第五話 ~異形の武人、現る~
第四話と同時公開しています。
キゥゥーン……
解毒装置『テレサ』をひっさげた私は、汚染された湿地に着陸する。そこにはジークもいた。
「早かったな」
「あぁ、解毒装置が完成した。早速ここの湿地一帯を浄化する」
私は銀の星の制御でゆっくりと『テレサ』をおろし、起動プロトコルを入力すると、ウィーーンという音を立てながら、起動し始めた。
【テレサ。起動。】
「侵食能力の詳細は分かったか?」
起動中にジークが話しかけてくる。
「どうやらこの能力は感染する。しかも感染して時間が経つごとに狂暴性と強さが増す」
「想像以上に危険だな、今、侵食の主を見つけようと、捜索隊を出している」
「一刻も早く見つけなければ、手が付けられんことになるやもしれん」
「捜索隊の人数を増やし、範囲を広めよう。私も出る」
「わかった、私もこの湿地を浄化し次第、捜索に加わる。」
「では私は北側を、お前は南側を頼む」
会話を終えると、ジークは騎士数人を引き連れ、去っていった。
私はそれを見送ると、起動したテレサの制御に入る。
数分経つと、みるみる湿地は浄化されていき、汚染は止まっていた。
「ふう、何とかなったか。あとは自動調節モードにして、私も大本を叩きに行くとしよう」
『先ほどから周囲にスキャンを行っているのですが、大きな侵食魔力の形跡はありませんね』
「おそらく、主の魔力は私たちが解析したものとは一線を画すのだろう。それでも普通の魔力探知に引っかからないのは少々不可解だが」
『なんらかの方法で魔力を隠匿しているか、それとも、自分で魔力の制御を行っているか……』
「どちらにせよいきなり主に接触するのは厳しいだろう、侵食魔力の痕跡をたどって地道に探すしかあるまい。ミラ、少しでも該当魔力の痕跡がある場所を当たっていくぞ」
そう言って私は銀の星を展開し、南方面に飛び立つ。
♢♢♢
私は侵食の痕跡があった南の湖地帯に着地し、捜索を進めていた。
この泉も侵食がある程度進んでいるが、おそらく感染したゴブリンなどがこちらに流れてきているだけだろう。着いて早々、何体かは倒したしな。
そうして湖を去ろうとすると、
「あまり、余計なことをしないでもらおう、S級冒険者」
背後からいきなり声を掛けられた。地獄の底まで響いてきそうな重たい声だ。
探知にヒットしなかった? 誰だ?
私は心を落ち着かせて、後ろを振り向くと、そこには全身が黒く、光沢が美しい甲冑で覆われた人間が立っていた。いや、人間じゃない……異形の頭だ。角のようなものが二本頭についていてノコギリのように返しがついている。さらに目は朱色だ。その姿を見て、私が連想したものはクワガタだった。
よく観察すると、指も人間より細い。背後には少しくたびれた白いマントをはためかせ、腰には剣を下げている。
あの細くて反りがついた刀身、日本刀か?
「ミラ、解析しろ」
私は小声でミラにそう告げ、時間稼ぎをすることにした。
「初めまして昆虫武士君、かっこいい刀だな」
「仲良くお話をするつもりはない」
「そうか、つれないやつだな。名前くらい教えろよ」
「……」
ダメか。なにものなんだこいつ。
『先生。目の前のこいつは昆虫人です。装備している鎧と刀、どちらもなんらかの魔術が施されているようですが、高度に秘匿されています』
「わかった、君はこのまま解析を続けてくれ」
『了解』
そして、私は一瞬目を離した昆虫人にもう一度目を向けようとすると、そこにもうその姿はなかった。
「おしゃべりは終わりか?」
その言葉と同時に抜き放たれた刀が私の背後から襲いかかっていた。
私はギリギリのところで避けて、距離をとる。
「しゃべってる途中に殺そうとするとは、なんて無礼な」
ヘラクレスの攻撃自動探知と強化視力でも追いつけないだと?
