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ブルーライトニング 改訂版 第39章

武装テロリスト「セレクターズ」の次の標的がフォルテシティであると知り、動揺を隠せないプレスト海軍。それは、セレクターズの指揮官「モルガン」提督の影響力低下が影響しているのだろうと推測する西郷。だが、万全の体制を整えているフォルテシティは簡単には攻略できないだろうと予測していた。


 セレクターズ潜水艦隊の司令室。

 モルガンは通信モニター越しに、指導者カタリナと対峙していた。


「私見ですが、フォルテシティを叩ける戦力があるなら、先に狙うべきはプレストシティ──いや、ダグラス・インダストリーです」


 不遜な物言いに、そばに控える側近が小声でたしなめる。しかしモルガンは意に介さない。モニターの中のカタリナも、感情を表には出さなかった。


「“黒い死に神”を造ったのは、プレストシティのダグラス社ではありません。製造はフォルテシティのローウェル・インダストリーです」


「ブラックタイタンの製造元はローウェル・インダストリーだ。だが、それを制御したのはダグラス製ロボットだ。アルトシティでドラグーンを破壊したのも、プレスト海軍所属のブラックタイタン。“黒い死に神”たらしめているのは、ダグラス社の技術だ」


 モルガンは淡々と指摘を重ねる。


「しかもフォルテシティの防衛軍は手強い。正面から行けば、返り討ちに遭う目もある」


「猛将モルガンにしては、ずいぶん弱気ですね」


「戦は勝たねば意味がない。勝ちやすい敵を選ぶ──それがセオリーだ」


「プレストは“勝ちやすい”と?」


「防衛軍は組織腐敗で脆い。海軍とも折り合いが悪い。裂け目はいくらでも突ける」


「ですが、我々の最優先は“正義”を示すことです。邪悪なロボットを作るシティに鉄槌を下す。フォルテシティへの攻撃は決定事項です」


「その決定が致命傷にならねばいいがな」


 ぷつり、と通信が切れ、司令室に静寂が落ちた。


「提督、カタリナ様への口の利き方が。我々の正義は、カタリナ様の御意志のもとに──」


「ばか者!」


 一喝してから、モルガンは別の部下へと向き直る。


「ブライト。プレストシティとフォルテシティのタイタン配備状況、まとめたか」


「はい。フォルテシティはブラック1、ブルー9。常時戦闘配置はブルー6と見られますが、アルトシティではプレストシティの試作機ブラックが実戦投入されました。フォルテのブラックも、戦闘可能と見るべきでしょう」


 ブライトは手元の資料を確認しながら続ける。


「プレスト海軍は、試験用のブラック1、ブルー2を保有。さらに数機を発注済みと公表しています」


 モルガンは短くうなずき、問いかける。


「プレスト海軍は、なぜアルトシティに“試作機”のブラックを出した?」


「推測ですが……ブルーはブラックの簡略型で、武装はアタッチメント式。素の戦闘力はブラックに劣ります。プレストは“災害派遣訓練”と称して、緊急展開をテストしたと説明しています。しかしブラックの内装兵器は外せません。実質、戦闘装備のままの派遣です」


