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ブルーライトニング  作者: toy


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35/121

ブルーライトニング 第35章

 リヨン大統領の要請で、玲子は軍人のなりをしてリヨン大統領と面会する。自分を護衛している高性能アンドロイドのマスターが16歳の少女と知り、大統領夫妻は驚きを隠せなかった。

 眠気はあるのに、眠りのふちで足踏みしている。玲子は仰向けになったまま天井を見ていた。ベッド脇の椅子にはロビーが座り、無表情の顔でこちらを見守っている。


「眠れませんか」とロビーが聞くと、

「眠いのよ。ただ、ベッドが広すぎて落ち着かないだけ」と玲子は答えた。

 ロビーは表情を変えない。ただ、ふっと笑みを浮かべたように言った。

「マルスと一緒のほうが、かえって狭くはないですか?」

 玲子はぼんやりとロビーを見上げた。表情はないのに視線がやさしい。玲子が手を伸ばすと、ロビーはそっと握り返してくれる。ひんやりとしているが、どこか温かい。

「狭くないわ。マルスは体が小さいもの」

「そうですか」


 しばし沈黙。ロビーは言葉を挟まず、次の一言を待つ。

「由美子ってね、よく理由をつけて私の布団に潜り込んできたの。だから慣れてるの」

「そうでしたか」

「マルス、今ごろどうしてるかな」

「大統領の護衛任務で起きていますよ。警護ロボットの一括管制を担当してますから」

 玲子はふっとため息をつくと、言った。

「明日、エネルギー補給のためにホテルへ来てほしいって、サムに頼まれたわ。ロビー、何か聞いてる?」

「大統領が、マルスのマスターと非公式に会談を希望されたようです。補給は口実でしょう」

「どうして私と?」

「理由は聞いていません。先方が会いたいと望まれているのなら、お会いになればよろしいでしょう」

「そっけないわね、ロビーは」

 すねたように玲子がいい、

「私、眠いから寝るね」と、素っ気なく目を閉じる。

「おやすみなさい、お嬢様」

 ロビーはその夜、椅子に座ったまま、眠る彼女を見守り続けた。


 翌夕。兵員輸送車の車内で、玲子は用意された海軍の制服に袖を通した。ゼム級の重メタロイドを運ぶためか、内部は広々としているので、着替えは楽だった。

「よう、似合ってるじゃないか」

 サムが、降車してきた玲子をからかう。玲子はちょっとふくれっ面で、

「やめてよ、恥ずかしい。これ、少尉章でしょ。やり過ぎよ」

 ふふっとサムは笑いながら、

「今は俺の部下だ。文句を言うな、少尉」

 玲子は恨めしそうに、

「はい、大佐」と、答えた。サムは玲子を手招く。

「よし、こっちだ」


 大統領スイートの前に着くと、ドア脇のロボットが内線で取り次ぎ、ほどなくソレイユが姿を見せた。

「頑張れよ、敷島少尉」

 サムが背を軽く叩く。ソレイユは玲子の腕をとり、部屋へ引き入れた。


 リビングでは、ニュースで見慣れた大統領夫妻がティーセットの前でくつろぎ、向こうでは女の子姿のマルス、今は「マーサ」が、11歳のロザリーとカードをしている。ロザリーは年下に見えるマーサが相手だと嬉しいらしく、はしゃいでいた。


