第六話 ~S級の本気~
「はああ……!」
私は紫魔光刀を昆虫人の首めがけて振り下ろす。昆虫人はそれを刀で防ぐも、かなり苦しそうな顔をしていた。
「くっ、貴様、何をした?」
「ちょいとばかり本気を出してるだけだ……!」
私は空いた左腕に三つの銀の星を集わせる。集まった銀の星が紫雷を纏い始め互いに反発し始める――
「『反魔衝撃』!」
左腕で昆虫人の腹を殴るとやつの鎧に亀裂が走り、その場にとどまれず吹き飛んでいった。
「おわりだ」
私がそう言うと、銀色の球が集まりだし一つの点にビームを照射し始める。
やがて、その照射でできた光球はその魔力の圧力に耐えきれず、小さく圧縮され、漆黒に染まり始める。
「――極黒光魔閃」
圧力に耐えられなくなった黒球から、極大の黒い光が放たれ、森の一部と昆虫人を完全に呑み込んだ。
あれをまともに喰らっては無事では済まないだろう。
『限定解除停止!』
プシューという音を立てて、魔導義鎧から吹き出ていた紫の魔力の奔流が収まる。
『エネルギー残量38%、何とか余裕を持たせられましたね』
「いや、余裕ではない。この後が控えているからな」
『……この後?』
ミラが心底不思議そうな声で言ってきた。
「……気づいていたか」
先ほどまでの地獄の底から響いてくるような覇気のある声ではなかったが、もう聞きたくない声が前方から聞こえてきた。
昆虫武士だ。
だが、明らかに鎧が砕かれ、満身創痍といった感じだ。
「お前は囮、というよりもただの監視役といったところだろ?」
「そうだ、小生はあやつが倒されないように監視する役目、貴様ともう戦えないのは残念だが、S級ほどの強者を留め置くという責務は果たした」
『あやつ?』
「おそらく侵食能力の主だ。こいつはその能力を全く使わなかったからな。本命は北にいるんだろ?」
「ご名答……だが、もう遅い。騎士団共は今頃食われておるだろう。そして、消耗した今のお前が、力をつけたあやつに敵う道理もない」
「フフ……フハハハ」
「貴様、何がおかしい?」
「昆虫武士君、君はとてつもない勘違いをしているな」
「なに?」
「北に化け物を置いているのは君だけだと?」
「フン!第三騎士団団長ジークのことか? やつはとるに足らん。所詮は家柄に恵まれただけの愚者と聞いておる」
それを聞いたとき、私はなぜか自分の頭に血が上るのを感じた。
「愚者という部分には賛成だが……とるに足らんという部分は訂正したほうがいい。やつは君が思っているほど可愛げがある女じゃないぞ」
そう言ってやつを睨む。
「フム、貴様ほどの強者がそこまで言うか……ならば見せてもらおうか。小生の名はベム、貴様を倒すものの名だ」
そう言ってやつは白いマントを翻し、地面を蹴って森の暗闇に消えた。
私も手負いの虎を追ってこれ以上エネルギーを消費したくなかったので、それ以上追うことはしない。
「ジークのことだ。万が一のことはないだろうが、一応様子だけは見に行ってやろう」
『素直じゃないですね、先生』
「うるさいぞ」
銀の星を起動して飛ぼうとするが……
「……ぐっ!」
全身から力が抜けていく。
肋骨の骨折に限定解除、今日は少し無理をしすぎたようだ。
私はズンッという音とともに地面に倒れた。
『……先生?ちょっと!大丈夫ですか!先生!?』
ミラの声がどんどん遠のき、私は意識を失った。
♢♢♢
時は数十分前。
北の森林にて、乗馬した騎士一行が進んでいた。
「ドラグ、魔力は探知できたか?」
「いえ……もしかしたら北方は外れだったのかもしれませんな」
「……いや、侵食の主はこの北方にいる」
「いつもの勘でございますかな?」
「そうだ、私の本能がこの北方に入ったときから、常に警戒しろと言っている」
そんな会話をしていると、左の茂みからよろめきながら騎士が出てくる。あれは、第四小隊を任せていたケイ・デッカードか。そう思い、私も騎士を率いて近づく。
そして近づいて気づく……ケイの右肩から先がなくなっていた。
「はぁ……はあ……団長!!」
「どうした、ケイ! 何があった? おい、衛生兵、手当を頼む!」
「第四小隊が全滅しました……」
「なっ……全滅だと?」
「敵は今、どこにおりますかな?」
ドラグがすぐに状況を確認しようとする。
ケイは衛生兵の治癒魔法を受けながら答えた。
「わからないです。途中までは俺を追ってきていたんですが……」
ドラグはケイの右肩から滴る血を一瞥すると、
「ジーク様、すぐに警戒態勢を……」
クルルル……
ドラグが言い終える前に何かの鳴き声が聞こえてくる。
「総員! 戦闘配置!」
私は本能的にすぐに指示を出す。
そして周囲を警戒していると、濁った二つの瞳と目が合った。
「シャー!!」
次の瞬間、巨大な牙をむき出しにしたなにかが、木々をなぎ倒しながら私に迫ってきた。
瞬時にゼファリスを引き抜き、その牙を受け止める。
激しい金属音が鳴り響き、すさまじい重量が両腕にかかった。
「くっ!」
なんてパワーだ……!受けきれない!
押し切られた私は落馬し、地面に叩きつけられた。息をつく間もなく、巨大な牙が再び襲いかかる。
「ジーク様!!」
連れてきた数十人の騎士が私の名を呼ぶ。
〈咲け、氷柱――氷姫蓮花〉
あたりの氷の花が咲いていき、私の目の前まで迫った、濁った眼と牙はその花に触れ、一瞬で凍り付いた。
「大丈夫ですかな、ジーク様」
馬から降りたドラグが駆け寄り、私の腕を持って立ち上がらせる。
「ありがとうドラグ、助かった」
「何分、相手が大きすぎましてな。それに、詠唱をほとんど破棄したので、頭部しか凍らせられませんでした。この氷も長く持ちますまい。早く体制を立て直しますぞ」
「うわぁぁっ!」
今度はなんだ?
「ぐあっ!」
「散開しろ!尻尾が来るぞ!」
部下たちの方を見ると、巨大な尻尾が彼らをなぎ払っていた。騎士が宙に浮き、陣形も崩される。もう部下たちはまともに戦えないだろう。
こいつ、やりたい放題暴れおって……!
「ジーク様、氷が解けます!下がって!」
「……集え雷!」
私はゼファリスを天に掲げる。
「ジーク様……下がれと言っておりましょう……」
ドラグがため息を吐く。
ゼファリスが纏っていた赤い雷が天を穿ち、弾ける。
やがて、暗雲が呼び寄せられ、
「天雷墜撃!!」
敵の頭の氷に亀裂が入り、砕けた瞬間、轟音とともに赤雷が命中した。
「キシャーーーー!!!」
敵は苦しみ、ついに我々の前にその全身を露わにした。
私の目に映ったのは、巨大な蛇だった。
蛇竜か……!?
だが、私が知っている姿よりもかなり禍々しいし、でかい。とぐろを巻いた状態で木々の三倍の大きさがある。その鱗は毒々しいが、艶やかな紫を帯び、目は理性を失ったかのように濁り切っている。口元から伸びた牙は、血を塗ったかのように赤みがかっていた。
私は悟った……こいつが今回の事件の元凶だと――
読んでいただきありがとうございます!
第七話は10/28(水)21:00更新予定です。




