↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブルーライトニング  作者: toy


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
27/121

ブルーライトニング 第27章

 玲子と会ったのは第7戦闘艦隊の司令官西郷中将だった。彼はマルスを玲子に託すと言う。

 ゼムが会議室の前で足を止めた。

「こちらです。第7艦隊司令・西郷中将がお待ちです」

「中将!?」

 ソレイユが会ってほしいと言っていた相手が、中将という高位の軍人だと知り、玲子は息をのむ。


「では、私はここで失礼します」

 ゼムは一礼して立ち去った。玲子は意を決し、ドアホンを押して入室許可を求める。

「入りなさい」

 柔らかな声に、玲子はひとまずほっとした。中へ入ると、軍服の男が立ち上がる。どこか頼りなげにも見える風采の男だ。

「第7戦闘艦隊司令の西郷です」

「初めまして。敷島玲子です」

「どうぞ、楽に。ざっくばらんに話したいのでね」


 笑顔のはずなのに、その顔を見た瞬間、玲子の背筋にぞわりと悪寒が走った。感情を押し隠し、椅子に腰を下ろす。西郷は正面を避け、机の角を挟んで斜め前に腰掛けた。


「今回はマルスのテストという厄介ごとを頼んでしまって、すまないね。マルスは軍用ではあるが、アンドロイドである以上、家庭での運用にも支障がないか確認せねばならない、という妙な理屈ができてしまってね」

「いえ、厄介だとは思っていません」

「そう言ってもらえると助かる。それで、もう一つ頼みがある。テストが終わってからも、君にマルスを預かってほしい」


 うれしい申し出のはずなのに、玲子は即答できなかった。この人は、人の心を覗き込むような目をしている。

「いいんですか。マルスは軍のロボットですよね」

「むろん、任務があれば君のそばを離れることもある。実は君のためというよりマルスのためだ。今日の試験で、マルスの能力が向上していることが分かった」

「どういうことですか?」

「理由は簡単だ。君の存在がマルスの性能を引き上げた。『ロボットのポテンシャル理論』というのを聞いたことは?」

「ありません」

「ソレイユの開発者・スミス博士の理論でね。ロボットが人間をマスターに認証すると、その能力が底上げされる現象を言う。つまり、マルスは君をマスターに定めたことで能力を引き上げたのだよ。軍としても好都合だし、君のことは信頼している。もちろん強制はしない」


 玲子には、どうしても確かめたいことがあった。

「あの、ひとつ伺ってもいいですか」

「どうぞ。差し支えない限り答えよう」

「なぜ、マルスを9歳くらいの子どもの姿にしたんです? 軍用の性能だけを求めるなら、メタロイドの方が適しているのでは」

 西郷は口元をほころばせた。

「現在、最高の機動性を持つメタロイドは、J−9という小柄な機体だ。マルスはそのJ−9を基礎フレームにしている。だから、あの体格になる。そして、なぜアンドロイドにしたか、だが」


 一拍置いてから、逆に問いを投げる。

「さっきゼムが君を案内したね。ゼムは何か言っていなかったか?」

 まるで事情を知っているような口ぶりだった。

「私をマスターにしたい、と。私、マスターになってよかったのでしょうか」

「いや、むしろ望ましい。ここ数年、ライトニング・ファントムのロボットは人間をマスターとして認証しなくなっていた。命令には従うが、マスター不在は何かと具合が悪い」


 聞きたかった話から少し逸れた気がして戸惑いながらも、玲子は黙って耳を傾ける。

「メタロイドは、しばしばアンドロイドを介して人間と接点を持つ。ブルー・ファントムやレッドファントムのロボットたちはソレイユを通じて、ある人物をマスターにしている。だからライトニングにもアンドロイドのリーダーを据えれば、人間をマスター認証するだろうと期待した。だが、ライトニングはあまりに高性能で、従来のアンドロイドをリーダーとして認めなかった。そこが問題だった」

 玲子は思わず、「はあ」と気のない相づちを返す。

「そこで、最も高性能なメタロイドをベースに、アンドロイドのマルスを開発した。狙いどおり、ライトニングのメタロイドはマルスをリーダーに迎え、結果としてマルスのマスター、つまり君をマスター認証した。これで回答になっているかな」

「はい。もう一つだけ」

「いいとも」

「マルス、少し甘えん坊なところがあって、私も甘えられるとつい甘やかしてしまうんです。厳しく接した方がいいでしょうか」

 西郷は即答した。

「甘えてくるなら甘えさせてやってほしい。君が可愛いと思うなら、そのとおり可愛がってやればいい。マルスは強大な力と引き換えに、人間に従属的に設計されている。そこはソレイユたちとは違う」

