第一話 ~S級冒険者 ≪機神≫ヴァルカン~
「キュルグォー!」
「うわぁぁ!!」
俺はフエル村の村人、ロナン。今しがた小竜に襲われている。この小竜、無茶苦茶だ。
村の家は破壊しまくるわ、井戸も壊すわ、豚小屋を壊して、豚も殺すわ……あげくには、俺を殺そうとするわ……!
そろそろ走るのも限界が来た。周りの村人は助けてくれる気配はない。みんな悲鳴をあげながら逃げ回っている。
当然だ。こんなやつに誰が勝てるかってんだ。
「くそっ!はぁ……はぁ……食われて終わりかよー!」
そこで横から小石が飛んできた。
「キュルグォー!!」
「おじさんを……いじめるなー!」
あれは……隣の家のお嬢ちゃん……昔はよく遊んでやったっけ……
人生捨てたもんじゃないな、そう思った時
「キュルグォー!!」
小竜が方向転換し、少女めがけて鉤爪を振り下ろした。
俺は駆け出した。このまま好き勝手させてたまるかよ!そして、少女に覆いかぶさり、目を閉じる。
最後にはお嬢ちゃんかばって死ぬのか……悪くはねぇ
こんなことなら冒険者にでもなって、ちったぁ強くなっときゃよかったなぁ……
漆黒の鉤爪が俺の肩めがけて振り下ろされる。
……と同時に轟音とともに何かが空から飛来し……
ザンッ!
不思議と痛みはなかった。死ぬときはこんな感じなのか……。
恐る恐る目を開けると、小竜の腕が半ばから切り落されていた。
鉤爪がついた片割れは宙を舞っている。
「よう、小便ちびってないよな?」
目線を声が来た方へと向けると、白銀の鎧を身にまとった男がそこに立っており、右手からは紫の光刀が伸びていた。
……なんだこいつは?
「キュルル……キュルグォー!!」
直後、小竜は悲痛な叫び声をあげ、倒れるかに思えた。しかし、倒れるかに見える動作は途中で止まり、次に小竜がこちらに顔を向けたとき、その口には深紅の炎が燃え盛っていた。
『火吹』だ。
俺がそう思った時、男もそれに気づき、
「あぁ、まず……」
俺がそう言いかけた瞬間。燃え盛る炎は光の道筋となって、白銀の鎧を貫いた。否、貫いてはいなかった。俺も何故か熱くはなかった。
【回路接続。≪連環魔壁≫展開。】
凛々しい機械音声が鳴り響き、前方に魔法陣が展開されていた。円環同士が鎖のように接続され、一枚の巨大な紫色の壁を形作っている。
「まったく、生意気な小竜だことだ」
白銀の鎧を着た男が言い放つ。
小竜は『火吹』の効果が低いのを悟ったのか、『火吹』を吐くのをやめ、その深紅の翼を羽ばたかせ始めた。
「空中戦か、いいだろう」
男がいうと、鎧から銀の反射が美しい球体が8個飛び出て、周りを浮遊し始めた。
【『銀の星』展開。力場調整完了。】
小竜が飛び立つと同時に、男の周りに浮いていた球体が紫電をまとい始め、男が浮き始めた。
「プチフライトといこうか」
男はそう言うと、目にも止まらぬ速さで飛び出し、小竜を追いかけ始めた。
【力場安定。目標捕捉。】
小竜は腕を失い、飛行バランスが悪いのか、速度があまり出ていなかった。それもあってか、男はすぐに追いつくと、言い放った。
「おとなしく丸焼きになれ。『魔砲総射』」
言い終わると同時に銀の球体4個が紫に発光し始め、小竜に向けて数えきれないほどの魔力弾を撃ち始めた。
紫の弾幕が空を覆う。
すごい……なんだあれは……あの銀の玉は飛ぶためのものじゃなかったのか……? 今度はあの玉から魔力弾を撃ってやがる。
だが、小竜にはあまり当たっていないように見えた。
「ちっ……!狙いが合わんな。威力をあげるために飛行ユニットをいじったから収束率が狂ったか、もしくは照準装置の不具合か……」
男は何かぶつぶつ言っている。
「まったく、帰ったら再調整が必要だな。おい、ミラ、聞いていたな?予備パーツを準備……」
まだなにか言ってる!
おい、というか待てよ!まだ小竜を倒したわけじゃねえぞ!
あいつはどこに……
「……おい、ミラ!聞いているのか?」
男が何か言っている間、俺は必死に小竜を探す。
あっ!見つけ……ってやべえ!
「おい!鎧男!上だ!」
俺が言ったと同時に小竜が上空から鎧の男にダイブする。
「……ミラ!くそ!通信ユニットに組み込んだ魔石の不具合か?『魔導義鎧8号機・ヘラクレス』は不具合が多くて困……」
ガンッ!
ズゥゥーン……!!