私は口では上から怒っているように見せながら、内心は焦っていた。
銀の星を起動し、昆虫人に向けて魔砲総射を放つ。
おびただしい数の魔力弾が撃ち放たれ、昆虫人に命中した……はずだった。
「終わりか?」
爆煙が晴れる。だが、そこに立つ昆虫人には傷一つついていなかった。
昆虫人はその場で刀を振り抜くと、斬撃に伴って衝撃波が発生し、一直線に私に迫る。
私はそれを連環魔壁でなんとか防ぎ、紫雷光線を放った。だが、やつは刀でそれを受けきってしまった。
「えらく頑丈だなその刀」
「ふむ。S級とやらはもっと小生を楽しませてくれると思っていたが、期待外れだ……」
「それはすまない。S級もただ働きじゃないんだ、楽しませてほしいなら金を払え……無理なら帰っても構わない」
『先生!こいつを逃がしたら大変なことになりますよ!』
「わかってる!冗談だよ。まったく……」
『そんな先生には残念なお知らせですが、今までの戦闘データから判断して、そいつは危険度A+相当のようです』
危険度A+だと?
魔物には一体一体に危険度というものが定められている。E~Sの危険度があり、危険度Sは魔物の頂点だ。A+はそれに近い存在、当然強い。
だが私はS級冒険者だ。少なくとも、危険度S級の脅威と渡り合える戦力として認められている。
「ミラ、行動パターン解析は?」
『すでに始めています。しかし、まだデータが足りません』
「そうか、ではデータ収集と行くぞ、昆虫武人君」
そう言って私は『紫魔光刀』を起動し、鎧の腕部分に紫の光刀が現れたと同時に昆虫人に切りかかる。昆虫人はそれを刀で受け、私と鍔迫り合いになり、互いの刃が火花を散らす。
「ぬるい……」
私は昆虫人との力の押し合いに負け、姿勢を崩した。そこに蹴りを入れられ、吹き飛ばされる。
そのまま木の幹に激突した。
「ぐあっ!」
『損傷率21%、あばら骨が折れてます!』
「くっ、文字通り骨が折れるな!」
私は昆虫人のところまで再び飛んでいき、今度は足に紫魔光刀を発生させ、急停止した。
その勢いのまま身体を反転させ、逆上がりの要領で下から切りかかる。
しかし、昆虫人はそれをかわして、私の足をつかみ、地面に叩きつける。
「同じことだ」
「くっ!」
折れた肋骨に激痛が走る。
私は銀の星の出力を全開にし、強引にその手から逃れて距離をとる。
「はぁ……はぁ……ミラ!データ収集はどうだ?」
『……まだ足りません。やつの使っている武術、特殊な流派に属するらしく、解析に時間がかかっています。先生、一度退却してください』
「さっきと言っていることが違うが?」
『死んでも倒せとは言ってません……』
「だが、こいつを野放しにすれば、どんな被害があるかわからん……」
私は元の世界で、自らの発明を人々の役に立てることを使命として生きてきた。その信念は、この世界へ来ても変わらない。魔物が存在し、危険な魔術があり、国同士の戦争さえ絶えない世界。だからこそ、私の発明が必要になる。
冒険者になったのも、それが発明によって人々を救うための最短の道だったからだ。
ここでこいつを野放しにすれば、力のない者から犠牲になる。
そうだ……私は腐ってもS級冒険者……舐めてもらっては困る……!
私は目の前の昆虫人をにらみつける。
「……限定解除だ」
『……正気ですか?エネルギー消費量が通常の四倍になります。もし、エネルギーが切れたら……』
「今ここで殺されるよりは数段マシだ。やれ」
『……わかりました。その代わり、帰りにシュークリーム買ってきてください。絶対ですよ……』
「お安い御用だ」
私は微笑みながら言う。
『回路切り替え、リミッター解除、エネルギーセーブ解除』
『「限定解除――」』
そうつぶやくと同時に、激しい紫の魔力の奔流が魔導義鎧を駆け巡る。
ウゥォォォォ……!!!
機械の軋む音がまるで咆哮のように鳴り響く。
「む。なんだ、それは?」
昆虫人の声から余裕が消えた。後退はせず、腰を落として、刀を両手で握りなおす。
私は紫の魔力を噴き上げる魔導義鎧を構え、拳の先に昆虫人を見据える。
「時間がない、三分で終わらせる」
第六話は明日10/27(火)21:00公開予定です。




