ブルーライトニング 第40章
フォルテシティで展開するブルーファントムが、ドラグーン迎撃に動き出す、最大10機のドラグーンの襲来が予想される中、リーダーのアトスは心配ないと自信を示すのだった。
フォルテシティ南西に位置するローウェルインダストリーは、航空・船舶・ロボット・エネルギーといった主要分野で大きなシェアを握り、ロンドシティやアルトシティにも生産拠点を持つ巨大企業である。
そのローウェルインダストリーに、フォルテシティ防衛軍はメーカー点検の名目でブラックタイタン1機とブルータイタン3機を派遣していた。さらに、プレスト海軍のロボット部隊「ブルーファントム」分遣隊も合流している。
その日、ローウェルインダストリーの会議室では、フォルテシティ防衛軍のマトソン大佐が対策会議を主催していた。
「プレスト海軍の情報では、敵の主力はドラグーン10機。迎撃の要は君たちブルーファントムだ。こちらで支援できることは?」
問われたのは、ファントムの事実上のリーダー、少年型アンドロイドのアトスだった。彼はポルトス、アラミスと並ぶ“三銃士”の一人で、ソレイユ系の少女型に比べ、格闘戦や飛行機動に優れている。
「リームのバックアップがあれば十分です。問題ありません」
人間嫌いで寡黙なはずのアトスが明瞭に答えたので、同席していたルイスは少し驚いた。マトソンは続ける。
「忌憚なく言ってくれ。アルトシティでは、ブラックタイタンがドラグーン1機に手こずったという。懸念はないのか?」
「ニーナの報告では、ライトランサー(槍)さえ装備していれば問題なかったとのことです。ニーナは僕らほど格闘戦が得意ではありません。その差は考慮すべきでしょう」
アトスは淡々と言葉を継いだ。
「今回はブラックタイタンにリョーカが搭乗します。彼女は操縦シミュレーションを完了済みです。こちらのブラックはリンク3対応に改修済みで、運動制御ソフトも最新版になっています」
「プレスト海軍のブラックは改修前か?」
「はい、ニーナの専用機で、リンク2までの対応です。近くリンク3対応と制御ソフトへの改修を予定しているとのことです」
リームはニーナと同形式だが、最新型である彼女はリンク3に対応している。フォルテシティ側のブラックは、その試験運用として先行アップデートされていた。
「明日か」
マトソンは小さくつぶやいた。
「私もリームとドルフィンで出ます。司令部の許可は取得済みです」
ルイスの申し出に、マトソンはうなずく。
「頼む。明朝0830、迎撃作戦を開始する」
会議後、マトソンはルイスを社員食堂に誘った。ルイスは本当はリョーカも誘いたかったが、彼女は迎撃準備のためアトスたちと格納庫へ向かったあとで、不在だった。
向かい合って腰を下ろすと、マトソンが笑みを含む。
「正直、緊張する。君は?」
「しますよ。明日、敵が来るのが分かっているわけですから」
口ぶりに張りつめた色は薄い。マトソンはふっと笑い、話題を切り替えた。
「しかし、リョーカの模擬戦データは桁違いだ。同じアンドロイドで、なぜあそこまで差が出る?」
「三銃士やリームは“家事用機能”を積んでいます。その分だけ人工頭脳のリソースを消費します。リョーカはそれを搭載していないぶん、サブロボット制御や高機動制御にリソースを振れます。戦闘特化型のアンドロイドなんで、メタロイドに匹敵します」
「なるほど。アンドロイドでありながら高性能メタロイド並みか。にしても、リョーカは可愛い。君に甘えるところなんて、まるで小さな子だ」
「ええ、可愛いです。大佐もアトスと良い関係なのでは? 本来、彼は人間嫌いで無口です。今日の話しぶりは意外でした」
マトソンはスープを飲み干し、肩の力を抜いた。
「こちらに派遣された時から、リームやポルトス、アラミスの面倒をよく見ていた。それが気に入ってね、ずいぶん話しかけたんだ。ああいう奴は好きだ」
アトスに対する行動力に、ルイスは感心する。
「スミス博士が聞いたら喜びますよ」
食事を終え、マトソンはコーヒーカップを手に取る。しばし思案したのち、低く問うた。
「君は言っていたな。アンドロイドには“マスター”が必要だと。俺はアトスのマスターになれると思うか?」
ルイスは驚きつつ、口に含んでいたデザートのチーズを飲み込んだ。
「なれると思います。いえ、もう認証しているかもしれません。態度が明らかに違いますから」
「そうか、それなら明日の件が片付いたら、アトスを家に迎えることを考えよう。サムもそうしているんだろう? 例のノーマという女の子」
「ええ。妹として接しています。ご家族も家族の一員として。とても仲睦まじいですよ」
「うん、そうか」
マトソンはコーヒーを一口含み、静かに思いにふけった。