「本当に、私でいいんですね」

「マルスが選んだのは君だ。それに私はサム・ダグラスから君の人となりを聞いている。いま目の前の君を見ても、託せる人物だと確信している。問題はない」


 迷いのない口調に、玲子は腹を決めた。

「分かりました。責任を持って預かります。伯父とおばには私から説明した方がいいですか」

「敷島博士は私が説得する。上原博士は君が預かることに反対していない。心配はいらない」


 風采の上がらないはずの男が、底知れず怖く思えた。どこまで人の心を見透かすのだろう。

「私からは以上だ。ほかに質問は? そろそろソレイユのところへ戻りたいだろう」

「はい、伺いたいことはもう」

「では、マルスをここへ来させよう。君の友人には軍のロボットであることだけ伏せてくれればいい。“君の弟になった”と言えば済む」


 西郷はハンディを取り出し、通信をつなぐ。

「マルスか。お姉ちゃんが来ている。迎えにおいで。今日は一緒に帰るといい」

 少しの沈黙。

「ああ、構わない。それと、君のことはお姉ちゃんに頼んでおいた。ずっと一緒に暮らしなさい」

 通話を切ると、西郷は立ち上がった。

「マルスのこと、よろしく」

「はい」

 西郷と入れ替わるように、マルスが駆け込んできた。玲子にぴたりと抱きつく。

「お姉ちゃん、ずっとそばにいられるんだね?」

「もちろん」


 ダグラス・インダストリーのテストフィールドにしつらえたテニスコート。

 瑞穂はソレイユと激しい打ち合いをしていた。ソレイユが本気を出せば勝ち目はないが、ソレイユの手加減のおかげで好勝負になっている。

「あー、やられたー」

 返球に追いつけず、瑞穂が嘆息する。ソレイユは息一つ上がっていない。

「ここまで粘れれば大したものよ」


 そばでは守が、壁を見上げて目を輝かせていた。

「ソレイユ、この部屋の壁ってどういう仕組み?」

「ここはロボットの運動性能をテストする部屋なの。衝撃緩和材が張ってあるから、ぶつかってもダメージが出にくいのよ」

「へえ、すごい」

「守、感心するのはそこ!?」と瑞穂が憤慨する。

「だって、この壁ならお姉ちゃんがぶつかっても痛くないでしょ」

「相変わらず、かわいくない!」


 ドアが開き、玲子が顔をのぞかせた。

「今、休憩中?」

「あっ、来た! 話は終わったの?」

「ええ。ほら、おいで」

 ドアの陰から、手を引かれたマルスが現れる。

「玲子、その子が話してたアンドロイド?」

「そう。マルスっていうの。こちらは親友の河合瑞穂と、弟の守くん」

「マルスと言います。よろしくお願いします」

 促されて、マルスは丁寧に頭を下げた。

「私は河合瑞穂」

「ぼくは河合守。マルスって、かっこいい名前だね」

「ふーん、私は“かわいい”と思う。玲子が名付けたの?」

「違うわ。テスト用の名前。ねえ守くん、どうして“かっこいい”の?」

「マルスってローマ神話の戦いの神さまでしょ。第七艦隊の艦名は神さま由来が多いんだ。それで覚えた」

「物知りね」

「それに、知恵の神ミネルバと戦いの神マーズがテストロボット名に使われてるから、欠番になってるんだって」

(ずいぶん安直な名付けだな)と玲子は思ったが、顔には出さない。そもそも玲子に預けること自体がイレギュラーなのだ。


「玲子、さっきの話ってマルスのこと?」

「ええ。テスト後も一緒にいていいって」

「よかったじゃない。つまり、玲子に弟ができるんだ」

 瑞穂はしゃがみ、マルスの頭を撫でた。

「かわいいなあ。ねえ玲子、守と交換しない?」

 守がむっとしてつぶやく。

「ぼくはお姉ちゃんを交換したいな」

「何ですって?」と瑞穂が凄む。

 守は笑って、マルスに目配せする。

「ほら、マルス。君のお姉ちゃんの方がやさしいよ」

 マルスは玲子にぴたりと寄り添って、

「ぼくはお姉ちゃんがいい」

 瑞穂の頬がゆるむ。

「へえ、“お姉ちゃん”って呼んでるのか。ねえ、私のこともお姉ちゃんって」

「いや! お姉ちゃんはお姉ちゃんだけだよ」

 意外にも、きっぱり拒絶。

 玲子は笑って取りなす。

「じゃあ“瑞穂お姉ちゃん”は? それならいいでしょ」

「いいわ。それでどう?」

「うん、瑞穂お姉ちゃん」

 今度はマルスも素直にうなずいた。


「ところで、ソレイユとの勝負は?」

「また負けた」

「お姉ちゃんがソレイユに勝てるわけないじゃん」と守。

「分かってないね。ソレイユは相手のレベルに合わせてくれるの。私が負けたのは、私がその期待に届いてないってことよ」

 ソレイユは笑って肩をすくめる。

「そうね。もう少し粘ると思ってた」

 守はそれにも感心して、

「へえ、それもすごい」

 瑞穂がぎろりと睨む。

「今の“すごい”は、私じゃなくてソレイユに向いてない?」

「うん、そう」

「相変わらず、かわいくないやつ」

 丁々発止のやりとりを、玲子は微笑ましく眺めていた。――おとなしいマルスには、きっと真似できない。少しだけ、羨ましく思いながら。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。