ブルーライトニング 第19章 プレスト沖海戦の始まり
サムは情報局のオルソン少将をつれ、ミネルバで第7艦隊空母のジュノーに向かう。プレストシティ沖で進むテロリストの活動を阻止すべく、空母ジュノーが動き出す。
サムはスコット司令の命で、オルソン少将をミネルバに乗せて基地を離陸する。プレストシティ沖に停泊中の空母ジュノーに向かうためである。護衛にはドルフィンが2機。ソレイユとマルスが操縦する1機と、ノーマが操縦する1機だ。
コックピットで1人、サムはミネルバの操縦桿を握っている。
「オルソン少将はどうしてる?」
サムはロボット機ミネルバに話かける。
「客室の端末で複雑なシミュレーションを実行中です。各シティの投資の流れを解析しているようですが、私には理解できません」
「そうか」
ややあって、ミネルバがサムに報告する。
「サム、客室のオルソン少将がお呼びです。操縦は私が引き継ぎますので、行ってください」
「わかった」
サムは席を立ち、客室へ向かった。
「何かご用ですか」とサムがオルソンに言う。
「ああ、サム。確証はないけど、プレストシティ近傍で航空機を狙ったテロが起きるかもしれない」
「本当ですか? いつ?」
「まだ解析が終わっていないから詳細はわからない。ただ、ここ数時間で金融市場が動き出したの。用意周到な作戦というより突発性が高いわ。アルトシティへの攻撃は1週間前よね。こんなところにセレクターズが潜伏しているのかしら」
暁作戦とマルスの件で頭がいっぱいだったサムは、そこで気づく。
「西郷中将が空母ジュノーと無人護衛艦2隻を残しているのは、セレクターズの潜伏を想定しているからかもしれません。ならば、西郷中将はすでに備えているはずです」
「最初から展開を読んでいたのかしら。連邦軍司令部はラルゴシティ沖での演習に参加せよと命じていたのに」
「あの人にはそういう勘があります。概要だけでも暗号で送信しては?」
サムは声を張り上げる。
「ミネルバ、聞こえるか?」
「はい、サム」
「俺たちをジュノーに降ろしたら、すぐ哨戒に出る準備を。西郷中将は海上哨戒に総力を振るはずだ。お前の機能が活きる」
「わかりました。早速お役に立てるのが嬉しいです」
ミネルバはプレスト海軍へのリースが内定しており、正式契約前だが任務についている。ジュノーに着艦すると、サムとオルソンを降ろし、エネルギー補給を済ませ、無人のまま離艦した。哨戒機は1機でも多い方がいい。それが西郷の判断だ。マルスとソレイユ機、ノーマ機のドルフィン2機も、発艦待機に入る。
空母ジュノーは第7艦隊の新鋭空母である。プレストシティが運用する第7艦隊は、武装テロに対抗するため編成された連邦の艦隊の一つであり、シティが運用するパトロール艦隊とは比べものにならない戦力を持つ。もっとも、今この海域にいるのは空母1隻と無人護衛艦2隻だけだ。
覇気の薄い声で、西郷司令は作戦司令室の椅子に座る少女に問いかけた。
「エレクトラ、哨戒機の状況は」
エレクトラはニーナを原型とする情報分析型アンドロイドで、赤毛の長い髪を持つ少女の姿はニーナに酷似している。エレクトラの返答は素っ気ない。
「異常ありません」
左腕の端子を肘掛けのケーブルに直結し、ジュノーのメインコンピュータとデータをやり取りする彼女は、艦のインターフェースとして機能していた。
村山副長が、年若い上官へ具申する。
「やはり民間機への直接攻撃では? 機体に爆弾を仕掛けたなら、市場の反応はもっと早いはずです」
テロ活動とガバメント社系列の投資ファンドの動きが同調するのは、プレスト海軍では常識だ。端で解析結果を睨んでいたオルソンも頷く。
「ガバメント社の資金移動は急激すぎます。突発的な作戦と見るのが妥当でしょう」
だが西郷は唸った。
「そうなんだが、敵がモルガンなら、そんな行き当たりばったりなことはしないはずだ」
モルガンは連邦の名将だったが、いまやテロの実戦指揮官。西郷が最も警戒する男である。
航空・海上の主要航路にはすでに哨戒機を展開している。容易には手出しできないはず、しかしモルガンなら、市場の動きでこちらの注意をずらし、無防備に近い「漂流」状態の空母ジュノーそのものを狙うだろう。
西郷はふと、第7艦隊が演習参加で手薄になった穴を埋めるため、プレストシティ沖に展開中の第2艦隊へ注意を向ける。ラルゴシティの第1・第2艦隊にも彼は疑いを向けていた。その第2艦隊の動きに、違和感を抱いたのだ。
そのとき、エレクトラが報告した。
「司令、ミネルバが広域ジャミングを探知。レーダー能力が減衰中」
西郷は矢継ぎ早に指示を出した。
「エレクトラ、付近の民間機の航路予定を照合しろ。航路を逸脱した便はあるか確認するんだ」
「了解。航空管制センターとデータリンクを結びます」
「ミネルバは空域730を監視しろ。迷走機の有無を確認するんだ。マルス機、ノーマ機は空域730へむけ緊急スクランブル! これはマルスの訓練ではない、急げ!」
データ通信で指示が走り、飛行甲板のロボットたちが2機のドルフィンを発艦させる。
「司令、なぜ空域730を?」と村山が聞いた。
「第2艦隊が意図的に警戒範囲に穴を作っている。なにかあるなら、そこだ!」
村山は思わず舌を巻いた。どこからその発想がでるのだ。
「司令、照合完了。予定航路を外れた機体を確認。フォルテシティ発プレストシティ行きGA104便乗員乗客102名、現在位置不明。管制との通信も絶たれています」とエレクトラが報告した。間髪を入れずエレクトラが報告する。
「追加情報です。ミネルバ光学センサーがGA104便らしき機影を捕捉。空域730です」
西郷が低く呟く。
「もっと早く第2艦隊の意図に気づくべきだった」
「旅客機が航路逸脱? そんなはずが」と村山が口にする。精密な航法装置を搭載する旅客機では起こりにくい。
「こちらの警戒の裏をかかれた。理由は後回しだ」
村山の耳に、「ちっ」と舌打ちにも似た西郷の悔しさが確かに届いた。




