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ブルーライトニング  作者: toy


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60/121

ブルーライトニング 第60章

 アリスが部屋を出ると、玲子はマルスに声をかけた。

「マルス、着替えるから、ちょっと膝から降りて」

 マルスはするりと膝から滑り降り、ベッドにごろんと横になる。玲子が寝間着に着替えている間、マルスは背を向けたまま、退屈そうにごろごろ転がっていた。どんな顔かは見えないが、きっと退屈しているのだろう。

(今日は色々あったし、いっぱい甘えたいのかな)と玲子は思う。今夜はすぐには眠らないだろう。


 着替えを終えた玲子もベッドに上がる。客間のダブルベッドは広い。

「マルス、おいで」

 膝を軽くたたくと、マルスは嬉しそうに這い寄り、こてんと頭を玲子の足に乗せた。

「お姉ちゃん」

 頭を撫でると、マルスが笑う。玲子もつられて微笑む。

「今日は大活躍だったね」

「ルーナやユリちゃんもだよ」

「マルスは何人やっつけたの?」

「3人。あっ、そのうち、お姉ちゃんが1人ころばしたから、2.5人かな。ルーナが2人、ユリちゃんが1人」


 夕方の騒動を思い返し、玲子が言う。

「まさか6人で来るなんてね。相手は女の子ひとりなのに。私の時はひとりだったよ」

「お姉ちゃんのときは、そばにロボットがいなかったからだよ。恵ちゃんにはユリちゃんがついてる。ひとりじゃユリちゃんがやっつけちゃうからね」とマルスは甘えた声で、とんでもないことを言う。

「マルス、正直に言ってほしいんだけど。私はじゃまだった?」

 マルスは上体を起こして首を振った。

「ううん。お姉ちゃんがいたから楽だったよ。恵ちゃんを守ってくれたし、ひとり倒してくれたし。やっぱりソレイユが言うとおり、お姉ちゃんは強いね」

「ソレイユとなんとなく始めた訓練が、いつの間にかロビーそっくりのメタロイド相手になって、冷や汗かいたけどね」

「でも、手加減していたからケガはなかったでしょ」

「そうね。一度もケガしてないわ」


 ふっとマルスの顔から笑みが消える。

「みんなが言ってた。今日はお姉ちゃんのおかげで、ぼくもルーナもユリちゃんも助かったって。だから、ぼくからちゃんとお礼を言いなさいって」

 玲子はこつんと額をつついた。

「お礼なんていらないわ。私はマルスのお姉ちゃん。守るのは当然。恵ちゃんのためにも、私にできることをしただけよ」

「でも、こわかったでしょ。ぼく、ハンディの通信、聞いてたの。あの警察官、お姉ちゃんたちをすごく脅してたから」

 玲子はくすっと笑う。

「むしろマルスのほうが心配だったわ。牢屋の壁をぶち壊して私のところへ来るんじゃないかって」

 マルスは肩をすぼめてうつむく。

「ルーナに止められたの。おとなしくしてなさいって」

「やっぱりね。ルーナにお礼を言わなくちゃ。ルーナがいてくれてよかった」

「ルーナはぼくの上位のロボットだから、逆らえないの」

「なるほど。でも、ライトニングファントムのロボットは、どうしてマルス以外のアンドロイドの管制を受け付けないの?」

「メタロイドは、ぼくみたいに“抑制プログラム”をかけてないんだ。ぼくは特別にかけられてるの」

「変ね。ゼムは抑制なし? ゼムのほうが強そうなのに」

 玲子は、マルスが“サブロボット”と呼ばれる機体群を管制できることを正確には知らない。マルスが直接コントロールできる数や質も、ゼムをはるかに上回ることも。

「ぼくは第7艦隊の無人艦を直接コントロールできるの。やろうと思えば、小さな町くらい簡単に壊せちゃう。だから、人間や上位ロボットの指示に従うよう、抑制されてるの。ゼムはコントロールできるサブロボットのレベルが少ないから、抑制はいらないの」

「じゃあ、アポロンやダイアナみたいな戦闘艦も?」

「うん」

「すごいね、マルスは」


 それでもマルスの表情は曇ったままだ。

「でも、ぼく、お姉ちゃんのために何もできない。お手伝いもひとりじゃうまくできない。みんな“お姉ちゃんに尽くしなさい”って言うのに、できないの」

 今にも泣きそうだ。玲子は髪をやさしく撫でる。

「気にしないの。手伝ってくれるだけで助かってるし、何より楽しい」

「でも、それだけじゃ」

 玲子はそっと抱き寄せる。

「じゃあ、一緒にいられるときは、めいっぱい甘えて。私、それで幸せだから」

「それ、ぼくがしたいことだよ。本当にそれだけでいいの?」

 玲子はマルスを横抱きにする。マルスは胸に身を寄せた。

「マルスは、どうして私のことが好きなの?」

「お姉ちゃんが、優しくしてくれるから」

「それだけ?」

「うん」

「それだけで、いいじゃない。ね?」

「それだけで、いいの?」

「私に甘えてくれるのはマルスだけ。ロビーにもゼムにもできないことよ。ほら、こんなのだって」

 玲子はマルスの頬に軽くキスをする。

「マルスもして?」

 指さされた頬に、マルスも嬉しそうにキスを返した。

「じゃあ、寝よう。マルス、横になって」

 マルスは膝から降りて横になり、玲子も隣に身を横たえる。腕の中のマルスはおとなしく、ぬいぐるみのようだ。(由美子だったら、こうはいかないだろうな)と思いながらも、玲子はこの時間がしあわせだった。

「お姉ちゃん、ありがとう。大好き」

「私もマルスが好きよ」

 玲子はリモコンで照明を落とし、マルスが睡眠モードに入るまで、そっと抱き続けていた。

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