第十話 ~機神と獅帝、蛇を穿つ・後編~
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第九話は正午に投稿しています。ご確認ください。
「ミラ、ジークが奴の魔力を引き出す。即座に解析しろ。私は送られてきたデータをもとに、テレサのプログラムを書き換える」
『久しぶりの無茶振りですね。腕が鳴ります……!』
≪ぬぅぅっ! 小癪な手を使いおって! この程度の麻痺など!≫
ナーガが全身に力を込め、その巨体を持ち上げる。麻痺が、完全に解けた。
「さっきはよくもやってくれたな! 集え、雷!」
ジークがゼファリスを空へ掲げる。
暗雲が渦巻き、その中心から赤雷がほとばしった。
「天雷墜撃!」
≪何度やっても同じことよ! 腐障毒吹!≫
ナーガの口から放たれた禍々しい毒液が、空から落ちる赤雷を迎え撃った。赤雷と毒液が激突し、森全体を揺るがす衝撃が走る。最初は互角に見えた。
しかし、次第に赤雷が毒液を押し返し始める。
≪なっ……馬鹿な!?≫
「うぉぉぉぉぉっ!」
毒液の勢いが弱まり、赤雷がその奔流を貫いた。
赤い稲妻がナーガの顔面へ直撃する。
≪ぬわぁぁぁっ! 貴様ぁぁぁっ!≫
怒り狂ったナーガは、槍のように尖った尾をジークへ突き出した。
「雷装」
ジークの全身を赤雷が覆う。
彼女は迫り来る尾を紙一重でかわし、その側面を駆け抜けた。
≪おのれ! ちょこまかと……!≫
「悔しかったら、お得意の腐食でも放ったらどうだ?」
≪貴様に言われずとも! これならどうじゃ! 腐毒散布!≫
ナーガの鱗の隙間から、紫黒色の霧が噴き出した。
気体となった腐毒が、逃げ場を奪うように広範囲へ拡散する。
「雷域!」
ジークがゼファリスを地面へ突き立てる。
放射状に広がった赤雷が障壁を作り、押し寄せる腐毒を残らず弾き返した。
その間にも、私のもとには膨大な解析データが送り込まれていた。
「ミラ、解析データをもっと早く送れ!」
『やってますよ!!』
「君の実力はこんなものじゃないだろ!」
『まったく、弟子使いが荒い人です……!』
解析速度がさらに上昇する。
視界を埋め尽くすほどのデータが羅列され、私は送られてきた情報を受け取るとほぼ同時に、テレサへ新たなプログラムを書き込んでいった。
「よし……!」
あとはプログラムを組み込み、最終調整を行うだけだ。
「がはっ!」
背後から、ジークの苦しげな声が聞こえた。
何だ!?
横目で確認すると、ジークが地面に膝をついていたが、ナーガの攻撃を受けた様子はない。
「くそっ……限界が来たのか!」
傷は塞がっても、それまでに蓄積した疲労や魔力の消耗まで消えたわけではない。ましてや、ゼファリスを解放しての初戦闘だ。むしろ、ここまで耐えたこと自体がおかしい。
≪フッフッフ……調子に乗っておったが、結局はその程度か。残念よのう≫
ナーガが愉悦に満ちた声を漏らす。
≪だが、まだとどめは刺さんぞ。先に、先ほどから怪しい行動をしておるS級を片付けてやろう≫
ちっ、気づいていたか……! あと少しだというのに。
≪死ね! 腐障毒吹!≫
「ミラ!」
『了解! 銀の星、自動防御へ移行!』
八つの銀球が私の前に並び、幾重もの障壁を形成する。魔壁だ。
腐毒液が障壁に激突した。
最初の一つが、瞬く間に侵食される。
二つ目、三つ目。銀球が次々と濁り、どろどろに溶け落ちていく。
「まだだ……あと少し……!」
六つ目までが一気に崩壊した。
七つ目にも腐食が広がる。
残るは……あと一つ。
「耐えてくれ……!」
だが、願いは届かなかった。
最後の銀の星にも亀裂が走り、形を失って溶けていく。
防壁を失った腐毒液が、目前まで迫る。
「やめろぉぉぉっ!」
倒れたジークが叫ぶ。
あとワンコードだというのに……!
