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ブルーライトニング  作者: toy


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44/121

ブルーライトニング 第44章

玲子の家に遊びに来た瑞穂は、マルスのお手製のケーキを振る舞われる。玲子に一途に尽くすマルスに、瑞穂はデートに誘う。その夜、玲子は上原からマルスが学校に通うことを聞かされる。一人の女の子の護衛任務を帯びて。


「ただいま!」

「おじゃまします!」

 玄関の声に、マルスが飛び出してくる。

「お帰りなさい!」

 マルスは玲子の鞄を受け取り、瑞穂にも「どうぞ」と手を差し出した。

「瑞穂お姉ちゃんもどうぞ」

「うん、そのつもりよ」


 ダイニングに入ると、マルスが席へと案内する。

「今日ね、ロビーに教わってケーキを作ったの」

「わあ、食べたい!」と瑞穂。

「じゃあ、お茶を入れよう。待っててね、瑞穂」

 玲子が湯を沸かし、手際よく茶葉をポットに入れる。ロビーが控えめに申し出るが、

「私がするわ」と言って、玲子はロビーを押しとどめた。その手つきを、マルスは興味津々な様子で見つめている。

「マルス、お茶を注いでみる?」

「うん」

 マルスがポットを持ち上げる。玲子は慌てて茶こしをカップに構えた。

「茶こしの上からね」

「こう?」

 危なっかしいが、ちゃんと2杯分を注ぎきる。

(ロビーに任せれば完璧なのに、あえてマルスにさせるんだ。まるでお母さんみたい)と瑞穂は微笑む。


 席に着くと、瑞穂はさりげなく椅子を動かし、マルスの隣に身を寄せた。

「なんか、狭くない?」と玲子。

「だってマルスのそばがいいんだもん」

 テーブルの片側に、玲子・マルス・瑞穂の順で肩を寄せ合って座る。ロビーは無表情ながら、どこか目元が柔らかい。

「このケーキ、おいしい!」

 素朴なパウンドケーキはふっくらと膨らみ、香りがいい。

(初めてでこの出来。ロビーの指導って言ってたけど、家事機能のあるアンドロイドなら、最初から一人で作れてもおかしくないはず。でも“教わった”って言ってたな。ロビーは“できて当然”で、マルスは“できるようになっていく”ってことなのかも)

 瑞穂の胸に、好奇心と小さな疑問がむくむくと湧く。

「とてもよくできてる。おいしいよ」

 玲子がマルスの肩を抱くと、マルスはうれしそうに目を細めた。

(玲子、本当に楽しそう)

 以前の空虚さが消え、日々が満ちて見える。きっとマルスとの生活が幸せなのだ。事情は複雑でも、いま喜んでいるならそれでいい、と瑞穂は思考をいったん止めた。


 ケーキとお茶を楽しみながら、明日の予定の話になる。

「玲子、明日、予定ある?」

「特にないよ」

「じゃあ、マルスとデートしたいな。町歩き、どう?」

「いいね。行こう。マルスもいい?」

「うん」

「守くんは連れてくる?」と玲子。

「あいつはいい。かわいくないから」

「またそんなことを」玲子は笑う。

「私はマルスとデートしたいの。邪魔者はいらない」

 口ではそう言いながらも、守のことを本気で嫌っているわけではないと、玲子は分かっている。

「私は守くんともデートしたいな。よかったら連れてきて?」

「玲子が言うなら、まあいいか。玲子って守が好きだよね」

「やんちゃでかわいいもの」

「ふーん、それは認めるけど」

(認めるんだ)と玲子は吹き出した。


 夜。瑞穂が帰った後、伯父とおばが帰宅し、4人で食卓を囲む。

「玲子、マルスを学校に行かせることになったわ」

「ほんとに?」

 玲子の顔がぱっと明るくなる。

「クラスは初等部だけど、いいわね」

「学費は?」

「小母さんが払うわ。一時的な通学だけどね」

「一時的なんだ」

 玲子の声に、かすかな寂しさが混じった。

「理由は二つ。マルスにも学校を経験させたいこと。もう一つは、クラスの女の子の護衛任務」

「ルーナが護衛してる子とは別の子?」

「交代よ。ルーナはファントムの総指揮官になるから」

「ルーナが総指揮官に! でも、もともとそのために作られたんだよね」

「ええ。だから学校はやめることになるわ」

 玲子は守の顔を思い浮かべる。きっと残念がるだろう。

 上機嫌に話す小母とは対照的に、伯父の敷島は無口なまま、箸を動かす手がわずかに強張っていた。

(伯父さんは、私がマルスの面倒を見るのを快く思ってないのかな。でも、マルスがいると毎日が楽しい。そのことは分かってほしい)

 玲子は胸の内でそう願う。

「それとね、マルスの服を3着作ってあげる。あとでカタログを見て選びましょう」

「ほんと?」

 玲子は思わず身を乗り出した。ずっと気にしていたことだった。

「マルスの面倒をよく見ているご褒美よ」

「ありがとう、小母さん」

 玲子は隣のマルスを抱き寄せる。

「よかったね、マルス」

「うん。ありがとう、小母さん」

 食卓の灯りが、3人の笑顔をやわらかく照らした。


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