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ブルーライトニング  作者: toy


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36/121

ブルーライトニング 第36章

 暗殺ロボットがリヨン大統領に迫る。マーサは暗殺ロボットと対峙する。

 第7艦隊の空母ジュノーは、プレストシティ沖で戦闘訓練の最中だった。

「村山さん、艦隊の指揮を頼みます」

 年長の村山に、西郷が短く告げる。

「わかりました。艦隊指揮、引き継ぎます」

 村山は素直に頷きつつ、控えめにたずねた。

「大統領のほうが気になりますか」

「まあな。『亡霊作戦』の一環だし、大統領暗殺なんて成功されたら打撃だ」


 亡霊作戦と呼ばれるプレスト海軍の対テロ総合作戦。暁作戦を契機に、西郷はセレクターズの戦力と、その背後の資金網を断つべく各種の作戦を展開してきた。プレストシティに潜むテロ支援者の摘発も、その一環である。村山は小さくため息をつく。

「もっと楽に勝つ方法は、ないものですか」

「ないこともないが、今日は警察警備部の反乱分子を叩いておきたい」

「なるほど。ではそちらを最優先で。エレクトラも専従で使って構いません」

「助かる。エレクトラ、大統領の警備状況を映してくれ」


 西郷は情報分析アンドロイドに指示を飛ばす。

「はい。現在、大統領は講演会場に到着。場内はすでにライトニング・ファントムが警戒中です」

「イレギュラーは識別できたか」

「ブルーライトニング(マルスのこと)が警備ロボットに偽装したイレギュラー二体を識別しています」

「識別理由は」

「動作パターンが純正機と一致しません」

「確度は高いな。二体の位置を会場図に重ねてくれ」

「了解。優先監視として“ボール”4機が貼り付けられています」

「大統領に失礼だと、貴賓席を空にしているから、狙撃はそこだろう。予備情報としてブルーライトニングに伝えてくれ」

「伝えます」


 講演会場では、リヨン大統領が主催議員らと挨拶を交わしていた。代表の小泉議員が丁重に言葉を尽くす。リヨンは愛想よく応じつつも、内心では彼を嫌っていた。口先だけの改革で人気を得て市長に登りつめ、テロを招いて失脚した男。それでも一定の支持は残る。会場に実行犯が潜む以上、今回は爆弾ではなく狙撃だと、ソレイユから情報を得ていた。ゆえに、リヨンは小泉を首魁と疑っていた。


 開会の挨拶が終わり、リヨンは席に着く。狙われている恐怖はある。だが、ソレイユとマーサは信頼できた。目立たぬ配置ながら、相当数のロボットが警備に就いていることにも気づいている。なかでも“ボール”と呼ばれる浮遊球体の監視機は至るところにいた。ここ数日で、現場の指揮がソレイユではなくマーサが担っていることを、リヨンは実感していた。メタロイド群もマーサの管制に従い、ソレイユさえマーサの全体指揮のもとで動いている。


 講演が中盤に差し掛かり、会場が和やかな空気に傾いた。その瞬間だった。壇上の前方に、マーサが“出現”する。ステージ脇から超高速で滑り込み、視覚上、瞬間移動に見えたのだ。

「閣下、伏せて!」

 鋭い声に、リヨンは反射で演壇の陰へ身を沈める。レーザーの閃光。観客の悲鳴。


 貴賓席のイレギュラーは左腕に組み込まれたレーザーで狙撃を開始した。マーサは微細な前振れから射線を先読みし、ライトサーベルで受けては相殺する。だが完全には削ぎ切れず、流れ弾がマーサの左足をえぐった。それでもマーサは連射を捌き切る。舞台袖から、ライトニング・ファントム所属の人型ロボットJ-7型六体が雪崩れ込み、大統領を囲む。人間の目には同時に見えるほどの僅差の連携。ソレイユも壇上に現れ、警護が十分に整ったのを見て、マーサは跳躍し、貴賓席へ突入した。


 狙撃ロボットは頭部に搭載されたレーザーで迎撃する。しかし、マーサには通じない。ライトサーベルで光束を断ち切り、そのまま頭部を串刺しにして二つ裂きにする。もう一体も腰部を一刀で断たれ、無力化。全てが一瞬の出来事だった。


 ソレイユはJ-7に続いて壇上に上がると、ライトサーベルを起動して構え、数発のレーザーを受け止めた。だが攻勢はすぐ止む。貴賓席の脅威は、すでにマーサが沈黙させていたからだ。ソレイユは役目を切り替える。

「皆さん、テロリストは制圧しました。落ち着いてください」

 澄んだ声が響き、場内のパニックが引いていく。人々の視線が壇上に集まる。ソレイユは手にしたライトサーベルの作動を止めた。光刃が消えた瞬間、混乱収束の合図が場内に共有される。

