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祈りの儀式は幻想的な余韻を残して、幕を閉じた。
「本当に素晴らしい儀式でした……これほど大きな祝福は初めてですね」
「ああ、巫女姫様の祈りが精霊様に届いたのだ。なんと強きお力をお持ちなのか」
「巫女姫様のようなお方がこの国の女王になられるのだ。ビガ国の未来は安泰だろう」
儀式を終えた精霊司達は、口々にノーティカを讃えていた。
これまでにないほど、神秘的な光景を目にした後だ。皆がどこか浮ついたような心持ちになっている。
「それにしてもシリウス王子殿下だ。初めて見た時は、あのような小さき身で巫女姫様を支えられるものかと思っていたが……」
「ええ。まさか精霊様から特別な祝福を授けられるなんて……あのような光景を見る事が出来て、至上の喜びとはまさにこの事です」
「シリウス殿下が涙を流された時、精霊様が本当に触れられたのだと思った」
「聞けば民からの信頼も厚いとの事。御身は小さいが、頼もしい限りじゃないか」
――パリン!
唐突に、何かがひび割れる鋭い音が響き渡った。
「だ、大精霊司様!?」
「……ああ、申し訳ない。うっかり落としてしまった」
ニラスだった。その足元には、儀式に使う香炉が落ちていた。
割れた香炉からは微かに残った香煙が立ち上っていた。
年若い精霊司が、慌てて駆け寄ってくる。
「お怪我はありませんか? ……ああ、手から血が!」
「ああ……これほどの傷、大した事ではない」
ニラスは自身の手元に視線を遣った。強く握りしめた手。そこにはうっすらと血が滲んでいた。
「いえ、ここは私が片づけておきます。大精霊司様はどうかお手当を」
「……そうか、ではここは任せた」
ニラスは踵を返し、儀式の間を後にした。
その足は精霊殿の奥にある大精霊司室へと向かう。
静まりかえる回廊で、ニラスの足音だけが不気味に響いていた。
雪崩れ込むように、ニラスは部屋に入った。
鍵をかけ、明かりも点けぬまま部屋の奥にある精霊像の前に跪いた。
「……何故」
ニラスは低い声で呟く。悲壮、憎悪、嫌悪、怨嗟、憤懣――その声には、ありとあらゆる感情が乗せられていた。
「何故、精霊様はあの者をお認めになったのですか。何故あの者へ祝福を与えたのですか」
胸の前で組んだ両手が、ぎちりと音を立てる。血の滲んだ傷口が更に深く抉れていた。
それは祈りの形をしているようで、ひどく歪なものだった。
「誰よりも清廉で美しく、そして神聖な巫女姫様……あの方の隣に、矮小なあの男が立つべきではない」
ニラスは血の滲んだ手を伸ばした――信仰するべき精霊像に。
「あの祝福は誤っております。精霊様はあの者に惑わされているのです」
精霊像の顔に、べっとりと血が付着する。
血液に汚れた精霊像を見て、ニラスは口元を吊り上げた。
その笑みは、醜く歪んでいた。
「……そして、巫女姫様も」