「失礼します。ソレイユとマーサのエネルギー補給に参りました」

 大統領リヨンは玲子を一瞥し、少しだけ目を細めた。

「ああ、頼みます」

「では、私から」

 ソレイユが立ち上がり、玲子の後に続く。


 別室で、ベッドに横たわるソレイユに補給コネクタを接続する。方式はマルスと同じだ。「さっきの敬礼、決まってたわよ」

「緊張し過ぎて覚えてない」

 スイッチを入れると、計器の表示がなめらかに伸びる。消費が少なかったのか、数分で満タンに近づいた。

「大統領が玲子と話したいって」

「聞いてる。でも私、政府の人間じゃないわよ」

「軍司令部との会談のあとで決まったらしいの。詳細は私もわからないわ。ただ、その場であなたの話題が出たのかも」

「何の話を?」

「マルスのことじゃない?」

 ソレイユが小さく笑う。

「とても気に入られたみたい」


 ソレイユの補給を終え、次はマルスの番だ。外見は完全に女の子だが、抱きつく仕草は変わらない。

「では、マーサをお借りします」

 マーサの様子に、リヨンは興味深そうに目を向けた。

「補給が終わったら、君と話したい」

「承知しました」

 玲子はマーサの手を引き、部屋を出る。マルスは玲子に体を寄せる。

「任務中でしょ」

「大丈夫。モニターは続けてるから」

 マルスはけろりとしている。

 別室での補給は滞りなく進んだ。玲子は横たわる頭を撫でる。

「任務は、順調?」

「うん。警備ロボットとのリンクも安定しているし、正念場は明日なの」

「そう」

 充填が終わり、二人でリビングへ戻ると、夫妻は立ち上がって玲子をソファへ招いた。

「マーサ、ゲームの続き」と言うロザリーに夫人はそっと言う。

「マーサはこの人のそばにいたいのよ。続きはあとで」

 ロザリーは一瞬むくれたが、すぐに引き下がった。

「君がマーサのマスターかね」

 リヨンが問う。

「はい」

「軍服を着ているが、軍人ではないですね。まだ、未成年なのですか」

 すっぴんの顔は隠せない。

「はい」

「そんなに緊張しないで」と夫人が笑みを向ける。

「お歳は?」

「16歳です」

 少し驚いたようにリヨンが目を細める。

「そうか。マーサのマスターは軍の担当者だと思っていた。マーサは君にずいぶん懐いているね」

 マーサは堂々と玲子に体をもたせかけている。

「お名前をうかがってもいいですか?」

「敷島玲子です」

「玲子さんは、マーサのお姉さんになるのね」

「はい。姉になります」

 夫人が目を細める。

「ご家族は?」

「テロで亡くなりました。今は伯父の家で。血のつながりはありませんが、おばが面倒を見てくれています」

 夫人ははっとして頭を下げた。

「立ち入ったことを聞いて、ごめんなさい」

「いえ」


 カップから立つ湯気が、緊張をほどくようにやわらかい。

「おいしいお茶ですね」

「気に入ってもらえて嬉しいわ」

「差し支えなければ、どうして君がマーサを預かることになったのか、経緯をきかせてくれないか」

「はい」


 玲子は、ソレイユに会いに行った際に偶然マルスと出会い、一般家庭でのテストとして預かることになったいきさつを、短く語った。


「ソレイユには良い友人がいるのだな」

 リヨンがソレイユを見る。

「玲子は私だけでなく、ファントムのロボットたちにとって特別な存在です」

「なるほど」


 夫妻は二人の暮らしぶりに感心し、リヨンは名残惜しげに笑った。

「本当は晩餐会をキャンセルしてでも話を続けたいが、致し方ない。当初は、君に会ってマーサの譲渡を頼むつもりだった。しかし撤回する。君たちを引き離すのは、あまりに酷だ」


 玲子がほっと息をつくのを見て、リヨンは両手を広げた。

「しばらくはマーサをお借りする。寂しい思いをさせるが、もう少しだけ辛抱してほしい」

「はい」


 玲子はマーサの前に膝をつき、目線を合わせる。

「大統領ご一家を、しっかり守りなさい」

「はい」


 マーサの返事は、さっきまでの甘え口調を脱ぎ捨て、凛としていた。玲子は一礼して部屋を辞す。外にはサムが待っている。

「お疲れ」

 彼はにやりと笑い、ねぎらった。


 玲子が去ると、ロザリーがマーサの手を取る。

「ゲームの続き!」

 マーサは素直にロザリーの相手を始める。夫人がぽつりと言った。

「しっかりした娘さんね」

「ああ」

 リヨンは短くうなずく。

「本気でマーサを引き取りたいと思っていたのね」

「本気だ。最近は周りがきな臭い。信頼できる護衛が要る。ただ、重装メタロイドと四六時中は窮屈だ。ダグラス社が人間型ロボットを提供すると言ってきたのだが、マーサは理想的だ」


 ソレイユが控えめに口を開く。

「その件で、プレスト海軍から正式な申し入れがあります」

「うん?」

「閣下のボディガードとして、海軍仕様の“マーサ型”アンドロイド一体を手配可能とのことです」


 夫妻は目を見合わせた。玲子の話で性能は理解している。驚きは早くも期待へ変わる。

「本当か」

「加えて、ボディガード運用に最適化したロボット部隊も派遣すると」

「それは心強い」


 リヨンは、その申し出を心から歓迎していた。

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