第九話 ~機神と獅帝、蛇を穿つ・前編~
本日二話連続投稿します。
第十話は本日21:00に公開します。
『……せい! 先生!』
「……うぅ」
ミラの声に呼び戻され、沈んでいた意識がゆっくりと浮上する。
『先生! 聞こえますか!? 無事ですか!』
「……あぁ。どれくらい気絶してた?」
『十分ほどです』
「くそっ、そんなにか……。お昼寝タイムは終了だ。状況は?」
地面に手をつき、立ち上がろうとした瞬間、肋骨に鋭い痛みが走った。
「ぐっ……!」
『森林北方でゼファリスの高魔力反応を検知しました。先生の予想どおりなら、ジークさんが本命と交戦しているのでしょう』
「よし、そこに向かうぞ」
私は痛みを押し殺し、どうにか立ち上がると、銀の星を起動した。
『了解。座標を共有します』
ミラから送られてきた座標を確認し、私は北方へ向かって飛び立つ。
先ほど解毒した湿地を通過しかけたところで、ふと『テレサ』の存在を思い出した。
急旋回し、湿地へ降り立つ。
『先生? どうしてここに? ……『テレサ』ですか?』
「あぁ。もしかしたら使えるかもしれん。持っていくぞ」
私は銀の星の魔力で『テレサ』を浮かせると、再び座標へ向けて飛び立った。
ほどなくして目的地付近に到着する。
眼下では、巨大な何かが木々をなぎ倒しながら進んでいた。
「なんだ、あれは……」
私はその巨体を追う。
やがて視界が開け、見覚えのある景色が飛び込んできた。
「フエル村……!」
巨大な蛇が鎌首をもたげ、その口内に禍々しい魔力を収束させている。
狙われているのは、地上にいる一人の女だった。
させるか!
私は即座に巨大蛇をロックオンする。
「魔砲総射・麻痺付与!」
無数の魔力弾が巨大蛇の横腹に直撃し、その巨体を押し流していく。
≪ぐぬぅっ!?≫
巨大蛇の全身が激しく痙攣し、地面へと崩れ落ちた。私は高度を下げながら地上を確認する。
そこにいたのは、全身を傷だらけにしたジークだった。立っているのが不思議なくらい、ひどい有り様だ。それだけ激しい戦いを繰り広げていたのだろう。
「ボロボロだな、ジーク。ドラグ殿にお仕置きでも食らったか?」
「……遅いぞ、馬鹿者」
憎まれ口を叩く彼女の声は、いつものような力強さを失っていた。私はジークのもとへ降り立ち、その隣に『テレサ』を下ろす。近くで見ると、彼女の瞳がわずかに潤んでいるのが分かった。
≪ぐっ……う、動けん! 貴様、我に何をした!?≫
蛇竜は小刻みに震えながら叫ぶ。
「少し神経を麻痺させているだけだ。安心しろ、すぐに解ける」
私はナーガを一瞥すると、すぐにジークへ視線を戻した。
「あれは蛇竜か? 私の知る個体とは、少々姿が違うようだが……」
不自然なほど分厚い鱗に、体中からあふれ出る腐食魔力。
通常の蛇竜とは、あまりにもかけ離れている。
「だが、蛇竜なら魔力探知に引っかからなかったのも納得できる。奴の鱗には、外部からの魔力探知を遮断する性質があるからな」
「どうやら奴は人を喰らい、進化しているらしい。しかも、雷霆で倒しても、脱皮して再生し、さらに進化した」
「なるほどな……」
私は改めてナーガの巨体を見上げる。
「だが、どんな魔物だろうと、我々のすることは決まっている。ここで倒すぞ」
「ああ。お得意の策はあるのか?」
「あるにはある……」
「なんだ? 早く言え。奴の麻痺が解けるぞ」
ナーガを見ると、先ほどまで硬直していた巨体が少しずつ動き始めていた。
「いいか。奴に再生能力があるなら、一撃で倒すしかない」
「ああ」
「だが、雷霆で倒しきれなかったとなれば、私と君が同時に最大火力を叩き込んでも、仕留められる保証はない。倒し損ねれば、奴はさらに強くなる。失敗は許されない」
