ブルーライトニング 第42章
情報収集のため、ニーナとゼムがフォルテシティ防衛軍を訪問する。ゼムはそこでリョーカと模擬戦を行うのだった。一方、ニーナはリームとドラグーンの情報を交換していた。
フォルテシティ襲撃事件の情報収集のため、ニーナとゼムがフォルテシティに入った。ニーナはアルトシティ攻防戦のデータを携え、リームの解析結果と突き合わせるためだ。ゼムは現地のメタロイドから戦闘ログを回収する任務を負っていたが、アトスがゼムにひとつ頼み事をしていた。リョーカの実力を、マルスと比べて評価してほしい、と。
フォルテシティ防衛軍基地の一角の訓練センターで、リョーカは床に尻もちをつき、ゼムのライトセイバーの切っ先を喉元に受けていた。
さきほどまでの素早い攻防は、アトスでさえ細部まで追い切れなかったが、ひとつだけはっきりしている。リョーカはゼムに勝てなかった。
「で、なにが問題かわかるかい?」とアトス。模擬戦を仕掛けたのは彼の依頼だ。
「問題も何も、リョーカはいい仕上がりだと思うが」ゼムは淡々と答え、セイバーを収める。
「質問を変えよう。マルスは君を“圧倒”したと聞いた。でも、リョーカはまだ、そうは言えないよね」
ゼムは小さくうなずいた。
「もちろんだ。だが原因は単純だ。リョーカの実戦経験がまだ少ない。それだけだ。最初はマルスも同じだった」
「じゃあ、君がしばらく残って鍛えてくれないか?」
「得策ではない」ゼムは即答する。「私は手加減ができない。リョーカは私と戦い方の根が違う。私が教えられることは少ない」
アトスが言い淀むのを見て、ゼムは言葉を継いだ。
「リョーカの戦い方は、君に酷似している。君のスタイルをインプットされているのだろう? ならば、教えるのは君だ」
「正直、自信がないんだ。性能は彼女のほうが上だし、ぼくのやり方が合うかどうか」
「ソレイユはマルスの師になれた。君にもできる。君の戦い方は、タイタンの制御と結びつけば真価を発揮する。リョーカは“マルスとは違う強さ”を会得するだろう」
「ねえ、アトス!」リョーカが跳ね起き、駆け寄る。
「ゼムもそう言ってるし、わたしを訓練して。お願い!」
「本当に、ぼくでいいのかな。何かが足りない気がして」
観測室からルイスが姿を見せた。訓練中は安全のため、観測室にこもっていたのだ。
「アトス、私からもお願い。私もしばらくここに滞在するから、その間、みっちり見てあげて」
「わかった。やってみるよ」アトスはうなずいた。
「楽しみだ」ゼムの声に、珍しく弾みがある。「君のスタイルは、タイタン制御で生きる。リョーカが掴めば、大きな戦力になる」
「アトスの戦い方、かっこいいもの!」とルイスは上機嫌だ。
「リョーカがアトスみたいに戦えるようになったら最高ね」
「それと」ゼムは、本来の任務を思い出したように言う。
「迎撃戦に参加したロボット部隊から、レポート回収を進めたい。手配は?」
「ああ、もちろん。すぐ段取りするよ」アトスはうなずいた。
その頃、別室ではニーナとリームがドラグーンの分析を進めていた。リームが転送したデータをざっと確認したニーナは眉を寄せる。
「この挙動、私が戦った個体と大差ないわね」
「というか、あなたが相手にしたドラグーン、二種類なかった?」とリーム。
「ええ。“戦闘タイプ”と“攻撃タイプ”の二種類。今回フォルテシティに来たのは、全部戦闘タイプね。攻撃は随伴の戦闘車両に任せてたようね」
「ドラグーンを攻撃に回すのは、確かにもったいない」
「攻撃タイプは、拍子抜けするくらい弱かったわ。ハードの差なのか、ソフトの違いなのか、そこはわからないけど」
「アルトシティで回収した残骸、手掛かりは?」
「制御系が完全破壊で調査不能。残骸からは差が出なかったの」
「そりゃ最優先で潰すのは制御系よね」
「フォルテシティの回収品は?」
リームは肩をすくめた。
「三銃士の戦い方って荒っぽいのよ。解析できるコンディションじゃない。リョーカもアトスに似て、派手にやるし」
ニーナは苦笑する。
「荒っぽい、というより戦闘力が高いの。私たち情報分析型より近接戦での最適化が進んでる」
そしてニーナは表情を改めた。
「西郷中将は、今回の迎撃戦を“成功”と評価している。リョーカの仕上がりも悪くないわ」
リームは天井を仰ぎ、ぽつりと言う。
「リョーカは根本的に私たちと違う。マルスもそうなの?」
「ええ。マルスもリョーカも、最新鋭メタロイドのレベル。二人が本気で動くと、私たちには捕捉すら難しい」
「家事用機能がないと、そこまで振れるのね」
「そう」
「でも、家事用機能がないのは、少し可哀想でもある。マスターに尽くせないもの」
ニーナは皮肉っぽく笑った。
「リーム、あなたは誰かのために家事用機能を常用してる? ベイカー中佐は物足りないでしょう」
「たまにコーヒーを入れるくらいよ。必須能力ってほどでもない。ノーマはフル活用してそうだけど」
「ノーマはいいマスターに恵まれてる。マルスもリョーカも同じ。だから家事用機能がなくても大丈夫よ。願わくば、マルス型のアンドロイドのマスターには、玲子やルイスみたいな人になってほしいわ」
「そうね」
リームは穏やかに微笑んだ。




