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巨人の国へ婿入りした不遇の王子は、大きな姫君と愛を育む  作者: 犬柳


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 儀式の間では、今まさに終祭の儀が行われようとしていた。

 ノーティカは、二日前に祈りの舞を捧げた舞台に再び立つ。あの時は舞台の下に大勢の人々が詰めかけていたが、今は誰も居ない。ノーティカと精霊だけの静謐な空間だ。

 舞台の中央に置かれた精霊石の前に跪く。瞼を閉じ、両手を胸の前で組みながら精霊に語りかけた。


「この地におわす精霊様、此度の祭も無事に終わりを迎えた事をお知らせいたします。去る歳も精霊様のご加護を賜り、心より感謝申し上げます」


 ノーティカは精霊に向かって感謝の言葉を伝える。今年も祈念祭が無事に終了した事、大きな災害や疫病被害が起こらなかった事、豊穣や豊漁に恵まれた事……そして。


「わたくしの婚約者……アストラ王国第一王子、シリウスに祝福を授けてくださり、誠にありがとうございます」

 シリウスに祝福の光が降り注いだ事を、深く感謝した。

 実のところ、この国においてシリウスの立場はまだ磐石とは言えなかった。

 王族の配偶者にビガ族以外の者を受け入れるというのは、とても稀な事だ。前例が無い訳ではないが、少なくともここ百年ほどはそういった話が無かった。それゆえに初めはアストラ王国から王配を迎える事に対して臣下から懸念の声が上がっていた。

 けれどシリウスは国内のあらゆる所を巡り、民と直接触れ合う事により、少しずつ彼らの信頼を勝ち取っていった。小さな身でノーティカを傍で支え、民の暮らしを少しでも良くしようと奮闘する姿は人々の心を打った。

 そして風向きが少しずつ変わってきたところで、精霊がシリウスに特別な祝福を授けた。それも王族や多くの貴族、精霊殿の者達の目の前で。

 偉大なる精霊がシリウスを認めた。そこで臣下達の見る目も完全に変わったのだ。


「願わくばこのまま、彼とこの国の未来を築いていけるよう……」


 ノーティカは組んだ手に、きゅっと力を込めた。

 どこからかふわりと風が吹き、淡い茶色の髪を揺らした。――けれど、どういう訳か風は段々と強くなっていく。


「精霊様……?」


 巫女装束の裾が風ではためく。まるで精霊が何かを伝えようとしているかのように、吹き込む風は強さを増していった。


「精霊様? 精霊様、どうなさいましたか?」


 ノーティカの声に焦りが混じる。そして、目の前に置かれた精霊石が光を放ち始めた。それは先般の儀式で見せたような、神秘的な淡い光ではない。赤く点滅するような光だ。


「……何が……起こっているの……」


 終祭の儀でこのような事が起こるのは初めてだった。

 ノーティカの額に汗が滲む。縋るようにして精霊石に手を伸ばした。

 触れた場所が熱を持つ。そして手のひらを通じて、ノーティカの頭に言葉が流れ込んできた。


『祝福の御子――』


「……え?」


 ノーティカは虚を突かれたように目を見開いた。


『異郷の息吹を運びし祝福の御子――その妙なる身を、昏き運命の影が覆おうとしている』

「昏き運命の影……まさか……!」


 精霊の言葉を理解した瞬間、ノーティカははっと息を呑んだ。嫌な予感がする。彼女はなかば叫ぶようにして精霊石に言葉を向けた。


「シリウスの身に何かあったのですか!?」

『御子は、今や歪な信心に脅かされんとしている。あの清らかな輝きが曇らされようとしているのは……祝福を与えし我にとっても嘆かわしい事』


 『歪な信心』――ノーティカの予感は的中した。


「やはり、ニラス大精霊司が……!」


 ノーティカは堪らずその場から立ち上がった。そして精霊石に向かって言葉を紡ぐ。


「偉大なる精霊様。わたくしは祝福の御子――シリウスの身を護りに参ります。終祭の儀の結びまで果たせぬ事を、どうかお許しください」


 精霊の巫女として、儀式を途中で投げ出すなどあってはならない事だ。けれど精霊石はノーティカの言葉に肯くように、白くあたたかな光を放った。


「ありがとうございます、精霊様……」


 噛みしめるように呟くと、ノーティカは駆け出した。儀式の間を飛び出し、愛しい人の姿を探す。

 

「シリウス……どうか無事でいて……!」


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