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巨人の国へ婿入りした不遇の王子は、大きな姫君と愛を育む  作者: 犬柳


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「ご報告申し上げます。ビガ族の有力貴族であるラメール侯爵に接触し、協力関係を取り付けました」

「ほう。よくやった、ディズリー」


 王城に戻ったディズリーは即座にベラトリックスの元へ向かった。

 ラメール侯爵邸での密議を報告すると、ベラトリックスは満足そうに笑った。


「侯爵は王家の継承問題について憂慮しております。三日後の談判までに同じ思想を持つ貴族達の支持を集め、シリウス殿下の婚約に疑義を呈する手筈となっております」

「それだけか?」

「……は」


 ディズリーを見下ろすように、ベラトリックスは顎を上げる。その態度はどこまでも居丈高だ。


「ふん、ぬるいな」

「ぬるい……とは」


 ディズリーは戸惑ったように返す。


「此度の婚約を取り決めたのは、我が父とビガ国王だ。父のような死にぞこないはともかく、あの老獪が貴族の反対を受けた程度で婚約を解消させると思うか?」

「それは……」


 その懸念は確かにあった。

 継承問題や国家の安定というもっともらしい理由で、婚約の再考を進言する。それ自体はある意味正攻法と言えよう。

 だがファーレン王は一枚も二枚も上手だ。正攻法で攻めるだけでは、ひらりと躱されかねない。

 始めこそ『図体ばかりが巨大な蛮族の王』と侮っていたベラトリックスだったが、先日の談判を経て、己が大きく見誤っていた事を痛感した。


「ああ、お前の案が悪いと言っているのではない。それだけでは足らぬと言っているのだ」

「……では、殿下のお考えは?」

「奴らを周囲から崩すのと同時に、奴ら自身を崩してやるのだよ」

「シリウス殿下自身を追い詰める……と?」


 ディズリーが尋ねると、ベラトリックスは片頬を上げて嘲笑うように答えた。


「いいや。シリウスを追い詰めたいのなら、シリウスを攻撃してはならぬ」

「……何故でしょう」

「奴は自分が傷付く事には慣れているからな」


 ベラトリックスはそう言って目を細めた。

 その言葉にディズリーは思わず顔を顰めそうになったが、なんとか堪えて無表情に徹した。


「狙うべきは――ノーティカだ」


 手に持った扇を広げ、ベラトリックスは優雅に笑う。


「あろう事か、シリウスはこの私に反抗的な態度を見せてきた……誠に許しがたい事だ。だがそれも隣にあの巨人の王女が居るからこそだ」


 ビガ国の王女、ノーティカ。

 初めて見た時から気に入らないと思っていた。


「あの王女がシリウスの精神的支柱になっている事は明白」


 晩餐会の時。いつものようにシリウスを甚振ってやろうと思えば、ノーティカが割って入ってきた。

 それだけでも面白くないというのに、談判の時もシリウスを気に掛けるような真似をしていた。あの時シリウスが露骨な反抗心を見せたのは、ノーティカが隣で支えていたからに違いない。


「ならばその柱を壊してやれば良い。そうすればシリウスも、己が何者だったかを思い出すであろう。――人の顔色を窺い、怯え、恭順するだけの無力な存在だったとな」

「……さすがベラトリックス殿下でございますな。誰よりもシリウス殿下の性を熟知しておられる」


 ディズリーは恭しく頭を下げる。その心には言いようのない薄ら寒さが広がっていた。


「当たり前だろう。あれは私が躾けたのだ」


 ベラトリックスはさも当然の事のように言ってのける。


「国へ戻ったら、また躾け直してやらねばな。あれは愚かだ。痛みをもって教え込まねば、自分の立場と言うものをすぐに忘れてしまう」


 おおよそ人間に対して向けるべき言葉ではない。だがベラトリックスは、シリウスをそのように扱う事になんの躊躇いもない。

 シリウスの婚約解消とアストラ王国への帰還要請。最早ベラトリックスにとってそこに政治的な思惑など無い。

 あるのは憎き異母弟への、歪んだ執着心だけだ。


「――ああ、楽しみだ。あの小賢しい王女をどのように陥れてやろうか」


 ベラトリックスは大層愉快そうに、くつくつと笑った。

 そして、ふと気が付いた。


「そう言えば……あの王女が言っていたな」


『精霊様より特別な祝福も受けておられます』

『この国には精霊様が居られますから。シリウス様はその精霊様に認められた尊きお方なのです』


 晩餐会のテラスにて、ノーティカと直接会話した際の事を思い返す。

 ノーティカは『精霊様』を引き合いに出し、シリウスを持ち上げていた。


「……この国には精霊信仰があるのだったか」


 ぽつりと呟いた言葉に、ディズリーが反応する。


「はい。他国ではとうに廃れた信仰ですが、ビガ国では今も精霊信仰が篤いと言われております」

「はっ、所詮蛮族共の土着信仰だろう」


 ベラトリックスは一笑に付す。


「……だが、これは使えるかもしれんな」


その顔には、醜い企みの表情が浮かんでいた。


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