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「クルーズ地区のダム工事の件、上手くいきそうで良かったですね」
「人材確保がネックで、工事がなかなか遅々として進んでいませんでしたからね……シリウス様のアドバイスのお陰でなんとか丸く収まりましたわ」
「いえ……私など、ただ横から口を挟んだだけに過ぎません」
「そんな事ありませんわ。視察中、シリウス様の働きがどれほど支えになった事か……本当にありがとうございます」
揺れる馬車の中、ノーティカは向かいに座るシリウスに、まるで尊いものを見るかのような視線を向けた。
シリウスはどこか照れくさそうな笑みを見せる。
長期間の視察を終え、シリウスとノーティカは王都に戻って来た。
久方ぶりに戻った王都は、街並みがどこか華やかに見えた。
「なんだか街がいつもより賑やかですね」
馬車の窓から流れる街並みを見ていたシリウスは、不思議そうに呟いた。
「もうすぐ精霊祈念祭が行われるのです」
「精霊祈念祭?」
首を傾げるシリウスに、ノーティカはゆっくりと頷いた。
「シリウス様はご存じかもしれませんが、この国は精霊信仰に篤いのです」
「はい、書物で読みました。ビガ国は精霊の加護によって豊かになったと」
「ええ。今でこそ精霊信仰の残る国は多くはありません。ですがかつては世界中で尊ばれていました」
ノーティカは語る。この国の古い古い歴史を。
はるか昔。ビガ族の祖先は、元は巨人ではなかった。
大陸から遠く離れた島に流れ着いたビガ族の祖先。しかしそこは資源に乏しい、痩せた土地だった。
祖先たちはこの過酷な土地でも生きていけるようにと、精霊に祈りを捧げた。
彼らの祈りに応えた精霊は、彼らに頑強な肉体を与えたのだ。
彼らは大きく強靭な身体で土地の開拓に励んだ。そしてその肉体は彼らの子、そのまた子へと受け継がれ、いつしかこの島は巨人族の住まう土地となった。
精霊信仰に篤い彼らは、いつだって精霊への感謝を忘れなかった。その信仰の恩恵として、精霊は豊かな資源をこの島にもたらしたのだ。
「その歴史があるからこそ、ビガ族は今も精霊信仰を大事にしているのです。精霊祈念祭は、精霊に感謝を捧げる年に一度のお祭りなんです」
「なるほど……そのお祭りでは何をされるのでしょうか」
「精霊に捧げる花を町中に飾るんです。そして精霊司が街を巡礼します。あとは子ども達が精霊の仮装をしたり……。祈念祭の期間中は、街がいつも以上に賑やかになりますよ」
「へえ……!」
シリウスの目が輝く。いつものように彼の知的好奇心が膨らんでいるようだ。ノーティカはそんな彼の様子を見て、微笑ましいといった様子で口元を緩めた。
「お祭りの一日目には祈りの儀式が行われます。これは精霊殿の中で行われるので、一部の人しか見る事は出来ませんが……。精霊の巫女が舞を踊り、精霊に祈りを捧げる儀式です」
「祈りの儀式ですか……私も見られるのでしょうか?」
「ええ、もちろんですわ。だって精霊の巫女は、わたくしですから。婚約者のシリウス様もご観覧いただけます」
「えっ!? ノーティカ様が!?」
シリウスは驚いて声を上げた。
まさか王女が巫女の役割を務めるとは思わなかったのだ。
「はい。精一杯舞を踊りますので、見守っていてくださいね」
少しはにかんだ様子で、ノーティカは言った。
馬車を降りて王城に入ると、多くの臣下や使用人たちに出迎えられた。
「おかえりなさいませ。ノーティカ王女殿下、シリウス王子殿下」
「無事にお戻りになられて何よりです」
回廊ですれ違う人々からねぎらいの言葉をかけられ、二人は笑顔で返す。
けれど、その中に。
「ん……?」
シリウスはわずかに動きを止めた。
「シリウス様? どうなさいました?」
「いえ……なんでもありません」
どこからか視線を感じた。あたりをきょろきょろと見回す。
けれど気のせいかと思い直し、シリウスは再び歩みを進めた。
その後ろ姿を眺める者の中に、胡乱な目を向けている者が居るとも知らず――。




