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巨人の国へ婿入りした不遇の王子は、大きな姫君と愛を育む  作者: 犬柳


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 精霊祈念祭、二日目。

 この日は街で加護の巡礼が行われる日だ。


「精霊の巫女と精霊司が街を歩き、人々に加護の花を渡すのです。……このように」


 ノーティカは言いながら、籠から取り出した一輪の白い花をシリウスに差し出した。


「可憐な花ですね」

「精霊花と言います。この国ではどこにでも咲いている花ですが、精霊殿の庭で育てられた花は特に美しい純白をしていると言われているんですよ」


 手の中の精霊花を見れば、確かに花びらの一枚一枚が発光しているかのような純白色をしていた。

 この日ノーティカが纏っている巡礼装も、精霊花と同じ混じりけのない白だ。

 これもまた精霊の巫女としての装束だが、昨日の儀式用の華やかな衣装とは違いシンプルなものだった。

 質の良い薄衣を重ねたロングドレスは、ボディラインに合わせて柔らかな曲線を描いている。

 胸元や裾には銀糸で精霊花の刺繍が施されていた。

 飾り気は少ない。けれど、それ故に彼女自身の美しさが際立って見えた。

 薄茶色の髪は、緩く編み込んでハーフアップにしていた。挿し込んである白い花は精霊花だ。

 陽光を浴びたその姿は、まるで春の精霊のようだった。


 儀式の舞台に立っていた時のノーティカは、神秘的で神聖な、誰にも触れられない存在に思えた。

 けれど今、街に降り立とうとしている彼女は違う。人々へ歩み寄り、直接言葉を交わし、皆と笑い合う。シリウスがよく知るビガ国第一王女としてのノーティカの姿だった。


「……よく、お似合いです」


 シリウスは真っ直ぐにノーティカを見上げる。眩しい。まるで太陽のようだった。シリウスは思わず目を細めた。


「ありがとうございます……」


 耳まで朱に染めながらはにかむノーティカを、シリウスはたまらなく愛おしく思った。


「……コホン」


 静まりかえった空間に、乾いた咳払いの音が響く。シリウスとノーティカは揃って後ろを振り返った。

 そこには呆れたような表情のジェレミーが立っていた。

 すっかり二人の世界を築いてしまっていたが、ここは精霊殿の控えの間である。ノーティカの支度を手伝う侍女や精霊司も、どこか気まずげに目を逸らしていた。


「失礼いたします。精霊司の方より、間もなく巡礼が始まるとのお声がかかりました」

「あ、ああ。すまない。ノーティカ様、参りましょう」

「は、はい……」


 いつものように、シリウスはエスコートの手を差し出した。――その時だった。


「巫女姫様」


 どこか冷淡さを窺わせる声が、二人の間を通り抜ける。

 

「……ニラス殿」


 シリウスの声がわずかに硬くなる。振り向いた先に居たのは、貼りつけたような笑みを見せるニラスだった。

 ニラスはゆったりと歩を進め、二人の前に立ち塞がる。


「巫女姫様こそが加護の巡礼の主。どうぞ、我ら精霊司を従えその先頭にお立ちください」


 ニラスの黒々とした瞳には、尊き巫女姫の姿しか映し出されていなかった。隣に立つシリウスの事など、塵ほどにも気に留めていないかのように。


「……ええ、分かったわ。参りましょう」


 ノーティカはそう答えながらも、ほんの一瞬だけ視線を逸らした。まるで、差し出されたシリウスの手を取れなかった事を惜しむかのように。

 シリウスもまた手を下ろす。僅かな名残惜しさが指先に残っていた。

 ニラスはそんな二人の機微に気付いていないのか――それとも、気づいた上で切り離したのか。

 その態度にわずかに違和感を覚えながらも、ノーティカはシリウスの元を離れた。

 けれど控えの間を出る寸前、彼女はくるりと振り返った。そしてふわりと柔らかく微笑む。その笑みはまっすぐシリウスに向けられていた。

 

「行ってまいります、シリウス様」

「行ってらっしゃいませ。私も見守っております」


 シリウスもそれに応えるように大きく頷き、優しくとろけるような笑みを返した。


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