 ブライトはここで私見を挟んだ。


「無人戦闘機ホーネットも4機同行していますし、最初から戦闘を想定していた可能性が高い、と見ています」


 モルガンが眉を跳ね上げる。


「ということは、ドラグーンの襲撃計画が漏れていたのか?」


「カタリナが“アルトシティ再攻撃”を公言していましたし」


「それだけじゃ説明がつかん。派遣のタイミングが良すぎる。実行日まで把握していたと見るべきだ。“内通”の匂いがする」


 ブライトの表情が曇る。


「だとすると、次のフォルテシティ攻撃も漏れている恐れが」


「アルトシティでドラグーンを3機失った。ここでさらに失えば目も当てられん」


 モルガンは低く吐き出す。


「フォルテシティには、プレストシティから“ファントム”が派遣されていたな」


「はい。総数は不明ですが、演習を見る限り、相応の戦力です」


「つまり、アルトシティの二の舞だ。相手がプレストシティなら、防衛軍を焚きつけて勝機を作れるというのに……」


 モルガンは舌打ちをこらえる。


「この作戦、カタリナを操る“ガバメント社”が直に引いているのだろう」


「その可能性が高いかと」


「素人どもめ」


 モルガンは吐き捨てた。戦場を知らず、ただ目先の利益だけを追う無能者と言わんばかりに。




 同刻、プレスト海軍司令部。

 高野長官、西郷、スコット、川崎らが円卓を囲んでいた。


 西郷は情報局がまとめた「オルソン・レポート」を示し、淡々と結論を置く。


「次の標的はフォルテシティ。そう見ます」


 会議室の空気が一段重くなる。


「フォルテシティ──ローウェル・インダストリーを攻撃する、と?」

 高野が確認する。


「正直、当てが外れました。攻めやすいのはプレストシティです。モルガンなら迷わずそうするはずですが、そうならないのは、彼の影響力が落ちた証拠でしょう」


 連邦軍時代、モルガンと肩を並べたスコットがうなずく。


「確かに。奴は相手の弱点をえぐり続ける男だ。アルトでの失敗が尾を引き、意見が通っていないと見るべきだろうな」


 高野は視線を西郷に戻す。


「モルガンの力が落ちたのは、“良い兆候”と見ていいのか?」


「こちらとしては助かります。ただ、フォルテ攻撃に失敗すれば、逆にモルガンが復権する。だからこそ、フォルテには踏ん張って敵戦力を削いでもらいたい」


 どこか他人事めいた言い方に、高野がむっとする。


「で、フォルテシティは大丈夫なのか。アルトシティのときのように、マルスを出す必要は?」


「不要です」


 西郷は即答した。


「フォルテシティには、リームと“三銃士”がいます。無人ドラグーンが改良されても対処可能でしょう。加えてリョーカもいる。フォッカー少佐が立て直したと聞きますし、リームがテストしたロボット軍団も運用できる。戦力は十分です」


「セレクターズの投入規模は?」


「最大でドラグーン10。内訳は有人3、無人7」


「7の根拠は?」


「ガバメント社の大型人型兵器“グリフォン”が、納入キャンセルで7機“浮いて”います。なりふり構わなければ、ドラグーンに改修して投入する──レポートの推定です」


「フォルテシティは勝てるか?」


「アルトのように『ブラック1・ホーネット4・ドルフィン2』で迎え撃つ状況とは違います。近接戦を得意とするアトス、ポルトス、アラミスの“三銃士”がいる分、はるかにやりやすい」


 ここまで黙考していたスコットが、ゆっくりと首を振った。


「考えるほど、フォルテを狙うのは無謀だ。本当にそこなのか?」


 副司令の川崎が、手にしたタブレットの情報をディスプレイに写す。


「金融市場は、“ローウェル・フォルテ本社が壊滅”することを前提に動いています。セレクターズの潜水母艦で運用できるドラグーンは4機が限界です。10機近くを回すなら輸送船が必要ですが、その手配は見えません」


 川崎が操作すると、ディスプレイはアメリカ大陸にあるフォルテシティとラルゴシティの位置を示す地図に切り替わった。


「ラルゴシティのガバメント社が、同じ大陸のフォルテシティを狙えば、輸送は簡素化できる。その手軽さに引かれたのでしょう。さらに、我々はフォルテシティの実戦力を知っていますが、ガバメント社は“テスト中のファントム戦力”を正規軍とみなしておらず、実数を掴めていないはずです」


 西郷が言葉を引き取る。


「もっとも、モルガンならフェイクを流して、実はプレスト狙い──という目もゼロではありません。だから我々は、プレスト防衛軍の“内側の裏切り”とドラグーンの奇襲、その両方に備えるべきです」


「敵はむしろ内にあり、か」


 高野は低くつぶやいた。

 その一言に、プレストシティが抱える最大の危機が集約されているようだった。

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