衝撃音とともに白銀の鎧は地上に撃ち落された。
「おい!大丈夫かよ!」
俺はそう叫び、男の近くに駆け寄ろうとする。
鎧は見事に地面に埋まっていた。
【……損傷率10%。スラストユニット大破。打撲箇所複数】
「……心配無用だ。近づくな」
男はぶっきらぼうに言い放ち、体を起こす。
「だ…大丈夫なのか?」
油断してやられたのが恥ずかしかったのだろうか?
「私を怒らせたな」
男が立ち上がり、上空の小竜に言い放つ。
いや…… あんたが油断したせいだろうよ……
「飛ぶのはもうやめにしよう」
小竜はさっきのダイブ頭突きでかなり自分も消耗したらしく、攻撃はしてこない。
「おしおきだ」
男が言い放つと同時に銀の球体8個全てが紫に発光し始め、男の前の一点に光を集中し始めた。一瞬七色に光ったそれは、密度を増し、周囲の光を吞み込んで漆黒の球体となった。
小竜も本能的に危機を察知したのか、急いで『吹火』を吐く態勢に入る。
一方、漆黒の光はやがて、その膨大なエネルギーに耐えられないかのように震えはじめ――
「――『黒光魔閃』」
それは一瞬だった。
漆黒の球体が放った光が小竜の『吹火』ごと吞み込み、焼き尽くしたのだ。
強すぎる……!幼体とはいえ竜種をこんなにあっさりと……
このでたらめな強さ、この世の頂ともいわれる至高の7人、S級冒険者でもなけりゃありえねえ……
いや 待てよ 思い出せ。
ちょうど二年前くらいにS級に上がった特殊な鎧を使う冒険者がいたはず……まさか――!
俺が思考を巡らせていると、白銀の鎧を身にまとった男が近くに寄ってきた。
「無事か?村人君」
「あ……あぁ」
「よく女の子を守ったな。上出来だ」
そうか、この男のことばかり考えていて忘れていた。俺は隣を見ると、女の子が泣くのを我慢してこっちを見ていた。
「嬢ちゃん、助けてくれてありがとな」
俺はそう言って嬢ちゃんの頭を撫でてやる。
「それと、これはただの鎧ではない。『魔導義鎧8号機・ヘラクレス』だ。魔物との戦闘を想定し作った、私の魔導工学至高の一品で……」
「あー……興奮してるとこ悪いが、難しい話はよくわかんねえ」
男の口が止まった。
「それより、あんたの名前を教えてくれねえか。お礼がしてえ」
「礼などいらんが…… まあいい。私はエドワード・サイト」
エドワード・サイト?なんだそれは、そんな冒険者名聞いたことがない。あてが外れたか?
俺がそんなことを考えていると、足音が聞こえてきた。振り返ってみると、白い鎧を着て我が国、ミカドレアの国紋が縫われたマントを付けた厳かな集団がそこにいた。王立騎士団だ。
「ちっ……!先を越されたか」
先頭のリーダーらしき人物がそう吐き捨てる。まだ20歳ほどだろうか。整った顔立ちは中性的で、一見では男女の区別がつかない。碧眼に肩まで伸びた金髪を一つに束ねている。
「遅かったな、ジーク。騎士様たちがごゆるりとこちらに向かっている間に、問題は私が退けた」
ジーク……!王立騎士団の第三団団長≪獅帝≫ジーク・ライオネルか……!
「……貴様!ぐぬぬ」
「次はペガサスにでもまたがって急いでくるんだな」
「ペガサスは伝説の生き物……そう簡単にまたがれるものではない……!」
「知ってる。皮肉ってやつだ」
「殺す!」
そう言ってジーク様は腰に下げた立派な剣を抜こうとする。
「団長!お鎮まりください。いいではないですか。結果としてフエル村は救われた」
ジーク様の隣に立っていた、好々爺がなだめる。
「ヴァルカン殿、団長が失礼いたした。しかし、我が団の団長をあまりからかわないでもらいたいものだ。次はないですぞ」
!?
ヴァルカン…… やっぱり!
「ドラグ殿も大変だ。こんなじゃじゃ馬の下で副団長として働かされるとは」
ヴァルカンと呼ばれた男がそう言ったとき、ジークが美しい碧眼で男をにらみつけていた。
ものすごいプレッシャーが場に波及する。
なんだこれ、怖い。逃げたい。だが、やはりそうだった。おれはこの男を知っている。
ヴァルカン。
その名を知らぬものはこの国にいない。
わずかな期間で魔導工学を十年先へ進め、魔導杖をはじめとする数々の発明を世に送り出した魔工技師。
雷轟竜ゼファーを討ち、三人のS級冒険者から推薦を受け、世界に七人しか存在しないS級冒険者、その一人になった男。
≪機神≫ヴァルカン
エドワード・サイト――!
第一話、読んでいただきありがとうございます!(本作品はカクヨムにも掲載しています)
これからも精一杯皆さまに楽しんでもらえるように、投稿しようと思いますので、よろしくお願いします!
また、少しでも続きが気になった方
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さて、エドワードはなんと、異世界でS級冒険者になっているようです。
ステラの事件以降、彼に一体何があったのでしょう?
第二話は10/25(土)21:00更新予定です。




