて離れなかった。玲子はそんなマルスを、優しく抱いている。

「マルス、私たちにも寿命はあるわ。私は精一杯やってきて、最後にマルスにすべてを引き継ぐことができたから、もう十分よ」


 帰りしな、マルスはソレイユに抱きついたまま、なかなか離れようとしなかった。ソレイユにとっては初めての経験なので戸惑いつつも、玲子にならって、しばらくマルスの背中を撫でていた。頃合いを見て、玲子はマルスに声をかける。

「マルス、そろそろ帰らないと」

 ようやく、マルスはソレイユから離れた。ソレイユは柔らかな笑みを浮かべながら、

「玲子、私からもお願いがあるんだけど」と言った。

「なに? 私にできること?」

 ソレイユはそっと玲子に歩み寄り、そのまま抱きついた。玲子の胸に温かいものが流れ込む。玲子もそっと腕を回し、ソレイユを抱きしめた。


 ほんのしばらくの間、抱かれていたソレイユは、そっと玲子から離れて言った。

「ありがとう。マルスの気持ちがわかる気がする」

 そう言って、ソレイユは笑った。

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