第6話「賞賛の声」
夜の渋谷。
普段とは違い、警官がそこら中に配置されている。
だが、何もしなければ、彼の正体がバレることはない。
自身の抑えきれない衝動をどのように発散するのかを考えていた。
周りの警官たちは自分を見る。
というよりも、通りかかる人間全員を見ていた。
彼は警官から見られた時、自分が疑われているのではないかと心配になる。
警官1人1人の自分を見る目が疑いの目のように見えるからだ。
その度に縮こまって、抑圧されている気分になった。
彼の単なる妄想であることに他ならないが、犯罪を犯したという自覚があるのだから、そういう想像をするのも無理はない。
頭に冷たい感覚が走る。
雨が降りだしたのだ。彼はコンビニへと駆け込む。
急な雨で、通り雨だといいと思ったが、そうもいかないらしい。
雨は降り続き、彼はスマホを確認した。
ネットは自分が起こした殺人事件で持ち切りらしい。
Xではトレンド入りを果たし、不謹慎なネットの輩はコメントを数多く残している。
しかし、彼の目に止まったコメントは彼を賞賛するコメントだった。
『殺されたのって、前科持ちの人でしょ?
殺してくれてラッキーなんじゃない?』
『サラリーマンの男、殺される日もしつこくナンパしてたとか、殺人鬼さんサンキュー。』
『これ、悪い人を狙って殺してるとしたらマジでヒーローじゃね?』
そんなコメントが溢れかえっていた。
彼は困惑した気持ちになる。
犯罪だと知っており、引け目を感じるべき行為なのに、なぜ賞賛される?
自分がやっていることはもしや、周りから求められていることなのではないのか。
みんなが期待してくれているのかもしれない。
そう思ったのだ。
だが、まだ分からない。
傘を買い、コンビニを出ることにした。
人気のない路地裏へと入り、自宅を目指す。
その時、目の前から酔っぱらいが、歩いてくるのが見えた。
歩き方が千鳥足で今にも転びそうだ。
彼は仮面を被り、顔が周りに見えないように隠した。
帰ろうとしている時に、願ってもないチャンスが訪れたのだ。
人気が無いにせよ、どこで警察が見ているか分からない。
酔っぱらいに肩をかけると、速攻寝落ちしてしまった。
口からは酒の匂いがモワッと漂ってきて、仮面の下で吐き気を催してしまいそうになる。
何とかそれに耐えながら移動させた。
路地裏のさらに細い通路に何とか運び込んだ。
あとは、いつものようにやるだけだ。
持っていた包丁を取りだし、滅多刺しにする。
振りかぶって刺す音は凄まじいが、雨の音でそれがかき消される。
指す度に、酔っぱらいの服が段々と赤く染まっていく。
しかし、刺し傷から血が溢れるだけ、それでは満足ができなくなった彼は、刺したところから腹をぐるっと1周させ、まるで手術のように腹を切り裂いたのだ。
出産でもするかのように腹を切り開かれ、中にはまだ動いている内臓たちがあった。
動いている内臓はその腹に収まりきらず、溢れてくる。
大量の血とともに、内臓が細い通路にばら撒かれた。
彼はその光景を面白がり、本体ではなく内臓を刺して、ぐちゃぐちゃにするという奇行に走る。
酔っぱらいは既に息絶えていた。
酒のせいで痛みをあまり感じず、殺人鬼に襲われたというのも分からずに死んだのだ。
全てを終わらせ、余韻に浸っていると、後ろから視線を感じた。
振り返ったが、誰もいない。
彼はフードと仮面を被ったまま、その方向へ歩く。
路地裏を出たが誰もいない。
雨で警察が狼狽えている可能性を考え、今のうちにその場から逃げることにした。
証拠と血は雨が洗い流してくれる。
死体が発見されたのはその1時間後だ。




