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巨人の国へ婿入りした不遇の王子は、大きな姫君と愛を育む  作者: 犬柳


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 談判の再開を翌日に控えたその日。

 王都のとある紳士クラブに、幾人かの貴族達が集まっていた。

 シガールームの更に奥にある個室は、特別な会員しか入る事の出来ない秘密の場所だ。密談をするには都合の良い場であった。

 

「この度は急ぎお集まりいただき、感謝申し上げます」


 この場を設けたラメール侯爵は、丁寧に挨拶を述べる。

 同じ志を持つ者に声を掛けたところ、十数人程の貴族がクラブに集った。


「我が国の未来を憂う者として、皆様にご賛同頂けて幸甚に存じます」


 無論、侯爵とて今回集まった貴族達が公平無私な者ばかりではないと知っている。侯爵と同じく国家の安定を望む者、私欲のために侯爵に賛同した者、侯爵の意見に阿るだけの寄り子。皆が皆、それぞれの思惑を持ってこの場に望んでいた。

 だが、各々の心積もりなど今はどうでも良い。ノーティカとシリウスの婚約に待ったをかける――それさえ果たす事が出来るのであれば。


「皆様もご存じの通り、ノーティカ王女殿下とシリウス王子殿下のご婚約はつつがなく進んでおられます。来年の王女殿下の成人の折には、正式に婚姻を結ばれると聞き及んでおります」


 葉巻の煙が漂う個室の中、ラメール侯爵は弁を振るう。


「……ですが、本当にこのままでよろしいのでしょうか」


 侯爵はコの字型に並べられたソファに座る紳士達の顔を眺めた。

 皆、緊張感のある面持ちで侯爵の方に視線を向けている。


「シリウス殿下の王配としての資質――私はそこに疑問を抱かざるを得ないのです」


 疑問を抱かざるを得ない――ラメール侯爵がそう言い放った瞬間、部屋の空気が張り詰めた。

 王家の意向に明確に反する思想を持っている。密談の場とは言え、それをラメール侯爵は公言したのだ。


「本来、民族差別などあってはなりません。ですが、貴族の中には小さき民族を軽視する者が居るのも事実。そのような一筋縄ではいかない貴族達を相手取り、調整するのも王配の役目です」


 侯爵はなおも言葉を続ける。


「……しかしながら、そのお役目はシリウス殿下にはいささか荷が勝ちすぎるかと思うのです」

「失礼、ラメール侯爵。発言の許可を」


 話の最中、一人の紳士が手を挙げる。


「ええ、どうぞ」


 ラメール侯爵は手のひらを差し出し、発言を促した。


「侯爵のご意見には概ね同意いたします。私も王女殿下の婚約には思うところがありますゆえ。……ですが、シリウス殿下は優秀な方だと聞き及んでおります。民衆の支持も厚いと」

「それについては私の耳にも入っております。事実、シリウス殿下を支持する者は多い」


 ラメール侯爵は肯定するように、大きく頷いた。


「ではそれを覆してまでお二方の婚約を解消させる……と。大衆の民意という大きな流れが出来上がっている以上、それに逆らう事は難しいのでは?」

「ごもっともです。ですが問題はそれだけでは無いのです」


 侯爵はゆるやかに首を振った。


「継承問題。それが一番の懸念なのです」


 室内が、シンと静まりかえった。

 誰もがその言葉の意味するところを受け止め、小さく頷いた。


「ビガ族と小さき民族との婚姻、それ自体は前例が無い訳ではありません。ですが非常に稀な例です。それに直系の王族がノーティカ王女殿下しかいらっしゃらない以上、直系の血を確実に次代へ繋ぐ。それは王配に求められる最も重要な責務と言っても過言ではありません」


 ふ、と侯爵は息を吐いた。

 それは嘲笑ではない。ただ、成せぬものは成せぬのだという諦念を含んだ笑みであった。


「ですがシリウス殿下は小さき民族のお方。その責務を果たせる保証がどこにも無いのです」

「……しかし、それはあくまで可能性の話では?」

「ええ、それはおっしゃる通り。ですが王家の存続とは、可能性に賭けて良いものなのでしょうか」


 侯爵に問うていた紳士は、ぐっと言葉に詰まった。


「小さき民族との間に無事に御子がお生まれになるのか。お生まれになったとして、健やかにお育ちになるか……」


 部屋中に蔓延した葉巻の紫煙が、ラメール侯爵の熱弁でゆらりと揺れる。


「無論その場合、傍系より次代の王が選ばれる事でしょう。ですが我々が望むのは国家の安定。その為には、直系の血をお繋ぎいただく事が最善なのです」


 ファーレン王には二人の弟が居り、両名とも既に臣下の籍に降っている。

 万が一王の血統が途絶えた場合は、王弟のいずれか、あるいはその子どもが王位を継ぐ事となる。

 そうなった場合、継承問題で少なからず国は揺れるであろう。その煽りを大いに食らうのはそれぞれの王弟の派閥に所属している貴族達である。

 貴族界のパワーバランスが大きく変化してしまう。それを阻止したいのは、この場に集まった貴族の誰もが思っている事だ。


「だからこそ私は、王女殿下の婚約について慎重にお考え頂きたい。そう願っているのです」


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