ブルーライトニング 第68章
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第68章
翌日の朝、ロビーが野菜のソテーを作り、マルスが踏み台の上に立ちフライパンでハムと卵を焼いていた。玲子はその様子をただ眺めていた。焼き加減を真剣な目で見つめるマルスはとても可愛い。これだけでも、十分なごちそうである。ロビーがときどきマルスに視線を送っているのは、細かな指示を出すために状況を確認しているからだろう。
先進技術適用試作体シリーズであるロビーも、基本的には戦闘用ロボットだ。しかし、人間らしさを重視したアンドロイドと違って、メタロイドは「人間らしさ」の表現に頭脳資源を割く必要がない。そのぶん人工頭脳には余裕があり、家事用の機能を追加できるのだ。
「マルス、そろそろいいでしょう。お皿に移してください」
ロビーが声をかけると、
「はーい」
とマルスは返事をし、フライパンから目玉焼きとハムを皿に盛りつけた。皿にはすでに野菜のソテーが添えてある。
トースターがチンと鳴り、パンが焼き上がる。ロビーは温めておいたミルクココアをカップに注いだ。
「さあ、お嬢様。召し上がってください」
「ありがとう」
玲子はそう言って席についた。マルスが横に座り、にこにこと玲子の顔を見ている。
「いただきます」
玲子はマルスが作った目玉焼きに箸をつけた。黄身は玲子の好みに合わせて堅焼きにしてある。箸で切って口に運ぶと、ほろっとした黄身が、ちょうどよい塩味とともに口の中でほぐれた。
「おいしいよ、マルス」
マルスはぱっと顔を明るくして、
「よかった」
と答える。
自分で作るときには感じない、ちょっとした贅沢さがそこにはあった。
(いいな、こういうの。おばさんが“作ってもらいなさい”って言うのも分かる)
玲子は、今まで味わったことのない高揚感の中で朝食を食べ終えた。
「ごちそうさま。おいしかったわ。ありがとう、二人とも」
「ようございました」
ロビーが答える。マルスはうれしそうに、にこにこと笑っている。
「じゃあ、マルス。学校へ行こうか」
「はい」
休日明けの学校では、恵を囲む同級生の輪ができていた。恵を襲撃した事件は大きく報道されたので、クラスメイトたちの関心は高かったのだ。
「けがは、なかった?」
そう聞かれ、恵は首を振った。
「ユリやマルスがいたから大丈夫だったよ。それに、マルスのお姉さんも助けてくれたから」
「へえ、マルスのお姉さんもいたの? どんな人?」
「優しいけど、とっても強い人。1人をやっつけてくれたの」
「へー、すごい!」
女子たちが一斉に騒ぐ。
「マルスもこっちにおいでよ」
マルスも、恵を囲む輪の中に引っ張り込まれた。
「マルスは何人やっつけたの?」
「ふたりだよ」
また女子たちがわっと湧く。
「えー、かっこいい!」
「どうやって、やっつけたの?」
マルスは少し考えてから、説明を始めた。
「ぼくやユリちゃんみたいに家庭に入っているアンドロイドは、身近な人を守るために対人戦闘の訓練を受けるの。そこで、どうやったら相手を動けないようにしたり、気絶させたりできるかを学ぶんだ」
「へえ、ユリちゃんもそういうことやってるんだ」
ユリも話に合わせて、
「ええ。私も訓練を受けてるわ。恵を守らないといけないから」
と口を添えた。
「マルスやユリは、かわいいだけじゃないんだね」
「私にもマルスやユリみたいなアンドロイドがいたらいいな。ねえ、高野さんはユリのこと、どう思ってるの?」
話を振られた恵は、
「妹だと思ってるよ。私たちの家族だもの」
と照れくさそうに答える。
「マルスはどんな立場なの?」
「お姉ちゃんは、ぼくのことを弟だって言ってるよ。いつも優しくしてくれるの」
「そっかあ。マルスが弟ならいいなあ。私もほしいな。アンドロイドを買うには、どうしたらいいの?」
「ぼくたちは、ダグラス社からリースされているんだけどね」
「リースかあ」
「ほかの会社のアンドロイドだと、買い取りっていう場合もあるけどね」
とユリが言い足す。
「やっぱり、ダグラス社のアンドロイドは高いの?」
「うん、ちょっと割高かな」
とユリが答えた。
「その代わり、強いんだ」
「そういうことになるかな」
そのとき、1人の女子がふと口を開いた。
「そういえば、リヨン大統領を守ったマーサって、マルスに似てるよね」
「ほんとだ。背格好がよく似てる!」
わあっと、さらに大きな興奮が女子たちのあいだに広がる。
「マーサもぼくも、標準モデルに合わせて作られているから、似てるよ。多分、髪型を変えたらそっくりだと思う」
とマルスが答えた。
「標準モデル?」
「そう。顔つきとか体型とか、量産化を前提に規格化されたモデルのことなの。特注モデルもあるけど、標準モデルは安価なんだ」
マルスはそう説明した。実際、彼は標準モデルに準拠して作られているので、嘘ではない。
少し離れたところでそのやりとりを聞いていた守は、吹き出しそうになった。
(うわっ、マルス、うまいこと言うな)
守は、マルスがマーサそのものなのだろうと、なんとなく考えていたからだ。




