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それからもシリウスとノーティカは、視察で国中の至る場所を回った。
漁が盛んな港町。山の裾野に広大な畑が広がる農村。鉱業で栄えた鉱山地帯。多くの商業ギルドを構える商業街――。
ノーティカはその土地の執政官と熱心に対話し、街や村の人々とも密に交流し、人々の暮らしを豊かにするために駆け回った。
シリウスはそんな彼女を隣で支え続けた。初めてシリウスを見たビガ国の民は皆、「こんな小さな身体で……」と驚いていた。
けれど何事にも真摯に向き合う彼の様子に、いつしか誰もが信頼感を覚えるようになっていった。
「いやぁ、シリウス殿下のおかげで助かりました!」
ここは以前訪れた、大きな灯台のある港町。シリウスとノーティカは漁師ギルドの組合長から歓待を受けていた。
「いや、私はアストラ王国で見た物を話しただけ。実際に形にしてくれたのはこの街の皆だ」
「ですが、殿下が知識を授けてくださったおかげで魚の輸出を始められたのです。これでこの街はもっと豊かになりますよ」
以前この地を訪れた際、ノーティカはシリウスに話した事があった。
ビガ国は食料資源が豊富だが、輸送期間の問題があり国外への輸出が難しいと。
よくよく話を聞いてみれば、この国は食品の加工技術があまり発達していないという。確かに、気候が穏やかで年中作物や漁獲に困らない土地ともあれば、食料の保存には目が向かないのかもしれない。
何よりビガ族には「新鮮な食物こそ最上のもの」という価値観があった。つまり食品を加工するという行為は、その物の価値をあえて落としてしまう事だという忌避感があったのだ。
シリウスはノーティカと共に、この街の執政官と漁業ギルドの組合長に掛け合った。国外輸出を視野に入れ、食品加工に力を入れてみないかと。
もちろん、彼らは初め拒否感を示した。新鮮な食物という最上のものを提供し続けた彼らにとっては、簡単に頷ける事ではなかった。
けれどシリウスは熱心に言葉を重ねた。
「輸出という分野において、食品加工とはむしろ価値を上げる事だと思う」
価値を上げる。その言葉に、組合長の眉が動いた。
「豊かな食資源を他国に知らしめる事。それはこの街、ひいてはこの国の価値を高める事にも繋がる。……だが、私はこの国の知識がまだ乏しい。皆の協力を得て、共に作り上げていきたいと思うのだ」
自然と言葉に熱がこもる。その熱意に押されたのか、渋々ではあるが組合長は首を縦に振った。執政官も「この街が豊かになるのなら、試してみましょう」と、それに倣う。
シリウスとノーティカは顔を見合わせ、晴れやかな顔で笑い合った。
それからは、漁師たちも交えてこの国に適した保存方法を模索した。
塩漬けや燻製なども試してみたが、コストを考えると大きな規模では出来ない。そこでシンプルに天日干しを推し進める事になった。
漁師たちは魚の切り分け方や乾燥のための設備など、一から試行錯誤を繰り返していった。
何より幸いだったのは、この地域は日差しが強く、日照時間が長い事だった。カラッとした海風が吹く場所なので、乾燥には適していた。
そして試行錯誤を重ねて出来上がった天日干しの魚を、漁師たちと共に試食する事となった。
「美味しい……!」
ノーティカはアジの天日干しを口に入れた瞬間、驚きに目を見開いた。
「なんだこりゃあ、生の魚よりも味が濃いじゃないか」
「新鮮な魚が一番美味いと思ってたが、なかなかどうして干物も美味いねぇ」
ギルドの組合長や漁師たちも、口々にその味を讃えていた。
質の良いビガ国の魚介類は、乾燥する事で濃厚な旨味を凝縮した干物になったのだ。
こうして完成した魚や貝、イカなどの干物を、輸出のラインに乗せ出した。最もビガ国に近い小国に輸出してみたのだが、これが大当たりだった。
現在は更に近隣諸国への輸出計画も動き出している。
シリウスの胸に充足感が湧いてくる。
港に響く笑い声と潮の香りの中、そっと息を吐いた。
小さな一歩でも、誰かの力になれたなら。この国の一員として何かを成し遂げられたなら。こんなに嬉しい事はない。
ふと隣を見れば、ノーティカが朗らかに笑っていた。
その横顔を見つめながら、シリウスは静かに胸の内で誓う。
この人の隣に、相応しい自分でありたいと。




