ブルーライトニング 第22章 ジュノー対セレクターズ
第7艦隊と敵テロリストの潜水艦隊の戦いが始まる。殺到する魚雷をジュノーはデコイで躱し、必殺の攻撃をたたき込む!
武装テロリスト〈セレクターズ〉の潜水艦隊を叩くため、サム率いる飛行隊は空母ジュノーを発艦した。サム機を含む6機のドルフィンは、各機2本の魚雷を搭載している。
「ひとつ聞いてもいい?」
後席のノーマがサムに声をかける。
「かまわない。なんだ?」
「今回は旗艦の指示どおりに目標へ魚雷を撃つだけの任務です。どうしてサムが同行する必要が?」
サム機以外の5機は無人のドルフィンE型だ。この編隊で人間はサムだけである。
「いい質問だ。要は、俺がここにいる必要があるからだ」
ノーマは首を傾げる。
「よく、わかりません」
「わからなくていい。人間のつまらない都合だ」
サムはそれ以上は言わなかった。4隻の潜水艦に50人ずつ乗っているとして、200人を超える命が海に沈む。テロリストとはいえ、その引き金をノーマだけに引かせる気にはなれなかったのだ。
海中ではプレスト海軍ロボット部隊〈ファントム〉の精鋭〈ライトニング〉が散開し、敵を待ち受けている。主力は水中行動に適した「クラブマン」。エビのような胴に大きなはさみ状の腕が一対、補助の腕が二対。西郷が予測した侵攻コースに沿ってセンサー網を張り、潜水艦の反応を探っていた。やがて、移動する大型目標を捉える。
「潜水艦の航行音を探知。予測どおり接近中です」
エレクトラが第一報を伝える。
「正確な位置は?」と、西郷が問う。
「不明です。推進用フォースモーターを止め、浮沈を繰り返す無音潜航を実施していて、誤差が大きいです」
戦術ディスプレイに広い予想海域が描かれる。複数のクラブマンのデータを統合した結果だ。
「ここまでは予定どおりだ。相手はそろそろ攻撃ポイントに入る。いったん撃たせれば位置が割れる。テックスはこういうとき魚雷を好むんだ。エレクトラ、護衛艦の対雷撃防御、用意」
「了解。護衛艦2隻、対雷撃防御システム・スタンバイ」
「対潜ミサイル2本。起爆はプログラムで」
「アポロンのランチャーから発射待機」
ジュノーを護る無人護衛艦はアポロンとダイアナ。どちらも独立した人工頭脳をもつロボット艦だ。
「ライトニングへ暗号指示。敵位置特定後は即時待避、会合点へ」
「伝達します」
「見え透いた罠に気づかないんですかね」
村山が微かな同情を滲ませる。
「ホワイト中将もテックスも、士官学校のころから思い込みが激しかった。状況が自分の描いた通りだと信じきる。そこが付け目だ。モルガン相手なら通じないが」
「そういえば、士官学校では戦術シミュレーションがありましたな。その2人との対戦の結果は?」
「ホワイトとテックスには、いつも負けていた」
「はっ?」
「手の内が読みやすくてな。実に負けやすかった。副司令のエドワーズの方がよほど手強い」
「勝つ気は無かったんですか?」
「別に。敵になるかもしれない相手に本気は出さん。ナルシストはテロリストになりやすいのでね。将来の敵に手の内は見せないほうがいい」
村山の背筋に冷たいものが走った。
19時15分。エレクトラが叫ぶ。
「魚雷12、接近! 対雷撃防御、実行」
アポロンとダイアナが扇状にデコイを散布。
「艦長、最大速力へ」
「了解。推進器出力最大、急速発進!」
全長270メートルの空母ジュノーが加速、護衛艦2隻が追随する。遠雷のような爆発。
「第一波、全て迎撃。本艦影響なし。第二波、探知」
「敵位置は?」
「航跡解析より大まかな座標を特定。ブリッジと攻撃部隊へ送信」
「艦長、回避運動は任せる!」
「右へ急速回頭!」
巨艦とは思えぬ切れ味でジュノーが旋回。護衛艦が再びデコイを放ち、第二波も撃破した。
「第二波も全て迎撃。本艦影響なし」
「対潜ミサイルに目標海域を入力。当てなくともよい、潜伏予想海域で自爆させろ」
「設定完了、発射」
アポロンの垂直発射機から2発が飛翔、目標上空から海中へ突入。轟く衝撃波が息を潜める艦体を揺さぶった。
「推進機関の反応、4。回避行動をとっています。位置を確定しました。データを攻撃部隊へ」
不用意に動いた敵艦を、ライトニングが正確に指し示す。西郷は暗号回線で命じた。
「サム、とどめを刺せ」
「敵データ、魚雷へ入力完了」と、ノーマが報告。
「上出来。これで最後だ、テックス」
サムは魚雷発射のトリガーを引く。6機のドルフィンが魚雷を次々と投下。12本の魚雷が海底の影を追う。
「4隻の圧壊音を確認。ほかの動きはありません」とエレクトラが報告する。
「全滅か」と村山。
「捕虜情報でも、潜水空母2隻、攻撃型2隻。勘定は合う。ライトニングを速やかに撤収させろ。村山さん、ここは任せる。艦長、操艦ブリッジへ行こう」
「了解。で、何しにブリッジに?」
「そこで撤退指揮を執る。ホワイト中将から通信が来たら、私は寝ている、とでも言っておいてくれ。あいつを少しあおって時間を稼いでほしい。ライトニングの待避が先だ」
「またですか」
「何度でもやる。そろそろ来るぞ」
「第2戦闘艦隊から通信!」オペレーターが声を上げる。村山は手で西郷を追い出す仕草をする。
「司令、早く司令室から出てください」
西郷は手を振って退室。通信に現れたホワイトは司令不在を罵倒の材料にしたが、村山は涼しく受け流す。やがてジュノーがわずかに進路を変える。村山は手振りで撤退の合図をだした。ホワイトがさらに苛立つ。
「この状況で撤退だと? 残存兵力の可能性は考えないのか!」
「4隻の撃沈を確認。捕虜の証言でも4隻。残存の可能性は薄いでしょう。あの深度での圧壊なら即死と考えますが?」
年少だが上位の中将を、村山は淡々と逆なでする。見ていた誰もが痛快に思った。そこへエレクトラが無表情のまま報告する。
「副長、海底への“着座音”を探知。座標は20050077」
村山がわずかに顔を上げるのと同時に、ホワイトの表情が変わった。
「無能どもは帰れ。我々が捕虜を確保する」
通信は一方的に切れた。村山は一抹の不安を抱き、エレクトラに問う。
「いまの報告、本当か?」
「いいえ、虚偽です。ライトニングの退避完了を司令に報告したところ、あのように副長へ伝えるよう指示がありました」
村山の肩から緊張が落ちる。
「ありがとう、エレクトラ」
海底で敵を追い続けたライトニングは、すでに痕跡を断って戦場を離れた。第2艦隊が彼らを掴むことはない。村山は、もし西郷が敵であったならと一瞬だけ想像し、ぞっとして思考を打ち切った。
2026年8月13日加筆