その瞬間、私の目の前で、小さな氷の花が咲いた。
「〈咲け、氷柱! 氷姫蓮花!〉」
氷の花は無数の枝を伸ばし、爆発的に広がっていく。
次の瞬間、巨大な氷壁となって私の前に立ちはだかった。
腐毒液が氷壁へ直撃し、白い蒸気が辺りを覆う。
私は声のした方へ視線を向けると、茂みの奥に、負傷した肩を押さえながら立つドラグ殿の姿があった。
「あきらめるな、若人!!」
「ドラグ殿……!」
あんた、最高だよ。
私はすぐに視線を戻し、最後のコードを打ち込む。それと同時に、氷壁が腐食に耐えきれず、弾け飛んだ。だが、その先にはすでに起動したテレサが待ち構えていた。眩い光が放たれ、腐毒液の勢いを完全に殺す。
そのまま解毒魔力の光は腐毒を押し返し、ナーガの巨体を貫いた。
≪ぬっ!? なんだ、これは! ぐっ……苦しい! 我の力が……!≫
ナーガは苦しみだし、その巨体を地面へ叩きつけながらのたうち回る。体を覆っていた腐食魔力が急速に弱まり、鱗の色が濁っていく。
「ドラグ!貴様の作ったこの好機、無駄にはせん!」
ジークがゼファリスを支えにして立ち上がると、大地が震え、赤雷が周囲にはじけ飛ぶ。
立っていることすら、限界のはずなのに、それでも、彼女の目は死んでいなかった。
「道は……私が切り開く!」
ゼファリスから、赤い万雷が放たれた。
「雷霆!」
ナーガを再生させないよう、威力を抑えた万雷が巨体へ突き刺さる。赤雷は弱体化した鱗だけを的確に砕き、次々と引き剝がしていくと、ナーガの無防備な皮膚が露出した。
「行け! ヴァルカン!!」
「上出来だ、ジーク!」
私は大地を蹴った。
「ミラ! 残存エネルギーをすべて右腕へ集中させろ!」
『了解! 全残存エネルギー、右腕部へ集中!』
魔力が右腕へ流れ込み、装甲の隙間から紫の光が漏れ出す。
私はナーガのもとへ駆け、その巨体の前で足を踏み込んだ。大地をしっかりと捉え、腰と上半身を限界までひねる。右肘の排出口が開き、蓄積した魔力エネルギーが、一気に噴き出す。
「もう脱皮はできんぞ」
爆発的な推進力を得た拳を、ナーガへ叩きつける。
「終わりだ! 超推進打撃!!」
ズンッ、と腹の底まで響く鈍い音が鳴り、拳がナーガの巨体へ深くめり込む。
邪魔をする鱗は、もうない。
拳はむき出しになった皮膚を突き破り、奴の体を貫いた。
≪がっ……!≫
ナーガの全身から力が抜け、巨体は轟音とともに地面へ倒れ込むと、やがて輪郭を失うように溶け始めた。
私は、その姿が完全に消滅するまで見届けた。もう、再生する気配はない。
息を吐くと、ジークのもとへ駆け寄った。
「大丈夫か、じゃじゃ馬」
「うるさいぞ、機械オタク」
ジークは疲れ切った顔で、それでも愉快そうに笑った。
「しかし、すさまじい力だな。全力のゼファリスは」
「誰が全力だと言った?」
「……なに?」
「轟雷剣の力は、まだ三割しか解放していないぞ」
ジークは目を丸くする。
「さっ、三割だと!? なぜすべて解放しなかった!」
「三割でこの有り様の奴が、何を言っている。悔しかったら、もっとそいつを使いこなせ」
「ふん! もう使いこなせている!」
「まったく……」
私はゼファリスへ手をかざす。
「轟雷剣、ジークに使用者権限を付与」
【使用者権限付与を受理。】
「君に権限の一部を渡した。三割までの力なら、これからは自由に使える」
「本当か!」
「各解放段階には、それぞれパスワードを設定してある。三割までが第一段階。パスワードは、先ほど言ったとおり『獅帝』だ。使用者権限と既存のパスがあれば、パスワードの変更もできる」
「残りも教えろ!」
ジークは至近距離まで詰め寄ると、私の鎧へ勢いよく人差し指を突きつけた。
涙を流した後だからか、少し赤みがかった紺碧の瞳に見上げられる。
まったく、わがまま娘め。
「君が三割の力を使いこなせるようになったら、次を教える」