「大統領はご無事です。どうかご安心を」

 再び澄んだ声。ロボットに護られたリヨンが壇上から退場するのを見届け、聴衆のあいだから拍手が湧いた。


 その頃、貴賓席のマーサにソレイユから通信が入る。

「手柄、横取りしちゃったみたいでごめん」

「いいよ。みんなの勝利だし。ただ、派手に壊し過ぎたかな。証拠物件として残るかな」

「優先度は低いわ。以後は警察テロ対策部に任せましょう。それより、足は」

「表皮をえぐられただけだよ」

「後で応急処置くらいは受けなさい」

「はい」


(なぜだ!)小泉は唇を噛む。連続発射のレーザーは、リヨンを蜂の巣にするはずだった。だが結果は逆。大統領は無傷で、メタロイドに囲まれ確かな足取りで舞台裏に消えた。いまいましいソレイユ。そしてマーサとかいうアンドロイド。小泉はハンディ端末を取り出し、子飼いの活動家やメディアに矢継ぎ早に指示を飛ばす。


 移動工作車が到着し、マーサの損傷した皮膚を短時間で修復した。マーサはすぐ護衛任務に復帰した。


 講演は中断されたが、錯綜する情報で混乱する世論を鎮めるため、リヨンは臨時の記者会見を開く。何より、護衛ロボットが暴れたという的外れな一部報道への迅速な反論が必要だった。一部メディアは「ダグラス社製の危険なアンドロイド二体と護衛ロボットが暴走し、大統領を危険にさらした」と報じた。リヨンは冒頭で否定する。


「私を護ったロボットが暴れた、という報道は事実無根です。私を守ったのはプレスト海軍のロボットで、狙撃したのは警備部のロボットに偽装して会場に潜り込んだ暗殺機でした。私の護衛を担ったアンドロイド、ソレイユとマーサは、狙撃から私を守っただけです。暗殺機の残骸はテロ対策部が解析中で、詳細は後日明らかになるでしょう」


 記者の一人が食い下がる。

「ソレイユはシティから追放され、解体処分が求められている危険なアンドロイドです。新たに同等の能力を持つアンドロイドも確認されました。両者の排除を」

 リヨンは論理で切り返す。

「根本から誤りです。ソレイユもマーサも危険ではありません。ここ数日、私は家族とともに二人と過ごしました。ふつうの子どもと変わらない。娘はマーサとゲームを楽しみ、その間、二人はロボット群を統率して私たちを守っていました。今日もそうです。プレストの市民は、ソレイユをはじめとするファントムのロボットに守られていることを認識すべきです。彼女らを殊更危険視して煽る行為は、テロリストを利するだけだと私は考えます」


 最後の一言に一部の記者は声を荒らげたが、周囲が鎮めた。

 同席の海軍広報は、マーサが海軍の最新鋭アンドロイドであることを公表する。

「マーサはロボットによるテロに対抗するために開発されました。能力の詳細は対策上非公開ですが、対テロ戦における決定的戦力となることが期待されています」


 その記者会見を、西郷と村山は司令官私室で紅茶を飲みながら眺めていた。

「ソレイユは絵になるな」

 報道は、壇上でライトサーベルを構えるソレイユの映像が中心だ。マーサの動きは速すぎて映像に残りにくい。

「旅客機撃墜未遂の時もそうでしたが、ソレイユは不思議と人を安心させますね」

「人間との付き合いの経験があるからだろう。学校通いも無駄じゃなかった。今日はパニックも起きなかった。危険だと喧伝されてきた存在が、皮肉にも“守護者”として認識される。メディアやピースメーカーのプロパガンダも、ここまで来ると効かないな。連中には致命的かもしれん。上手く行き過ぎて、むしろ怖いくらいだ」

「司令は最も効果が出る道を選び続けているだけです。必然の帰結でしょう」

「いや、我々は負け戦はできないが、常に“強手”ばかりでもない。今回はリヨン大統領の政治的演出が良い方向に働いた。政治家が決断し動けば、軍も動きやすい」


 村山は茶を置き、息を吐いた。

「政治的判断といえば、シティ政府は裁判前にソレイユの立ち入り制限を撤廃し、過ちを謝罪するようです」

「リヨン大統領が勧めたらしい。ありがたいが、牧原市長と高野長官の身辺は危うい。海軍は連中にとって目の上のたんこぶだ。今日のようにメンツを潰された直後ならなおさらだ。長官の警護体制を増強する必要がある」


 勝利の余韻に浸ることなく、次の一手に目を向ける西郷に、村山は驚きを覚える。

「もう次の作戦を?」

「海軍情報局と『オルソン・レポート』は伊達じゃない。悪事は尽きないが、いずれ根こそぎ排除する」

 西郷の目が笑みを消した瞬間、村山は背筋に寒気を覚えた。

「暗殺を?」

「そんな野暮はしない。仲間同士で殺し合いをさせる。それがいちばん効率がいい」

(いや、それがいちばん怖いんですが)と、村山は心の中でだけ呟いた。

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