「そうだな」
「そこで逆転の発想だ。我々の出力を上げるのではなく……奴を弱らせる」
「そんなことができるのか?」
「可能だ。この『テレサ』を使えばな」
私は背後に置かれた装置を指さした。
「だが、今の奴が持つ腐食魔力は、私たちが解析したものとは性質が大きく異なっているはずだ。今のままでは対応できない」
「では、どうする?」
「この場で私とミラが解析し、テレサのプログラムを書き換える」
『先生、無茶です……と言いたいところですが、それが最も勝率の高い方法であることも事実です』
「私は時間を稼げばいいのだな?」
「そうだ。私が今装着している魔導義鎧は時間不足で腐食対策を十分にできていない。やつの一撃を喰らえば、おじゃんだ。君には奴の注意を引いてもらう。そして、もう一つ問題がある」
「なんだ?」
「奴の鱗が魔力を遮断しているせいで、解析に必要なサンプルが足りない。君にはただ耐えるだけでなく、奴に本気を出させ、より多くの魔力を放出させてもらわなければならない」
「……お安い御用だ」
口ではそう言いながらも、ジークの声はかすかに震えていた。
それでも、その瞳から強い意志が消えることはない。
「君に轟雷剣を渡してから、もう一年か……。馴染んだか?」
「いきなりなんだ。そんな話をしている場合か?」
ジークは一瞬だけゼファリスに目を落とす。
「……馴染んでいるよ」
こいつも覚悟を決めている。
ならば、私もそろそろ決めなければならない。
「そうか……。よく聞け。その剣には、まだ上の段階がある」
「……なに?」
「私の一声で、封じられている能力を解放できる」
「なぜそれを早く言わない!? さっさとやれ!」
「簡単に言うな」
私はゼファリスへ視線を向けた。
「その剣の能力を解放するということは、素材となった雷轟竜の力を解放するということでもある。ロックを外せば、奴の意識も一気に流れ込んでくる。常人では耐えられない」
ジークは一瞬、手にしたゼファリスを見つめる。だが、すぐに顔を上げ、真っすぐに私を見た。
「そんなもの……乗り越えてみせる……!」
「だろうな。だから君に託した」
「エドワード……お前……」
こいつなら、きっと大丈夫だ。
その覚悟を信じ、私はゼファリスへ手をかざした。
「いいか。今からロックを解除する。間違っても暴走するな」
「当たり前だ!」
「轟雷剣、管理者権限にアクセス」
【声紋、魔力ともに完全一致。管理者権限にアクセス。】
「セーフティを解除。第一雷包、解放。パスワードは……『獅帝』」
機械音声が響いた直後、ゼファリスから膨大な赤雷が噴き出した。
「ぐぁぁぁぁっ!」
赤雷が荒れ狂い、周囲の地面を焼き焦がす。
ジークの全身へ、雷轟竜の荒々しい意志が流れ込んでいく。
「暴れさせてやる! だから私に従え、ゼファー!!」
ジークの叫びに応じるように、四方へ飛び散っていた赤雷が収束し始めた。赤雷は彼女の体を包み込み、その傷を次々と塞いでいく。
「傷が……治った?」
ジークは驚いた様子で自分の体を見下ろした。
「ゼファリスは、受けた衝撃の一部を電気エネルギーへ変換して蓄積する。そのエネルギーが一気に解放され、君の肉体を修復したんだ」
「なるほどな。難しい話はいまいち分からんが……」
ゼファリスを構え、口元に笑みを浮かべる。
「とにかく、こっちは任せろ」
「私の最高傑作の力を解放したんだ。負けるのは許さんぞ」
「その可能性は万に一つもない!」
彼女はは地面を蹴り、ナーガに向かって飛び出していった。
読んでいただき、ありがとうございます!
前書きでもお知らせしましたが、第十話は本日21:00に公開します。




