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ブルーライトニング  作者: toy


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ブルーライトニング 第63章

 邸のテニスコートでは、子どもたちだけの試合が始まっていた。サムはソレイユの付き添いとして大人の輪には入らず、コート脇で見守っていた。今はメアリとソレイユのペアが、マルスと恵のペアと対戦中だ。

「メアリ、ソレイユに会えて嬉しそうだな」とマイクが小さくつぶやく。

「そんなに会いたかったなら、連れて行ってあげればよかった」と玲子が言うと、マイクは困ったように笑った。

「遠慮してたんだろ。家でもどこか遠慮があるんだ、あいつ」

「意外だわ。あなたにはずいぶん懐いてるじゃない」と瑞穂が首をかしげる。マイクとメアリは口げんかしているようでいて、どこか温かい空気が漂う。

「ここまで来るの、大変だったんだよ。欲を言えばきりがないけどさ。でも、玲子にはすぐ懐いたんだよな」

「守も、玲子にはすぐ懐いたよね」と瑞穂が隣の守の頭を小突く。

「お姉ちゃんと違って、玲子さん優しいから」

「こいつう」と瑞穂が軽く拳骨を落とすと、彼女は玲子の方へ向き直る。

「マルスも、すぐに懐いたんでしょ?」

「ええ」

 玲子がうなずく。視線の先ではマルスが恵と一緒にラケットを振っている姿が見えた。

「メアリ、ちょっとマルスに嫉妬しててさ」と、マイクが切り出した。

「えっ」と玲子がマイクに視線を移す。

「昨日も“玲子と一緒に寝たい”って言ったんだけど、母さんに止められて」

「ああ、だから来なかったのね」玲子は今さら合点がいった。

「メアリがマルスを気にしなければいいけど」

「寂しがり屋だからな。ノーマがいるときはよく一緒に寝てたんだ。でも最近はノーマがサムと寝ててさ」

「おい、そういうの皆に言うなよ」と、黙っていたサムがたしなめる。

「でも、それ、マルスの影響ですよね。ノーマは、マルスをすごく羨ましがってます」とルーナが言う。

「そうかもしれないが、女の子と寝るのは気恥ずかしいところもあるんだ。普通、妹とは添い寝しないだろ」とサムが渋い顔をする。

「マルスもノーマも、マスターが大好きなんです。わがままに見えても、受け入れてあげてください」とルーナが言うと、サムは口元に小さく笑みを浮かべた。

「ルーナにも、そんなマスターがいるの?」

 守が尋ねる。

「いるわ。優しいけど、ちょっと厳格で。だから、あまり望みすぎないようにしてるの」

「ルーナ、少し遠慮しすぎだよ。学校でもそうだった」

「でも私たちロボットは、マスターが許すことしかできないの」

「マルスは、たまに我を通すけど」と玲子が苦笑すると、

「それでも“玲子がだめと言ったら絶対しない”。そこは同じよ」とルーナが静かに返す。

「玲子、マルスだって、どこか遠慮してるかもしれないぞ」とサムが笑う。

「そうかしら」

「玲子も遠慮しなくていい。好きなように可愛がってやれ。マルスが一緒にいるとき、マルスは玲子のものなんだから」

「好きなように」

 サムの言葉が、玲子の胸にすっと落ちた。


 そこへ、屋敷でただ一体のアンドロイド、エスターがバスケットを手に現れた。冷えたジュースとコップ、そしておしぼり。声に釣られて、試合をしていた子どもたちも駆け寄ってくる。

「エスター、ありがとう」メアリが言うと、皆も「ありがとう」と続いた。メアリはコップを持ったまま、玲子の隣へちょこんと座る。瑞穂が一人分のスペースを空けておいたのだ。

「ねえ、玲子。今日、一緒に寝ちゃだめ?」

「だめよ、メアリ。わがまま言わないの」とエスターがたしなめる。エスターはメアリの養育係として厳しい。

「いいのよ、エスター」と玲子が制した。

「メアリ、マルスも一緒だけど平気? 3人だとベッドは狭いわよ」

「うん!」

「じゃあ、いいわ」

「やった! いっぱいお話ししよう、玲子!」

「ええ」

「よろしいのですか、玲子様」

「ええ。私もマルスも、かまわないわ」

「では、よろしくお願いします」

 エスターは一礼して去り、サムとマイクは“仕方ないな”という笑みを交わした。


 エスターは子どもたちの輪を離れ、大人たちの席へ回り、用向きを確かめる。

「もう少ししたら子どもたちを呼んで、もう一度、お茶にしましょう。準備をお願い」と夫人が指示する。

「はい、奥様」

「さっきメアリの歓声が聞こえたけど、玲子におねだりしていたのかしら」

「はい。今夜はご一緒したいと。玲子様もお許しになりました」

「玲子がいいと言うならいいわ。マルスを邪魔にしなければ」

「ええ。マルスがいても“構わない”と」

「それなら安心ね。玲子、慕われてるわ」

「いいお嬢さんですから」

 恵の母が微笑み、高野もうなずく。高野はリヨン大統領との極秘会談に玲子が同席したことを知っていたが、この場では口にしない。ダグラス夫妻も会場を提供した手前、事情は承知していたが、あえて触れなかった。エスターは再び一礼して下がる。

「とはいえ、今回は玲子の頑張りに救われたのは確かだ」とジムが言い、高野が続ける。


「同感です。もっとも、娘に同行した理由が“弟を可愛がる娘と話したかった”というのは、なんとも。ありがたい反面、危険に巻き込んでしまったかと心苦しくもあります」

「玲子には、危険に向き合う覚悟がありましたよ」とアリスが穏やかに言う。

「マルスが恵さんを護衛していると知りつつ、それでも会って話したいという思いが強かったのよ」

「“海軍のアンドロイドが護衛していた”という論評も、マスコミには出ていますわ」

 恵の母が不安を口にする。

「波紋にならないかしら」

「マルスと、大統領護衛のマーサの年格好が似ている。疑われても無理はないだろう」

 ジムは肩をすくめる。

「だが、傷ついたのは襲撃者で、善良な市民ではない。実のところ、昨夜からアンドロイド導入の問い合わせが急増している。テロへの不安が、それだけ強いということだ。護衛に使えるアンドロイドは、今のところ我が社にしかない」

「アンドロイドやメタロイドが普及すれば、犯罪者には動きづらい社会になるでしょう。近年、ダグラス社のロボットが各シティに行き渡るにつれて、犯罪抑止の兆候を示すデータも出ています」と高野が補足する。

「我が社としても望むところだ。玲子やメアリのような子が、悲劇に遭わずに済むなら、努力のしがいがある」

「それに、“ソレイユ・ショック”の再来を防げたのは、ファントムにおけるソレイユの功績です」と高野が言う。だが、ジムの表情はわずかにくもった。

「そうだ。だが、その功績に十分報いているかと言えば、まだだ。玲子や、あの瑞穂という娘との交流くらいしかしてやれていない。それが、残念でね」

 プレストシティの守護神とまで言われながらも、長らくシティから迫害されていたソレイユに、ほとんど報いてこれなかったことをジムは悔やんでいた。


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