「ちっ……まあいい。すぐに使いこなしてやる」
ジークはぷいっとそっぽを向く。
「それは楽しみだ」
私が皮肉めいた口調で返すと、突然、ゼファリスが赤く発光し始めた。
【ツイニワレヲカイホウシタナ……タンキュウシャヨ】
「!?」
ジークが剣を取り落としそうな勢いで驚く。
「しゃ、しゃべったぞ!? なんだ、これは!」
「雷轟竜だ」
「雷轟竜? あやつにしては、ずいぶん知性の低そうなしゃべり方だな」
「まだ意識を三割しか解放していないからな」
【イチネントジコメタ……ヤクソクトチガウ】
「何を言う。最高の舞台で暴れさせてやるという約束は守っただろう? これからはジークが好きに解放してくれるしな」
【ヒサシイナ、ムスメ。ワレハオマエヲノットリ、マタコノヨデアバレテヤルゾ!】
「誰が乗っ取らせるか!」
ジークがゼファリスを地面へ叩きつけそうになる。
こいつも、相変わらず厄介な奴だ。殺したというのに、これほど強く自我が残っているとは。死骸を加工するときにも、ずいぶん苦労させられた。まあ、最高級の素材を前にして、研究しないという選択肢はなかったのだが。
「できるものならやってみろ。管理者権限だ轟雷剣、第一雷包を閉じろ」
機械音声とともに、ゼファリスは発光を止めた。
「行くぞ、ジーク。早く帰って糖分補給だ」
「いや、まずは後始末だ」
「そんなもの、騎士団にお任せする」
「駄目だ。負傷者を運ぶのも手伝え」
「銀の星は全機壊れているんだぞ。もう飛べない。それに、エネルギーもすっからかんだ」
「飛べなどと一言も言っていない。担いでいけ」
「冗談だろ……」
結局、私はジークに押し切られ、重労働を手伝うことになったのだった。
◇◇◇
ミカドレア王国東部、某所。
「ひどい怪我ですね、ベム」
月明かりも差し込まない森の中。黒いフードをかぶった男が、傷だらけのベムに声をかけた。
「すまぬ。小生の読みが甘かった。S級冒険者が、あそこまで手強いとは……」
「いえいえ、構いませんよ」
フードの男は穏やかな口調で答える。
「あなたの実力ではヴァルカンに勝てないことは、最初から分かっていました。殺せれば幸運、その程度です」
「……そうか」
「今回の目的は、腐食の脅威を人々に知らしめることでしたからね」
「その目的は、確実に達せられただろう」
「ええ。ラストもよく働いてくれました」
男は胸元で両手を合わせ、乾いた音を鳴らした。
フードの奥で、口元が不気味にゆがむ。
「今頃は、地獄を謳歌していることでしょう」
「……そうだな」
「またすぐに戦いが始まります。ベム、今は傷を癒やし、次に備えなさい」
「相分かった」
ベムがその場を立ち去る。
足音が完全に聞こえなくなってから、フードの男は一人、月夜の下でつぶやいた。
「ここまでは計略どおり……」
夜空を見上げ、さらに笑みを深くする。
「さあ、ここからが本番です……フッフッフ……」
フードの下から漏れ出した笑い声が、静かな月夜に響き渡った。
――第一章 鋼を喰らう蛇 完――
読んでいただき、ありがとうございます。
ついに第一章完結です!ここまで読んでいただいた方、本当にありがとうございます。
色々な感想を抱かれる方がいると思います。これからももっと精進して、皆さんに楽しんでもらえるような作品にしてまいります。
さて、ここからの更新なのですが、プロットを練り直すため、五日~一週間ほどお休み期間に入ろうと思います。しかし、楽しみにしていただいてる方が少しでもいる中で、長期間待たせてしまうのもどうかということで、明日はお休みで、その後、二日に一回、日常回?を投稿しようと思います。
現在考えているのは
・ジークとエドワードの休日デート?
・ジークとドラグの一日
・ミラとエドワードの出会い
・ミラとムラクモの一日
などです。どれが需要あるでしょうか?
では長くなりましたが、日常回、第二章でまたお会いしましょう!




