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ブルーライトニング  作者: toy


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33/121

ブルーライトニング 第33章

 玲子は川崎中将にオフィスに招かれる。そこで改めてマルスのことを頼まれるのだった。

 経営監査委員会の報告会のあと、玲子は川崎中将にオフィスへ招かれた。川崎はマルスの開発プロジェクトに深く関わっており、委員会の結論を好意的に受け止めていた。

「一時はどうなるかと思っていましたが、結果としては上出来です。玲子さんには感謝しかありません」

「私は、ありのままを話しただけです」

「いえ。ソレイユの件だけでなく、マルスにも尽くしてくれている。あらためてお礼を言わせてください。本当にありがとう」


 玲子は落ち着かなかった。そばにいる上原も黙ったままだ。玲子は自分の思いを川崎に告げた。

「お礼を言いたいのは、むしろ私の方です。マルスを預けてくださってありがとうございます。あの子、私にずいぶん懐いてくれて、うれしいんです」

「そう言ってもらえるのは心強い。マルス型アンドロイドの量産に道筋がつき、我々としては極めて重要なマイルストーンを越えました」

「マルスは、そこまで重要なんですか」

 玲子は尋ねた。何か大切なものを託されている気がして、不安なのだ。

「ええ。今後の作戦で要になり得る存在です」

「そんな重要なマルスを、私に預けてよかったんでしょうか」


 川崎は口元に笑みを浮かべた。

「何を言います。適任は玲子さん以外にいない。マルスはアルトシティで“あなたのために”戦った。いいですか、あなたのためです。マルスはすでにあなたを、かけがえのない存在として認識している。ソレイユも、ニーナも同じだ。ファントムのロボットたちは、あなたを重要視している。あなたがソレイユの親友であり続けたことが、彼らの信頼をつなぎとめているのです。あなた以上に、マルスのマスターとしてふさわしい人はいません」


 川崎は玲子の表情を見て、穏やかに続けた。

「少し、荷が重いですか」

「マルスのマスターでいるのは嫌ではありません。あの子はよく尽くしてくれるし、私のことを慕ってくれる。でも」

 言葉が途切れる。川崎は促さず、待った。

「私は、マルスのために何ができるのでしょう。ゼムは私にマスターになってほしいと言ったとき、“マルスを大切にしてほしい”と言いました。私にとってマルスは大切な弟です。それは当たり前のことで、特別なことではないと思うのです」


 わずかに上原が首を振ったのを、川崎は見逃さなかった。玲子は気づいていない。

「その“当たり前”が尊いのです」川崎は言った。

「あなたはソレイユの親友であり続けてきた。あなたにとっては特別ではないかもしれないが、誰にでもできることではない。マルスも同じです。“マルスのお姉さん”であり続ける、それだけで十分に価値がある」


 川崎は身を乗り出し、玲子に真剣な眼差しで続ける。

「お節介な老人の戯言と思ってくれて構いませんが、マルスを心の赴くままに可愛がってください。それがマルスにとって何よりの糧になる。あなたには特別に思えなくても、マルスにとっては“特別”なんです。今はそれだけでも覚えておいてください」

 玲子はどこか腑に落ちない顔をした。

「よく分かりません。でも、マルスのことは大切にします。約束します」

「今はそれで十分です。忘れないでください。それこそがマルスにとって価値のあることだと」


 川崎は姿勢を正し、話題を切り替えた。

「さて、せっかく可愛がっていただいているマルスを、しばらく軍がお借りします」

「おばから聞きました。大統領の護衛ですよね」

「そうです。本来は警察の任務ですが、向こうが急にこちらへ振ってきましてね。嫌がらせかもしれませんが、軍の戦力なら対処可能です。とはいえ、リヨン大統領に差し迫った危機がある可能性もある。現状、最高レベルのロボット部隊であるライトニング・ファントムを投入します」

「ライトニングを出すんですか」

「ええ。ライトニングの投入が必要と判断しています。いまやライトニングはマルスを中心に動く部隊です。マルスも当然、投入せねばならない」


 玲子は膝の上で手を組み、天井を仰いだ。

「正直、実感がわきません。マルスって、そんなにすごいロボットなんですね」

「すごいですよ。おそらくファントム最強でしょう。ただし、それはあなたの存在あってこそ。マルスはあなたをマスターにしたことで能力が底上げされている。その効果は無視できません」

「大統領が来るのは来週、ですよね」

「はい。明日からマルスには任務に専念してもらいます」

「分かりました。今夜は、いっぱい可愛がっておきます」

「お願いします。場合によっては、護衛任務中にもあなたの協力を仰ぐかもしれない。もちろん、学業に支障が出ないよう配慮します」

「それは構いませんが、どうして私が?」


 沈黙していた上原が、そこで口を開いた。

「マルスは玲子と会えない状態が続くと、少し不安定になる可能性があるの。サムがいれば大丈夫だとは思うけど、今回は妥協したくない」

「任務中のマルスに会える、ということですか?」

「そうなりますね」川崎が答える。

「それは、うれしいです」

「そう言っていただけると助かります。その際はよろしくお願いします」


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